異国から

@dsmfoe9

第1話

  雨のあがる間際、遠くにいる君へ贈る言葉。


 それを見つけるために、がむしゃらに勉強して、大好きだと伝えたかった。


 窓のサッシを伝う雨粒は、いつの間にか消えている。時間が経つのはとても


 早いのに、君のことを思うのはもっと短くなる気がした。


 どうしてですか、と私は最初の一文を滑らせる。


 なにを、だれに、という明確な言葉を投げかけずに、自分でも卑怯だと思う。



 

 君を知って、私は変われる気がした。普段のものぐさな私からはとても想像


 できないくらいのスピードで、人を好きになっていった。


 「君はどういう人が好きですか。」


 次の文はそれに決めた。


 悶々とした気持ちは雲に似ていて、けれど、雲のほうがどんより苦笑いしている。


 


 私が君を知ったのは、インターネット上だ。


何気なく見つけた掲示板、ひとつの自己紹介文を見て思わず興味をひかれたのだ。


「ゲームしませんか。ひまなので」


私もちょうどひまだった。


それからというもの、君と遊ぶそうになり、いまではくだらない話ばかりするよ


になった。


君は高校三年生で、私は高校二年の女。


私よりずうっと頭がいいことも、知った。


「町を出たら、東京行きかな」


いつものチャット、変わるはずのない与太話にひびが入る。


「なんで?」


「俺、大学行くだろ? 母ちゃんが行けってうるさくてさ」


画面の前で笑う君の声が、少し高揚している。


嬉しいのかな、私と離れることって。


君はいつもそうだよね。言いたいことはスパッと切り出して。


言いたいことが言えない私は、すごく惨めな気持ちになる。


君が工学部に行きたいといったとき、その理由を君は覚えてるかな。


女の子がいないから、だって。


女の子がいればもっと楽しいキャンパスライフになるよ。


そんなこと、言わなきゃよかったのに。


君を励ましてあげたかった。




ペンは急ぎ足で、思うように気持ちをまとめられないでいた。


あなたを喜ばせる言葉を探して、ずっとその理由がないことに見向きもしなかった。


ふと、空を見上げたのは、雲の合間に光が差していたから。


淡く。憶病に、光って見せる。


ああ、私って自分のこと見えてなかったんだ。


やっと気づいた。


君を想い、いつしか時が流れる。


でも、未来を歩んでいるのは君だけじゃなかったってこと。





五年の月日が経つ。


日本から離れ、私は今この地で独り暮らしをしている。


君を想うことばかりで、自分が頑張ってたことを低く見積もっていた。


君よ頑張れと思うばかり、自分を君から遠ざける気持ちに苦しめられて。


「私は、すこし自分のことが好きになったよ。」


「君のことを、もっと好きになりたい。」

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