第10話遺跡発掘記〜後編っ!〜
「本当、ムカつく」
フツフツと湧き上がる怒りが魔力を乗せて、柔らかな髪をザワザワと揺らめき立たせる。
「何よ」
年中イライラしているけど、これは久々に感じる本気のやつだわ。
「ロッドよっ。
依頼人の関係者だから大人しくしてやっているけど、ベタベタベタベタ触ってくるし、誘い文句がキモいのよ、ウザいのよっ!」
一応、後ろに控える面々には聞こえない程度に声は抑えているものの、これはいつロッドが攻撃呪文に吹き飛んでもおかしくないくらいの勢い。
「調査が終わって、依頼料をふんだくったらっ……。目にもの見せてやるわよぉ。
んふふふふふふ」
目が尋常じゃねーわ。
遺跡内の所々に、掘り残した通路や道具がまとめられたまま放置されている。
そこそこ長い年月を感じさせる道具に、薄っすらと刻み込まれているライオンとヘビのモチーフ。
上位貴族の紋章。
おかしい。
なんかおかしいぞ。
どんな理由で発掘調査をしてんのかは知らないけど、仮にも貴族の手が入った遺跡にこんな少人数な調査団が後続調査に入るなんて。
しかも、コイツらの立ち振る舞いは国が絡んでいるような気配がない。
そういえば、発掘内容を確認した時のリタの返事のキレの悪かったこと……。
あたしは先頭を歩いているから最後尾のアリシアとは完全に分断されている。
んー。
「ドガーさん」
歩みは止めないまま、あたしはスッとドガーの横に並ぶ。
「ちょっと聞きたいんだけど、ここの遺跡は何の発掘をしているのかしら。
随分深い洞窟みたいだけど」
「え。
ああ」
なんだ、その驚いた声は。
「うん。魔素を含んだ鉱石が出るんだ」
おおっと。
「ふぅん。
鉱石ね」
リタは、魔道具とか権力者の墓みたいなこと言ってたけど。
ネタ合わせくらいはしておいて貰いたいもんだわ。
「ちょっと休憩しましょう。
どこか休めるところがあるかしら」
通路を進み、少し開けた場所にドガーが腰を下ろす。
続いてブラック、リタ、ロッド……お?
「ロッドとアリシアがいない」
今来たばかりの薄暗い通路を振り返る。
「あら、困ったわね」
さして困ってもいないようなリタの声。
「ロッドってば、すぐにふらっといなくなっちゃうのよ」
洞窟内で?
ヤバいな、戦力の分断を図られた?
……。ま、いっか。
アリシア相当キレてたし、暗がりなんかに連れ込んだら死ぬのは間違いなくロッドの方だ。
「あんたの連れ……」
「シッ」
話出そうとしたリタを手で制す。
通路の奥。何かいる。
「リタ、
あたしの問いかけに、通路の奥に光の球が飛んでいく。
「オーク」
野人のようなシルエットが二体、剣を振るう。
ゆっくりと抜刀したあたしにドガーの
「魔道士がいなくて大丈夫なのか」
「どうにでもなるわよ」
オークに向かいダッシュをかける。
振るってきた一撃を身を低くしてかわすと、伸び上がり様に下から斬り上げるっ!
真横一文字に返す刃が、オークの首を弾き飛ばした。
2匹目!
「グオオォォ!」
踏み込まずに、すぎる一撃をかわし手元を狙い一撃を刺す。
取落す槍が地面を叩く音。
あたしの剣はそのまま深く、オークの厚い胸板の中の心臓を貫いた。
刺すような殺気に抜いた剣を背後に振りかざす。
オークの崩れ落ちる音を聞きながら見る先には。
ブラック。
コイツ、なんか正体不明だわ。
「強いな」
ドガーのちょっと引いた声。
「護衛にはいいでしょ。
うちの連れはこんなもんじゃないわよ」
にこりと笑ってやる。
「目的地はもうすぐだ」
休憩もそこそこに、一行は再び歩き出す。
さてさて、何が出ることやら。
ズドゥゥゥン。
遠くで、下っ腹に響くような低い音が鳴る。
「なっ。なんの音?」
「雷でも落ちたんじゃない?
雨、降ってたし」
ビクッと体を震わせたリタに、あたしはチラリと視線を合わせて微笑んだ。
きっと落ちた、
「あった」
掘りっぱなしの突き当たり。
ロープが何重にも張り巡らされて、行く手を
ドガーの視線の先にあるのは、土の壁から手のひらほどの断面を出す蒼く澄んだ石。
「あれが、
呟くリタの声。
は?
