便りはいつも不時着_side;receiver

言端

Envelope

 駅徒歩十分未満。アパートとマンションの間みたいな雰囲気の集合住宅、三階建ての二階最奥。推定、心理的瑕疵物件。良くも悪くもない会社で高くも安くもない給与を得、もうじき世間一般で言うところの曲がり角に差し掛かりつつも独身だが、そんなことは心底どうでもいいと思っている女、すなわち私の城である。

 城と呼ばわるには少々恥ずかしい有様だが、物件の吟味が面倒かつ、趣味にそこそこ金がかかるという理由だけで所謂事故物件への入居を即決してしまうような人間に、繊細さは求めないでいただきたい。事故物件というのは、不動産屋の形容しがたい態度と、条件に対して相場を大きく外れた賃料から私がなんとなく想像しただけだから「推定」なのだが、住み始めて三年近くにもなるとあながち推定では済まなかったな、と思うこともある。しかし思うだけである。繰り返すが、そういう繊細さがあればたとえ「推定」であったとしても、こんなキナくさい物件にはそもそも入居しない。まぁそういうこともあろうな、しかし私は今それ以外のことで忙しいのだという一貫したふてぶてしさに亡霊(仮)も呆れ果ててか、それらしき出来事が起こっていたのもせいぜい最初の半年くらいだ。私の中では今や、ただのお得物件である。


 その到って平穏なお得物件が、推定事故物件だったことを思い出させた始まりの手紙は、ベランダに舞い込む桜の花弁のごとく、涼しい顔をして春にくっついてきた。

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