第47話

 模擬戦まであと六日。

 俺は気晴らしに、倉庫内部に張り出した中二階から、眼下の様子を窺っていた。

 駐機所には見慣れぬ人攻機が三躯、リフトアップされている。


 一躯は厚い装甲板で、亀の様に守りを固めた躯体だ。装甲を追加するあまり、その外見は同田貫の面影が無い。肥満児の様に、丸くむくれた姿をしている。

 段平。遠距離支援特化型の躯体である。重装の余り駆動制限が多く、動きも酷く鈍い。しかし搭載可能な武装が多く、肩部に強力なカタパルトを標準装備している。


 残りの二躯は、アメリカドームポリスでも見たダガァだ。こちらはアメリカ製の五月雨といったところか。アメリカ共和国の主力機で、五月雨との違いはそのフォルムにあり、スリムで鋭角の目立つ凛とした佇まいをしていた。構造の簡略化でコストを削減し、整備をしやすくしたためである。


 余談だが五月雨はダガァと違って、躯体に遊び(無駄なスペースの事)がある。これはどのようなパーツをも受け入れ、複雑化しても手間さえかければ動かせる様にしたためだ。


 さて。それらの人攻機の股下では、アカシア、サン、デージーたちが、直立不動で命を待っている。彼女たちの前でサクラが教官のように仁王立ちになり、俺を真似て号令を下した。


「搭乗」『了解』

「足元確認」『良し』

「出撃準備。計器確認」『良し』

「駆動!」『了解!』


 アカシアたちは淀みない動作で人攻機に搭乗し、駐機所のケージの中で手足を動かし始めた。

「うんうん。ようやくわかってくれたのねぇ」

 サクラが感涙を流しながら、アカシアたちの指導を続けている。準備運動のように人攻機の基本動作をアカシアたちにやらせて、それから草原に出ていった。なかなかいい教え役だ。


 アカシアたちは最初、俺に訓練を乞うたが、突っぱねてやった。

 俺が指導してはルール違反を疑われるし、何より彼女らが必死にならない。俺のいうことを聞いているだけで、助かるかも知れないという、意味のない安心を抱かれても困る。

 代わりに『アジリアとの約束もある』と含みのあるいい方をして、アカシアたちの不安をさらにあおってやった。それからサクラを推挙てやると、一時間も経たない内にこれだから脅しは十分に効いたようだ。


 ちなみにアカシアたちの名前がない編成表が、仕込みとしてアジリアにばれる心配はない。編成表を持ってかれても構わなかった。アジリアに『資料化してなかった、アカシアたちの編成表』を見せて、話を合わせるだけだ。

