先生、なんで私を見捨ててくれないんですか?

りゅう

第1話 あの日、私は恋をした。





 私は今、どうしようもなく恋をしている……

 相手は4歳も年上の男性叶うはずのない恋だ。大学生の相手から見れば私は妹より年下の高校生でしかないのだから……


 「みなちゃん、今日もお疲れ様」

 「未羽君、お疲れ様。今日もありがとう。よかったら今日も夜ご飯一緒に食べよう…」


 私の好きな人…4歳年上の男性の未羽君に言う。私と未羽君が出会ったのは昨年度のことだ……




 私と未羽君の初めての出会いは私の部屋でだった。新しい家庭教師の先生として未羽君は私の部屋にやってきた。未羽君の仕事は私に勉強を教えることだけだった。それなのに……


 「娘さんの気持ち考えたことありますか?この前…診断結果が出てから、あの子は変わりました。死にたい。って言って…僕と勉強する時だけが唯一楽しい。って…何度も何度も口にするのですよ…」


 家庭教師の時間が終わると未羽君は当然、家に帰る。未羽君を玄関まで見送ってからいつものように自室に引き籠るが、飲み物が欲しくなり自室を出て台所に向かうと、リビングから未羽君の話し声が聞こえてきた。チラッとリビングを覗くと、未羽君が真剣な表情でお母さんと、お姉ちゃんと話をしていた。


 未羽君とお姉ちゃんは大学で同じサークルに所属している。お姉ちゃんが一つ年上で未羽君の先輩である。そんな未羽君が真剣な表情でお母さんとお姉ちゃんと何かを話している。


 「お母さんと先輩はみなちゃんのこと…諦めている感じがすごいするんです。みなちゃんにだって目指してることがあって頑張っているんです。なのに…みなちゃんが数的処理に不向きだって知能検査で結果が出てから…急にみなちゃんに優しくして…ただ、優しくされるのがみなちゃんにとってどれだけ辛いことかわかっているんですか?」


 私が思っていたことを全て、代弁してくれていた。お母さんとお姉ちゃんに厳しくされていたのに…数的処理に障害があると判定された途端、腫れ物に触るように優しくなって…私の中に生きづらさを植え付けていた。


 「みなちゃんは数学の先生になりたい。ってずっと言ってるんです。僕なんかと同じ道に進みたいって言ってくれています。どれだけ難しい道のりかはみなちゃんは理解しています。それでも、数学の先生になりたいって…頑張っているんです。どこでもいいから大学に進学くらいしろ。なんて言わないであげてください。あの子には夢があります。生きづらさを抱えているあの子の夢を否定しないであげてください。あの子は頑張れる子です。ハンデはありますが…頑張れる子です。あの子が夢を叶えるにはきっと…途方もない努力が必要です。それはあの子に伝えました。それでもはっきりあの子は頑張る。って言いました。だから、僕はあの子の夢をサポートしたい。だから…今から数学を諦めるなんてことはさせたくないです。大学に進学できるラインの学力を身につけさせることも心掛けます。でも、数学を捨てろ。なんて言わないでください」


 きっと…お母さんとお姉ちゃんに数学は捨てて他の教科を教えるように言われたのだろう……必死になってお母さんとお姉ちゃんに頭を下げて嘆願する未羽君を見て私はかっこいい。と思ってしまった。



 

 私なんて、家庭教師のただの生徒…そんな生徒のために必死になってくれる未羽君は将来、必ずいい教師になる。そんな未羽君に憧れる。だから、私も未羽君の後を追いかけたい。未羽君みたいな教師になりたい。



 

 そう思っていたのに、ある日突然病院に連れて行かれて検査をされた。しばらくして結果が出ると、数的処理に問題がある。数学とか物理とかの科目は…難しい。と言われた。それでも、数学の先生になりたい。と未羽君に私は言った。


 未羽君は私に頑張れる?と聞いた。私がうん。と答えると「並大抵じゃない努力を一緒にしよう。他の人と比べてみなちゃんは劣っている。その事実を受け止めよう。受け止めて、向かい合って、並大抵じゃない努力をしよう。みなちゃんは誰よりも努力して誰よりもできない子の気持ちがわかってあげられる教師になるといい」と私に言ってくれた。


 努力をしろ。ではなくて、一緒にしよう。誰よりもできない子の気持ちがわかってあげられる教師になればいい。その言葉が、私にはすごく嬉しかった。




 「みなちゃんに数学は諦めさせません。いいですか?」


 未羽君がお母さんとお姉ちゃんに尋ねるとお母さんとお姉ちゃんは何も言わなかった。いや、言えなかった。お母さんやお姉ちゃんよりも…私の将来を考えていてくれた未羽君に何も言えなかった。



 

 好き。大好き。私のこと、ちゃんと考えて私に一緒に頑張ろうって言ってくれていた未羽君が大好き。冴えない感じの普通の男の子、大学生なのに髪を染めたりしてなくてどこにでもいそうな感じの男の子、なのに…未羽君はめちゃくちゃかっこいい。私はそう思う。


 好きになってはいけないのに…好きになってしまっていた。4歳も年上の男性のことを……





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る