「ちょっと待ちなさい」
あたしはドガーに待ったをかける。
「
完全天然物で、素晴らしい治癒能力を秘めるコイツは、闇市に流れたらいくらの値が付くか想像もつかない。
「なんかおかしいと思ったのよ。
あんた達、盗掘してるわね」
ヒュッ!
空気を切る音とともに、黒い影があたしに向かって刃を振るう。
腰の
相変わらずの無表情。
そのままブラックの脇腹に蹴りを叩き込むあたしの足を飛びずさりつつかわし、間合いを取る。
「ブラック。
ドガーの冷たい声にブラックは眉ひとつ動かさないが、あたしへの殺気は激しさを増す。
まだ、気になることがある。
なんでここを掘り進めていた上位貴族の一団は、目の前の
あたしの背後の
「
リタの力ある言葉に、指先から伸びる氷の帯。
カッ。
蹴り上げた足元の小石が、氷の帯に絡め取られた。
帯を追って走り出したブラックに、あたしも正面からダッシュ。
振りかぶった剣が合わさる、まさにその時。
「
巻き起こる爆風が、その場にいた全員を行き止まりの壁に叩きつけた!
「んふふふふ」
ヤバいのが来た。
抑えきれない魔力に、柔らかな長い髪が意思を持ったように揺らめく。
左手には真っ黒に焦げたロッド。だったと思われるもの(笑)
なんて、笑っている場合じゃない。
正直言ってこの状況。あたしも一緒くたに吹っ飛ばされかねない。
怒り最高潮。
整ったアリシアの顔が悪魔の微笑みを見せる。
「
「どわわわあぁぁ!」
全員が一致団結して身体を反らす。
大きなつららが土壁を貫いた。
「はっ!
あたしの
リタが壁を振り返る。
「
アリシアの注意がそれた一瞬。
団子の中から転がり出たあたしに向かい、アリシアの鋭い殺気が飛んでくる。
「
「あたしだって!」
これが
ブレが出るから。
アリシアなら容赦なく狙ってくると信じて飛び出した。
殺されかけてるとも言うけど……。
「んで、どう思う?
あたしの問いかけにアリシアの視線がチラリと動く。
あたしたちはかつて一度だけ本物の
あの時の包まれるような、癒されるような暖かさは微塵も感じない。
「
ていうか、なお悪い。
あれじゃない。まさにアイツの言ってた」
あたしたちの視線が宝珠》オーブ《に重なる。
「
「ふぅ」
アリシアの小さなため息。
「
女二人なら簡単に口封じできるとでも思ったの?
依頼料も払うつもりなし、あたしに手を出そうとする。
……死にたいの?」
「とりあえず、お役人に突き出せる程度にしといてよ」
目が完全にイってるって。
パァァ……。
そんなあたしたちの目の前で、魔石の欠片が光を放ち出す。
「リタ!
離れて!」
なんとも言えない〈イヤな感じ〉に言葉が口をつく。
唯一何かを感じたのか、ブラックがリタの腰を抱えてドガーの襟をひき飛び出してきた。
「グルルルルッ」
数匹のワーウルフが飢えた眼光をあたしたちに向けてきた。
「召喚した」
「発掘を途中で断念するわけだ。
自分の国も滅ぼしかねないわね」
アリシア言葉をあたしが継ぐ。
「あとでルフセンドルフに連絡してあげましょう。
とりあえず今は。
アリシアの力ある言葉が電気の
「ほら、走るのよ!」
ロッドを担いだドガーを始め、全員を追い立てる。
最後尾はアリシアとあたし。
チラリと振り返る魔石の欠片が、また輝きを増していた。
遺跡の出口から飛び出し、振り返ったアリシアが両手をかざす。
「
着弾する直前
「
大地の壁が入り口をふさいだ。
グオォォン。
くぐもった爆発音が、内側から壁を溶かし接着させる。
その中に、わずかに耳をつく
ブラック!
抜刀した刃が、アリシアの背後を狙う。
キイイィィン。
「あたしを忘れちゃ困るわね」
合わさり
だってね。
「
イラッとしたアリシアの呪文がかなり深くに落とし穴を掘り、盗掘犯たちの姿をかき消した。
「埋めてやる」
「お役人に突き出して、いくばくかの礼金を取った方が利口だって」
あたしの会心の説得はとりあえずアリシアの心を動かすことには成功したのかな。
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