第6話令嬢救出記〜後編っ!〜
うじゃうじゃと邪魔なゴブリン達がアリシアの魔法に次々と吹き飛んだり、凍らされたりして行く中で、あたしは剣を構えて獣人と相対する。
コイツは……。
「身代金は持って来たか?」
「見ての通り、手ぶらよ。
目的は
わざと大振りに振るった剣を獣人の剣が弾き飛ばしてきた。
金属の擦れ合う耳障りな音。
弾かれた剣を流れに逆らわずぐるりと回すと、手元に引き戻す。
そのまますくい上げるように獣人の手元を狙ったっ!
「はっっ!」
驚きの混じった獣人の声。
キンッ!
ギリギリの所であたしの振るう剣を弾いた。
ふーん。
ザッッ!
あたしは後方に大きく跳ぶと剣を突き出すっ!
手首を捻り小さくすくい上げた剣に、絡め取った獣人の剣が宙を舞った。
「
前触れなく、頭上から響く男の声。
「
アリシアの風の刃が頭上のつららの槍を打ち砕いた。
「こらぁっ!
「あたしが砕いてやんなきゃ、ソリス串刺しよ」
「やり方考えろって話し」
ビシッと剣で指す。
「悪かったわね。次は溶かして水浸しにしてあげるわよっ!」
ギッッ。と睨み合う。
「貴様らぁっ!
ダグラスの回し者かぁっ!」
「大体ゴブリン抑えてやってたのに、
そう、氷のかけらが降りそそぐ中森に逃走された。
けどさぁ。
「
むしろ邪魔してんじゃないのっ!」
「話を聞けえぇぇ!」
上を見上げると塔の最上階から人影が顔を出している。
「ゴブリンどもを倒したからといい気になるなぁっ
この塔の各階には……」
大声を振り絞り、わめき立てる男を見上げていると、アリシアが肩に掴まるように促してきた。
「
アリシアの力ある言葉に風が
「そんなにでかい声出さなくても聞こえるわよ」
あっという間に五階分の高さに達し男と同じ目線で話をする。
「はっ。反則だろっ、正々堂々一階から徐々に勝ち上がり、傷を負い、仲間に助けられっ。
仲間の死を乗り越えて、最上階にたどり着き、ラスボスと血を血で洗う決戦に……」
「傷負っても助けてくれなそうだしな」
アリシアを覗き込むあたしに、アリシアがニヤリと笑う。
「ソリスの死体なら踏みつけて。あれ、乗り越えてだっけ? ラスボス決戦
「階段登れっ。順序守れっ」
身を乗り出す男にバッサリと一言。
『めんどくさい』
「
風を
螺旋の風に弾かれたあたしの身体が、弾丸の様に男めがけて繰り出された。
ゴリュッ。
あんまり聞いたことない音を立てて、ブーツの底が顔面に
「ともあれ、猫。じゃなかった、フィーリア嬢を連れて帰りたいんだけど」
勢いついて後頭部から着地する男の顔の上で、とりあえず声はかけてみるものの返事は期待できそうにないかな。
風の力を調整しつつ、ふわりと室内に降り立つアリシアが早速物色を開始する。
「フウゥゥゥッッ!」
部屋の奥。天窓からの柔らかな光が差し込むすぐ横で、一抱えほどの大きさの檻に猫が毛を逆立てて
一応蒼い瞳。黒毛。
「どう思う?」
「わかるわけないでしょ。
あからさま過ぎてなんだけど、なんか引っかかるのよね。」
檻を覗き込むあたしに返事はしつつも、物色する手は止めない。
「あの獣人、威勢のいいこと言ってた割に剣がお上品だったんだよね。
剣技の学校では成績優秀って感じだけど、実践向きじゃないって言うか。
パワーもスピードも文字通り
「あんなナリでお坊ちゃん?
ダメだ、金目の物が何もない」
「探し物の目的がおかしいから。
お坊ちゃんじゃない、剣を合わせててわかったけどアイツたぶん女だよ」
「女?
胸とか真っ平らだったじゃない」
アリシアが思い出すように続ける。
「まぁ、最近いろんな趣味の人がいるし。
獣人がみんなボンキュッボンな体型だと思ってたら、クレーム来るわよね」
「どっからどんなクレームが来んのよ」
詳しく突っ込みたいところだけど。
「
突如巻き起こる突風に身体が巻き上げられるっ!
しまったっ!
目の端に窓から飛び込んで来る黒い影を確認しつつ、身体を捻りかろうじて足から壁に着地する。
「きゃぶっっ!」
ちなみにアリシアは見事な顔面強打。
黒い影。獣人はそのまま猫の入った檻を抱えこんだ。
行かせない!
落下し様に腰のダガーナイフを撃つ。
一撃は獣人の腕を貫いて、取り落とした檻が床に転がった。
イラッとした視線があたしをとらえる。
一瞬、逃げに打つか猫を取るか迷いを見せるが命取りっ!