 アジリアは疑いを強めるが、証拠がないため追及できない。アカシアは俺とアジリアが茶番をやっていると思い、それを更に怪しむ。疑念が深まり、選択の幅が狭まる。

 どうあがこうと一度ツボにハマった時点で、シナリオ通りに進まざるを得ないのだ。

 人を騙すのは楽でいい。信頼させるのは苦労する。


 俺は訓練に没頭するアカシアたちを、空飛ぶ犬を見つけたような眼で見てやる。そして監視役のローズに聞いた。

「何を張り切っているんだ? あいつらは」

 ローズは腕を組みながら、素っ気なく答える。

「一応ポーズでも取っておかないと、あなたに何されるか分からないからと思うんデスケド」

 皮肉気な笑みが思わず浮かぶ。

「『俺』にそんな腹積もりはないと、彼女たちに言ってくれるか?」

 後六日しかない。もう少し尻を叩いてやらねばな。

「あなたがいってあげればいいじゃない。決して憎くてやったんじゃないって、教えてあげれば? そうすれば……もっと普通の付き合いが出来るわ」


 ローズは俺の謀略に気付かぬまま優し気な笑みを浮かべると、俺の背中にそっと手を当てて撫で始めた。

 ローズは優しすぎる。無条件に愛しすぎている。アカシアたちの我儘も、俺の悪意も。



 模擬戦まであと五日。

 アジリアが俺の部屋にやってきた。

 相当おかんむりのようだ。殴る様なノックをして、返事を待たずにずかずかと入り込んでくる。彼女は机を挟んで俺の向かいに立つと、腰に手を当てて睨んできた。

 騒々しい奴だな。資料を放り出してアジリアを見上げると、監視のプロテアもそれに倣った。


 アカシアたちが訓練を始めてから、何時かはくると踏んでいた。あいつらが訓練するのは、脅された時以外考えられないからな。

 俺を責めたいのだろうがそうはさせん。模擬戦では先手を打たれたが、これ以降はずっと俺のターンだ。

「アジリア。急用のようだが、こちらから先にいわせてもらう。一体何をした?」

「それは私の台詞だ――」

 アジリアは怒鳴り返してくる。だが最後までは言わせんぞ。こういう時怒りは、演出に有用なスパイスである。俺は机を殴りつけて、彼女を黙らせた。


「まず。俺の質問に。答えろ」

 だがアジリアは俺の怒りを歯牙にもかけず、にわかに卓上の資料を漁り始めた。

 好きにするがいいさ。どうせお前は何も見つけることなんざできやしないんだ。

 アジリアは資料を漁り尽くして、下のアクリルマットに辿り着く。そこにはアジリアたちの新しい編成表と、『プリントしたアカシアたちの編成表』が並べて挟んである。

 アジリアはそれを一瞥するだけに留めると、机から離れて棚の資料に手を伸ばした。アジリアは俺が何かしたと確信している。だがそれが何か分からないから、ここにきたのだ。

 俺は彼女の方を向かず、声だけで語りかけた。


「俺がいない間、一体彼女たちに何をしたと聞いている。訓練を嫌がっていたので、弱いメンバーを選んだ。そしてあえて何もさせなかった。だが久々に外にでてくればどういうことだ? 俺の時よりのめり込んでいるじゃないか。お前が何かいったのか?」

「それは貴様の建前だろう。それに私ではないから、お前に聞きにきたのだ。貴様はいったよな? 止められるものなら止めてみろと。必ず暴いてやる」

 アジリアは少ない資料をぱらぱらとめくり、流れるように眼を通していく。だがいくら探したところでそこには何もない。彼女も俺がそこまで間抜けでないことは、重々承知のはずだがな。


「監視に話は聞いているんだろう。俺にやましい点はないはずだ。それを棚に上げて俺を責めるとは……もういい。貴様の魂胆が見えるようだ。自発的な訓練すら封じにくるとは、はなから俺を追い落とし、その代わりになるのが目的だったようだな」

 プロテアの眉がぴくりと跳ねる。そして疑るような眼つきをアジリアに向けた。

 アジリアは証拠を探すのに必死で、その視線に気づいた様子も無い。彼女は俺の机の引き出しに手を付ける。


「何とでも言え。だが私の主張は一貫してこうだ。無理を強いるな。そして無駄な事を教えるな。そのために暴力を振るうなだ。たったそれだけだ。貴様はこの三つ全てを犯している!」

 アジリアも俺と同じように、一貫している。アジリアは彼女たちが武装し、人としてではなく、文明的な意味での人類として育っていくのが怖くて仕方がないのだ。

 その気持ちは良く分かる。だが人の本質は、そこから別つことなどできない。だから人として強くなり、克服するしかないのだ。


 アジリアは植物標本や、地質標本の入った引き出しを乱暴に閉じる。そして結局何も見つけることができずに、今にも泣き出さんばかりの顔を怒りで歪ませた。

 俺が何をどうしたかすら分からず、手の平で狂ったように踊る己を、惨めで無力に思っているのだろう。

 アジリアはよくやっている。俺とは経験や知識の差、更にはアイアンワンドのサポートの有無がある。だが正義の為に自らを省みず、果敢に挑んでくる。彼女はいつかきっと、素晴らしいリーダーになるだろう。


 しかしノコノコ手ぶらで敵陣(俺の部屋)に来るとは、ケツの青い証拠だ。安心しろ。俺がしこたまブッ叩いて、一人前の赤い尻にしてやる。

 これは手始めだ。

 俺は無言でアジリアを睨み返してやった。


 やがて——アジリアは踵を返して、俺の部屋から出ていった。

「邪魔したな……」

 おいコラ。片付けをしていけ。

「ナガセ……」

 プロテアが気まずそうに声をかけて来る。俺は息を吐くと、床に散らばった資料を指で摘まみ上げた。

「あ~。散らかしやがって。片付け。手伝ってくれるか?」

「お……おう。もちろんだよ」

 プロテアは飛びつくようにして、資料拾いを手伝ってくれた。彼女は聞かん坊の面倒を見る俺への同情心を滲ませ、自らの立ち位置に対する不信で微かに震えていた。



 模擬戦まであと三日。

 アカシアが部屋に来た。思わぬ来客に俺ばかりか、監視のローズすら目を丸くした。

 アカシアはローズにちらりと流し目を送り、気まずそうに内股をすり合わせる。やがて妙案が浮かんだのか、表情を明るくした。


「あ……あのさ……ナガセ。ロータスが私の日記を覗くんだ……その……秘密を知られずに記録するには、どうすればいいの?」

 俺が知るか。そこまで乙女チックではない。

「知られて困るようなことを書くな」

「そ……そうだけどさぁ……サンとデージーとやり取りするんだから……ネ?」

 アカシアは両手を合わせて、俺にお願いしてくる。

 ははーんなるほど。作戦を練り始めたのか。それを第三者に分からない様にしたいわけだな。


「モールスで記したらどうだ? 詳しくはアイアンワンドに聞け」

「でもアイアンワンドが知っている事だと、ロータスにも分かっちゃう……」

 成程。アジリアにも分かるな。少しハードルが上がるが、暗号表を教えるか。稚拙な暗号でも、数日で看破は無理だろう。

「暗号表をつくれ。それもアイアンワンドに聞け。分からないことはサクラに聞くんだ。代数の応用だと言えば分かる。以上だ」

「ありがとぉナガセ」

 アカシアは俺に頭を下げると、揚々と部屋を出ていった。


 ローズが俺のことを、穴が空くほど見つめている。俺は横目でその視線に答えた。

「文句でも?」

「私も知りたいわ」

「アイアンワンドに聞け」

「違うんデスケド。彼女たちが必死な理由なんデスケド」

「知るか。俺はせっかく引きこもって、放置しているんだぞ。発起人に聞け」

 ローズは納得がいかない様に、顎を引いた。だが今までの監視から、俺が何もしていないのは自明の理だ。ここにきてローズは俺の監視そっちのけで、何かに思いを巡らせ始めた。これはあくまで推測だが、アジリアの事を考えているのかもしれない。



 模擬戦まであと二日。こんなことがあった。

 一日中部屋に引き籠っていると気分が腐る。そこで夕方近くになると、倉庫へ赴いて空気を吸うことにした。ついでに襲来した異形生命体の撃退記録と、消費した物資の記録を受け取る。

 弾丸は減っても、増える事は決してない。ぼちぼち十二.六ミリ弾が少なくなってきたな。この模擬戦が終わったら、自衛に使う武器を変えるか。俺はそんな事を考えながら、コンテナの方に歩いていった。


 駐機所の方からいさかいの声がした。

 またか。懲りん奴らだな。喧嘩なら明後日の模擬戦で思う存分やればいいのに。

 無視を決め込もうとするが、声色がいつもの調子と違うな。どうやら普段とは違う連中が、言い争いをしているらしい。俺は興味を引かれて、監視のパンジーを引き連れて現場へと向かった。


 声のする駐機所の前では、アジリアとローズが、サクラ、デージーの二人と向かい合っていた。

 アジリアとローズは比較的落ち着いている。大声を張り上げているのは意外にもデージーだった。そしてサクラはというと――


「ダメよ……サクラ……自制心を働かせるのよ……こんな挑発に乗っちゃダメよ……」

 顔を真っ青にしながら、自分を落ち着かせるように胸に手を当てていた。ただ事ではないらしい。あのサクラが冷や汗をだらだらと垂らし、煩悶の呻きを上げている。


「どうした?」

 俺の声にサクラが飛び上がる。そして目を白黒させつつ振り返ると、何に対しか分からないが敬礼をした。

「無論渡すつもりはありません! 私は本物一筋です!」

 何をいっているのか分からん。アジリアたちに視線で問うと、彼女は拗ねたように唇を尖らせた。


「サクラが駆動プログラムを組んだんだが、出来が良い。だからこっちにも回して欲しいんだ」

 すぐデージーが俺にしがみついてきた。

「もちろんダメだよねナガセだってサクラは元々こっちのチームなんだよだからダメだよフッザケンナこっち唯一の有利な点なんだよだからダメだダメだダメだ!」


 必死である。デージーのいつもの早口は激しさを増し、意味不明な言葉の羅列を喚きたててくる。まぁ命懸けだから当たり前か。

 駐機所の制御パネルには、サクラのデバイスが接続されている。画面を見ると、駆動プログラムの微調整を行っているようだ。どうやらアカシアの訓練開始時から、新しい駆動プログラムを使っていたようである。サクラなりに勝率を上げようとしたのだろう。


