復讐

飯田三一(いいだみい)

復讐

おじさん。私だよ。今日はね。またエンコーしてるんだ。

おじさん。ねえ。おじさんはさ。こんな私嫌でしょう?

おじさん。だけれどね。私はね。お前が嫌いだからやってるんだよ。

おじさん。だからね。これは復讐なんだよ。きっと。


7歳の頃だった。まだエンコーもおろか、性行為の存在さえ知らなかった私は、突然おじさんに誘拐された。そのまま近くの家に連れ込まれて、服を強引に脱がされてそのまま私のバージニティーは奪われた。

痛くて、怖くて、とても嫌な感じだったのは確かに覚えている。

知らないおじさんの唾液に包まれて、髭の感覚がお腹の辺りに触って痛かった。股の隙間におじさんの突起物が侵入し激しい痛みが襲う。その強烈な痛みに私は泣いてしまった。口に手を当てられ、声を塞がれてしまう。そのままおじさんはなおも私の隙間に攻撃を続け、その中に暖かい液体が残される。中の痛みはその液体がコーティングするように抑えてくれたが、隙間の入り口は依然痛みが続き、それを抑えるものはなかった。痛かった。泣いて、泣いて謝った。もう許してくださいと許しを乞うた。しかしそのおじさんは、男女の性を理解して、恥じらいを覚えるようになった幼体を、容赦なく見回し、恥じらいを見せて局部を隠そうとするとそれを払い除け、強引に股と腕を開かせた。とても満足そうな目をしていた。今でもその目は忘れられない。

だがそれでは終わらない。

まだ痛みの続く隙間を、おじさんは自身の突起物でひたすらこじ開け続けた。だんだん痛みが麻痺して、異物を逆流して詰め込まれる感覚だけが残る。気持ちが悪かった。私の中に残される液体は抜かれるたびに溢れ、こぼれ落ち、お漏らしをしたような感覚に陥る。それも気持ち悪かった。

何回されただろうか、後半になるにつれ痛みは更に麻痺し、段々と体が火照り、心拍数が上がり、息切れした時みたいな幻覚に近い視界のフラつきを感じて、そのまま気を失った。

起きると夜の公園に居た。夢だと思った私は、その恥ずかしい夢の事を誰にも打ち明けることは出来なかった。


私がそれから性について知るのは5年くらい先のことになる。

私の隙間から突然血が垂れてきた時、所謂初潮がきた時だった。うちは性に寛容な家庭だったこともあり、まず初めにそのことを祝い、初潮以降の月経の周期の話、貧血などの症状の事だったりから、これからは赤ちゃんができてしまう行為があると言われ、保険の教科書の最初の方にある恥ずかしいページみたいなのとか、それからすること。つまりセックスのことを丁寧に教えてくれた。その時、私は7歳の頃の強烈な夢を思い出し、親が淡々と語るものだからその夢は恥ずかしくないんだと思って夢で見たことあると家族に言った。おとうさんはやけにそのことを詮索して、それに応える度に、おかあさんとおねえちゃんの顔色が悪くなったのをよく覚えている。

「…それ、誘拐だよ…強姦だよ…」

涙と一緒に溢れ出たおねえちゃんのその一言を皮切りに、私の初潮のお祝いムードは一気にお通夜ムードに変わってしまった。

そのまま警察に言って、夢のことを警察官に話した。そこから家族の仲はどんどんと悪くなっていってしまう。連日聞こえる怒号は、いつも私のことだった。私のせいで、おねえちゃんは反抗期になってしまって、私の顔を見ると途端に表情が崩れて泣きそうな顔になりながら逃げられてしまう。

私はこの家で、家族全員に愛されながら、その愛故に孤立した。


夢で見たおじさんに会った。警察署で会った。私はその時、全てを理解した。私が打ち明ける直前に説明された「無理やり性交されそうになったら逃げるか助けを呼ぼう」とか「知らない人にについていっちゃだめだよ」と学校で再三言われたこととか家族仲が悪くなったこととかそういう色々なことをひっくるめて理解した。私はこのおじさんに人生を狂わされ続けるんだろうなと理解した。


家族が私の顔を見てくれなくなった。きっと気まずいのだろう。おかあさんは私の顔を直視しないまま、私にスマートフォンを与えてくれた。制限が沢山かかっていたけれど、私は一生懸命今の私の置かれる状況について知ろうとした。そこで、世の中にはロリータコンプレックスと言われる性的趣向があることを知った。そして、処女、処女膜、セックスに対する価値観、子供ができることの深刻さ、そんな色々を知って、やっと家族を理解した。私はどうしたらいいかわからなくなってしまった。


中1の夏おかあさんが自殺した。秋におねえちゃんが出ていった。おとうさんは酒に溺れるようになった。全てあのおじさんのせいだ。全部全部、おじさんのせいだ。おじさんに仕返ししたい。おじさんの嫌がることだったらなんだってしてやる。そう思ったそんな中2の冬だった。


