思いつき短編集

柏沢蒼海

夢草

 どうもね、こんな話をするのはおかしいとは思うんですが……良かったら聞いてくださいよ。


 『明晰夢』ってご存じですか?

 なんか匂いとか音とか、細かい部分のディテールがばっちりな夢のことなんですがね。


 私はね、そういう夢をよく見るんですよ。

 ――だからなんだって?


 実は、私の悩みというのは夢のことでしてね……



 では、試しに夢の話をひとつ。


 目を覚ますとですね。

 自分のよく知る部屋、いつも寝ているベッドに、いつも見上げている天井。よく知る家族や友人、いつもと同じ1日が始まるんです。

 そして、何事も無く終わる。


 またベッドに横になって、瞼を閉じる――



 ――えっ? 夢の話じゃないのかって?

 いえいえ、夢の話ですよ。昨日を振り返ったわけじゃないんです。


 寝て、起きて、また寝て、起きて……リアルな感覚というのは、本当に厄介なもので、それがあたかも本当の出来事のように記憶に残るんですよ。


 夢は起きたら忘れると言いますよね?

 でも、私は2歳の頃に見た怖い夢を覚えていますし、先日見たコメディチックな夢も覚えています。


 「インセプション」って映画があったじゃないですか。

 あれって、嘘じゃないと思うんですよね。


 一時期、夢をコントロールしようと躍起になったこともありますし、夢と現実を区別するための手段も模索しました。


 ですがね、最近はわからなくなってきたんですよ。


 どっちが夢で、どっちが現実なのか。

 もしかしたら、現実なんて無いのかもしれませんね。


 良い夢も、悪い夢も、どっちも現実で――

 現実は、夢かもしれない。



 だから、私は諦めたんですよ。

 夢をどうにかしようとするってことをね。



 最後まで付き合ってくれてありがとう。

 あなたの夢が良い終わり方をすることを願っています。

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