第65話 実習の朝
月曜日の朝、今日も朝から実習だ。目を覚まして顔を洗い、歯を磨き、髪を整えて、パジャマを脱いでスーツに着替えて軽くお化粧をして、朝ごはんを食べて家を出て駅に向かう。
実習が始まって間もない頃は、実習開始時間に間に合う電車の2本前の電車に乗り、30分ほど余裕を持って登校していたが、最近は4本前の電車に乗ることが多い。実習開始時間の1時間ほど前に学校に到着する電車に乗ると、出勤ラッシュから逃れられて割と楽に登校できる。慣れないヒールだと立っているだけで割ときついから座れるのは本当にありがたい。
とはいえ、楽をする為だけにわざわざ早起きしているわけではない。私は前から3両目の真ん中の扉から電車に乗り込む。
「みなちゃん、おはよう」
「未羽君、おはよう」
今日もいつも通り、未羽君はこの電車に乗って来た。未羽君と並んで座りお喋りをしながら電車の中の時間を過ごす。この時間は部活の朝練がある生徒たちが乗る電車の1本後の電車で、普通に登校する生徒はまず乗らない電車だから、こうして未羽君と話すことができる。
「じゃあ、みな先生、行こうか」
「はい。未羽先生」
電車が学校の最寄り駅に到着すると、普段の関係ではなく、実習生と指導担当の先生という関係に切り替わる。私は未羽先生の隣を歩いて電車から降りる。普段なら、手を繋いでくれるが、この関係の時、未羽先生は絶対に私と手を繋いでくれない。
少し、寂しい気もするけど、これでいい。こうしないと、本当にメリハリが付かなくなってしまうから…きっと、未羽先生も私と同じで、こうやってメリハリを付けないとどこまでも普段の関係を持ち込んでしまう。と思っているのかもしれない。
それは、未羽先生のためにも、実習生としての私のためにもよくないことだろう。だなら、きちんとメリハリを付ける。お互いの将来のために…
電車から降りて未羽先生とはあまり話さない。ただ側を歩くだけでたまに、業務的な話をしたり、朝練で学校の周りを走り込みしている生徒に一緒に挨拶をするくらいだ。
「みな先生、今日も頑張ろうね」
「はい。未羽先生」
学校に到着して正門を潜る前、未羽先生は毎回笑顔でそう言ってくれる。私は未羽先生の笑顔に笑顔で応える。毎回、必ずこうやって頑張ろうね。と未羽先生に言われて、ますますやる気が出て私は1日を頑張って過ごすことができる。
今日も頑張れる。我ながらちょろいと思うけど、未羽先生のその一言が、私のやる気をますます引き出してくれる。今日も頑張ろう!と自分に言い聞かせて私は学校の正門を未羽先生と潜る。
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