第38話 黒い部屋
黒い部屋だった。
どのくらいの広さなのか、広さという
部屋にある
天を
鬼の爪を想起させる根は大地に食らいつくよう。
幹はといえば
この世とあの世の
人間に異能力「アルトラ」を植えつけ、悪意を
いったい何者で、何を考えているのか。
どこから吹いているのかもわからない風が、その
その動きは
明るいのか暗いのか、それすらもわからない。
ただその光は、一台のグランドピアノを照らし出していた。
ベーゼンドルファー・インペリアル。
フランツ・シューベルトのソナタ変ロ長調D.960。
音楽にこそなってはいないが、その
魔王桜への道を歩く旅人のように。
「来たか、
ふいに、男の口から言葉が
黒い部屋の一部が
「は、
浅倉喜代蔵。
ウツロへの試験を終えたばかりの彼だった。
ここは日本を影で
すなわち、トップである
「こちらへ。どうやら話は面白いほうのようだな」
光の加減で顔はよく見えないが、総帥は少年のような、しかし老人のようでもある声で語りかけた。
「さすがは
浅倉喜代蔵は
彼はしばし、ウツロのことを総帥へ話した。
「ほう、さすがは
「それもこれも
ロッキングチェアが軋んだ。
「やめておけ鹿角、すべては終わったことだ。そうであるな?」
総帥は浅倉喜代蔵に顔を向けた。
「は、これは失礼を……」
浅倉喜代蔵はギョッとして
体が寒くなって、
「ウツロのことはわかった。わが息子のほうはどうだ?」
「
浅倉喜代蔵はハンカチで顔をぬぐいながら答えた。
「わが椅子を
「は、さくら
「
「はい」
「ときに鹿角の、お得意の
「はは、
浅倉喜代蔵は体を震わせた。
火牛計とは彼が用いる戦術のひとつで、この場合、さくら館にトロイの
相手を混乱させ、
「遊び心か。その遊び心とやらで、わたしの息子を傷つけるなよ?」
「め、
「よいよい、わかっておる。ただの
「はは……」
浅倉喜代蔵は心臓が
手の上でもてあそばれている感覚が、彼の総帥に対する恐怖感をあおらずにはいられなかった。
総帥はピアノの上に置かれた端末のディスプレイをのぞき込んだ。
そこには南柾樹の動く姿が。
「会いたいものだ、早く。わが子にね」
進歩した機械朗読のような
(『第39話
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