会って、直接殴って、殺してやりたかったが、彼はあいにく檻の中。当然私は外だし、犯罪を犯したところで、少年院に連れて行かれるのが関の山だ。ならどうする。そこで思い付いたのが、私がおじさんの嫌いな私になってやろうという考えだ。そのための情報収集。おじさんに会って、話して、嫌なことを、なってほしくない自分を、全部吐いてもらおう。

「お久しぶりですね」

少女性からの反抗心から、全く使う筋合いはないが敬語を使う。

「大きくなったねえ」

面会室。目の前に大柄なおじさんが居て、今だに私の二倍の大きさはある。分厚い透明な板もあるし、後ろには警官もいるが、それでも私はこのおじさんから向けられる性的な眼差しに早くも恐怖感を覚えてしまった。吐き気もする。頭の中を死んだおかあさんの記憶と酒に溺れるおとうさんの記憶、こいつとのセックスの記憶が駆け巡る。嫌な記憶だ。こいつから連想される全てが嫌な記憶だ。けれどそれを打ち払ってでも、こいつに復讐したい。

「あ、あの…」

「可愛いねえ」

「ひっ」

思わず声を上げてしまう。小さな声で切り出した言葉が聞こえなかったのか、こいつはそんな言葉を発する。

「まだ俺の大好きな可愛い女の子だ」

何をいっているんだこいつは。

「お前はロリコンなんだろ。私はもうあんたが好きな子供じゃないよ」

「そう言って否定するのも可愛いな…俺はまだ、君のことを性的な目で見れるよ。安心してね」

「…」

舐め回すように眺められた時の目を思い出す。いや、その時と同じ目をしている。

「その膨らみかけの乳房、まだ細そうな髪質、細いふともも、四肢、当時の姿と重ね合わせると…」

「やめろ!」

思わず大きな声が出てしまう。

「…フフ…これは失敬」

まともに対話したのは今日が初めてだったはずなのだが、割と私は普通に喋れている。

「…お前は少女っぽい体格だったら誰でもいいのか?」

「いやいや、ニセモノはわかるんだ。見極める目にだけは自信があってね」

得意げに言っているが、全く褒められたことではない。

「…例えば、大人っぽい体格の子供とかは?太ももが張ってて、巨乳だったら?」

「それは1番嫌だね。少女性を全く大事にしていない」

お前のために少女やってる少女なんてこの世に1人として居ないと言ってやりたかったが言い止まる。

「そう。ありがとう」

一言置いてもう去る。こいつの嫌いな私になってやれば、復讐になるのではないか。私が少女にして大人の女性的な体格を得ることは今からでも出来る。ネットで調べた。牛乳とかそんなちゃちな方法ではなく、お金もかからず、より的確なものを探した。

そこで見つけて、手を染めたのはエンコーだった。セックスを成徴期に沢山すると、体の成長が早くなり、胸やお尻が大きくなりやすい、といった情報からだった。確かに私の体の成長は他の子達よりも早い気がする。おじさんの精液で汚されたおかげで、成長が早くなった気がする。そんな根拠のないことから、私はセックスをした。仕事以外何もしない親父を撒くのは容易い。毎晩、毎晩、腰を振った。振り下ろした。ピルをあるおじさんと偽って手にし、気持ち悪くなりながらも、ナカに、膣の奥、男性器が届く奥の奥にまで、満遍なく精液で汚した。セックスの恨みをセックスで達成しようとする。それを私は初めから愚かしいことだと気づいていた。けれど、それよりも何もかも、恨みが勝るのだ。一際おじさんが嫌いな女になって、それで出所した頃に殺すんだと。今は思っている。

おしまい。


「そのおじさんとやらはまだ檻の中なのかい?」

「うん」

「かわいそうに…」

裸の男が裸の私を抱擁する。

「こんなに胸も大きくしたんだね」

「そうだよ」

「おしりもこんなに大きく」

裸の男は私のお尻に抱擁した左手を落とす。そしてそのまま股の間に手は差し込まれていく。

「んッ…ん…」

声が漏れる。

「俺がその手伝いをしてやるよ」

この男は今晩のお相手だ。ロリコンらしい。中学3年生になり、胸もお尻もふともももかなり大きくなった…いや、本当は元から大きな方だった。

「本当はセックスも好きじゃ無いんだろ」

聳り立つ肉棒を股に携え、私の隙間に刺そうとそれを掴むところで突然そう言ってきた。盛り上がってた気分が台無しだ。

「…うん」

本当は大好きなのだけれど、この話をガッカリしているロリコンにはする。本気でセックスしてもらうために。


「ありがとう」

「じゃ」

事後のホテル前での挨拶を済ませ、家路につく。大人っぽい体のお陰でホテル街に居ても目立たない。

家に帰るころには23時15分になっていた。ママやパパはまだ起きているだろうか。

「ただいま、ママ」

玄関で言うと、おかえりと塾の帰りだと疑わないママの声が返ってきた。バラエティ番組の音と、編集で足された笑い声に便乗して笑うパパの声もかすかに聞こえる。

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