「
アリシアの怒りの一撃。手加減なしの雷が
ズガアァァァンッ!
焦げる石床の中心には、あたしの放ったダガーナイフが小さな黒煙を上げていた。
「かわされた?」
憎々しげなアリシアの一言。
「イヤ、引き抜いたナイフが避雷針になったみたい。獣人自身は落雷の勢いに弾き飛ばされて窓から落ちたよ」
檻の中の黒猫が、獣人の後を追いたげにカリカリと床を掻いていた。
「
アリシアの力ある言葉に、檻の中の黒猫がおとなしくなる。
あたし達が近づくだけで、威嚇と爪の攻撃が止みやしない。
「さっきの獣人の態度からして、この猫がフィーリアと見て間違い無いかもね」
檻を抱えたアリシアが、あたしの後を追って来る。
「なんか防御が甘いっていうか……。
屋敷の人間ならここまでたどり着けないって油断してたのかな」
意識を失ったままの魔道士を縛り上げ、塔を降りる準備をする。
「って、ソリスだけでも重いのに、さらに男一人に猫も抱えて空飛べないんだけどっ」
「じゃあ往復。階段使えないし」
「落下」
「却下っ!」
「居ないわね。アイツ」
塔の下をしばらく探索したけど、獣人の死体はおろか血痕も無い。
「風の呪文をいくつか使ってたし、飛んで逃げたのかもね。
何も無いところから炎や氷を生み出すのと違って、風の呪文は習得しやすいし」
ダグラスさんの屋敷はバタバタと騒がしかった。
屋敷の人間にマイルズさんを呼んでもらい、フィーリアの確認をしてもらう。
「おおっ。フィーリアお嬢様。
……。フィーリアお嬢様?」
あ。アリシアの呪文で麻痺ったままだった。
チラリとアリシアと目が合う。
「麻痺の魔法がかかってるわっ。
酷いっ! きっと誘拐犯のせいねっ」
わざとらしい大声に、アリシアがぐるぐる巻きにさるぐつわの魔道士を引っ張り出した。
「はっっ。
ランドール、様」
マイルズさんの信じられないものを見た。とばかりの気の抜けた声。
え?
「知り合い?」
「ランドール様はダグラス様の弟君に当たります。
と、とりあえず中へ」
最初の客間に通されると、先客がソファーに座っていた。
肖像画にいた、栗色の髪の女性。動きやすそうなパンツスタイルに剣を携(たずさ)えている。
「初めまして。ダグラスの娘のユーリアです。
私もフィーリアの奪還に向かおうと思っていたのですが……。
今回はあなた達のお陰で助かりました」
にっこりと微笑む瞳の奥が、一瞬イラッとした光を放つ。
ふと、塔から落ちた獣人をフィーリアが追いかけようとしていた事、あの時の獣人の視線が引っかかる。
あたしが気づいたって言うことは。
「ユーリアさん?」
当然アリシアも気づいた。
「尻尾。まだ生えたままよ」
その瞬間、急に抜刀したユーリアがアリシア目掛けて剣を下ろすっ。
割って入ったあたしの刃が太刀を受け、捻る手首で剣を巻き上げた。
「さっきもおんなじ手に引っかかったわね」
分厚い
「
「
さすが本職。ユーリアの呪文が完成する前に、隙間を縫った氷の帯が彼女を凍らせた。
「ななっ。何事ですか?」
側で一部始終を見ていたマイルズさんが事態について行けずにオタオタしだす。
「理由は本人に直接聞いて頂戴。
今回の真犯人は、ランドールって魔道士と、ユーリアお嬢様の共謀って感じね。
きっと左腕にあたしのつけた刺し傷があるはずよ」
ダグラスさんを含め、関係者立ち会いのもとユーリアの腕の傷が確認されて、ランドールの部屋からは変身用の魔法薬のレシピと、残りの薬が発見された。
「なぜこんな事をしたっ!」
ダグラスさんの声からは犯人が身内だった憤(いきどお)りがひしひしと伝わってくる。
「お父様が悪いのよっ。
跡目をっ跡目をフィーリアに継がせるなんて言い出すからっ!」
なんだ、原因は跡目争い……跡目。
猫に会社を継がせるつもりだったのか? このおっさん。
なおも言い争いを続ける親子を余所に、目配せをしたあたしとアリシアは客間を後にする。
バカバカしすぎて話にならない。
「マイルズさん。依頼の成功報酬はどうなってるのかしら」
廊下に待機していた執事長にアリシアが声をかける。
「こちらに用意してございます。
この度は大変お世話になりました」
「どういたしまして。
フィーリア時期代表によろしくね」
アリシアの一言に、マイルズさんがなんとも複雑な顔をみせた。
太陽は
「お昼食べ損ねたわ。
もとでもあるし、パーっと贅沢にいきますか」
「いいわね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます