薔薇が語る言葉は
刀鳴凛
−序・とある夏の日−
甘いものが好きな人は愛情欠乏症だというよりも、愛情が欠乏している人が甘いものを好むらしい。
甘いものは心を落ち着けてくれるから愛情の代償として効果的らしい…
と、らしいばかりだがふと目を通していた医学雑誌にあるのを見つけて彼女を思い出す。
ローズペタルのジャムでのロシアンティー、疲れた時のハニーメープルミルクティーと紅茶に絡めた甘い物に手作りのスイーツ。
この時期ならブルーベリーパイか。
だが彼女自身が愛情薄い質では無い。良くも悪くも情は深い。
どうせ朝帰りだ、少し時間を潰せば馴染みの和菓子屋が早朝に店を開ける。
この時期なら初秋の花を象った物や涼しげなわらび餅か。
何れにせよ彼女が点てる一服を引き立てる事には変わりない。
ふと朝方迄開けている花屋に目をやる。
変わった形の鉢物や意外に香る薔薇がまだ店頭のバケツにあった。
蕾がまだ硬い薔薇を選ぶ。
何時からか彼女がたまに身に纏っている香りから薔薇がぬけていたと思い出す。
シャネルの№5と混じるそれが絶妙なバランスで彼女の存在を彩る事をどれだけ間近で確かめられるか。
それはもう己だけだとようやく要らぬ妬心を抱かずに済む事にホッとする自分に驚く。
和菓子に薔薇は妙な取り合わせだろうが、漂う薫りに心が動いた。
「この暁色の薔薇を11本」
彼女は気付くだろうか?
気障な台詞よりも雄弁なそれを…
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