第48話 外来談話
ウツロと
診察時間も終わり、
診察室でコーヒーをすする科長・
「皐月、朱利ちゃんと夕真くんが、あなたのかわいい
黒水小鷹ははねた黒髪で大気を切り裂くように、悠々とする女医に向かって顔を寄せた。
「そのようね」
星川皐月はあいかわらず悠々としている。
「ずいぶん余裕だわね。かわいそうなウツロくん、彼女を人質に取られてさ、おまけに殺されるかもしれないってのに。まったく、冷たい伯母さんだわよ」
黒水小鷹は大げさに手を開いて、あきれるしぐさをした。
「わざとらしいわね、小鷹。はっきり言ってこの程度、試練にすらならない。もしウツロが夕真くんに敗北でもするようなら、わが家の敷居をまたぐ資格など、なし」
「はっ、甥っ子を試すだなんてねえ! あなたのこと、どうせ彼を
「もちろん、それも考えてるわよ。でも、まだ、まだなのよ、小鷹。ウツロはしょせん、まだまだ
「はあ、なんという鬼畜! ほんと、鏡月に同情したくなるわ。
「しかし、お父さまはわたしに何もできない。魔人と呼ばれた
「そうやって似嵐の家を乗っ取るつもりなの? 開祖・
「ふん、くだらない。わたしはね、小鷹、わたしが楽しければそれでいいのよ。いかにもいまっぽい生き方じゃない? そのためなら、なんでも利用してやるんだわ。閣下だろうと、あのディオティマだろうともね」
「ああ、おそろしい! 幼なじみのよしみで黙っておいてあげてるけど、本当にやる気なの? あれ」
「さあねえ、それも、ウツロ次第かな」
「また人のせいにして、とんだ
「そうよ、わたしは傀儡師。人形で遊ぶのが趣味なの。多いほどいい、人形はね」
星川皐月はずずっとコーヒーをすすると、カップをデスクの上に置いた。
「ただ、気になるのはやはり、
「あなたのためにじゃないわよ、皐月?
「父親の
「あれは出世のためなら手段を選ばない男、浅倉と同じく、閣下の寝首をかこうだなんて考えているかもしれないわ」
「元帥に征夷大将軍、身内にこうも危険人物がいると、気が休まらないわ」
「あら、楽しんでるんじゃないの? 少なくとも、閣下とあなたはね?」
「ふふっ、そう見えるかしら?」
「ええ、あなたは昔から、そういうやつだわ、皐月」
「したたかさでは負けるわよ、小鷹?」
二人はくつくつと笑いあった。
「いずれにせよ、龍影会に逆らうものは、ひとり残らず始末しなければならない。このわたしが、
「裁きの爪が首を狩りたがっているのね、ふふっ」
「皐月、万城目日和はウツロに近づいてきている。そっちのほうは、よろしく頼むわよ?」
「ええ、いいエサになりそうだわ、ウツロわね」
「甥っ子をダシに使うなんてね」
「楽しければなんでもいいのよ、わたしは」
「あなたの首だけはちょん切りたくないわねえ」
「嘘ばっかり」
魔性のようなせせら笑いが、閑散とした外来に響きわたった。
「ウツロ、万城目日和を引きずり出すのよ、わたしのためにね?」
星川皐月は静かに笑っていた。
だが、彼女はまだ気がついていなかった。
悪魔も道を開けるとまで呼ばれる彼女が。
実の娘である雅に、危機が迫っているということを――
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