 アジリアは良い所に目を付けたな。

「ああ。駄目だ」

 きっぱりいうと、デージーの顔が綻び、アジリアの顔が険しくなった。

「サクラは第三者のはずだ。情報公開しろ。片方への肩入れは許さん」


 デージーが「はへ?」と、奇妙な声を出す。それから駄々を捏ねる子供のように、俺の腕を引っ張りだした。

「えええええええええ! なんで! なんで! なんでぇぇぇぇ!」

「やかましいな。公平を期すためだ。俺も後で駆動プログラムの差を、敗因に使われては困るんでな……それにだ」

 俺はデージーの襟首を摘まんで、彼女の耳を口の高さまで持ち上げた。ここから先は内緒の話だ。


「連中はハナからプログラムを使うつもりはない。フレームが違うのに流用したって仕方がないだろう。お前らがどう動くか、解析して知りたいだけだ」

 デージーは宙吊りにされたまま、両腕をぶんぶん振り回す。

「だから嫌だっつってんだろぉぉぉぉふごっ!? ふごごごごご!」

 あまりにやかましいので、鼻をつまんで黙らせた。そしてサクラに目配せする。


「よ……よろしいので? 無論私は買収に応じるつもりはありませんでしたよ」

「さっき言った通りだ。これは命令だ。公開しろ」

 デージーを床に降ろすと、当初の目的通りコンテナに向かうことにした。

 現場では鼻を擦るデージーを余所に、交渉がまとまっていく。そのやり取りであるサクラとローズの声が、遠ざかるにつれ聞き取りづらくなっていった。


「命令されたし……データはあげるわよ。それと賄賂はいらないから。ナガセに疑われちゃう」

「別にあなたのためだけに作ったものだから、ただであげるわ。ナガセの等身大ぬいぐるみなんて……後で部屋にとりに来て」


 ン? 今なんか恐ろしい話が、聞こえたような気がしたぞ。まぁ気のせいだろう。そんな邪悪なものが存在するはずがない。してたまるか。

 俺は監視についてくるパンジーを、こっそり盗み見た。

 彼女は俺よりも、まだサクラたちのやり取りを気にしている。八日も大人しくしていれば無理もない事だ。監視が緩くなったことだし、隙を見て状況把握でもするか。



 模擬戦前日になると、彼女たちも慌ただしくなる。模擬戦に備えての訓練を行い、使用する人攻機を念入りに整備し始めた。

 この日は俺から監視が外れた。考えられる理由は二つ。一つは後一日では、何もできないだろうという傲り。もう一つは焦った俺が、尻尾を出すのを期待しているのだ。


 俺はやはり自室で一日を過ごし、夕方になって外に出る。そして最終確認のため、訓練中のアカシアを見に行くことにした。


 道中サクラが俺を待ち構えていた。

 彼女は周囲を気にしながら、俺の手を引いて強引に近くの部屋に連れ込んだ。サクラはドアを閉めると、そこに耳を当てて外に誰もいないことを確かめる。それから訝る俺に、意味ありげな笑みを向けた。


「実はですね、今日の人攻機の整備は、私が担当なんですよ」

 何をいうかと思えば。俺は頭を掻いた。

「そんなつまらん事を、わざわざ言いに来たのか?」

「いえ! その……今日、私が、人攻機に、触るんです。点検の為に。皆のを」

「お前はスパナじゃなく、念力で修理しているのか?」

 サクラが軽く地団太を踏む。そして訳の分からない呻き声を上げた。そのだな。俺もここいらで察して欲しいのだが。


「そ~じゃなくて! あの! 明日に控えてますよね。その~模擬戦が。それで万一の事が無いように、私が整備をするんです。それでナガセにお伺いを立てにきたんです。どうしましょうか?」

 どうしろかって? 決まっている。

「医者に診てもらえ」

 俺は素っ気なくいうと、サクラの脇を通り過ぎて部屋を出た。背後からサクラが頭を掻きむしる音が聞こえた。


 ある程度サクラから離れると、アイアンワンドが話しかけてくる。

『サー。釘を指さなくても宜しいのですか? マム・アジリアは確実な勝利の為に、不正現場を抑えに来るでしょう。そのためにマム・サクラに工作を指示なさらなかったのでしょう?』

「実行する決断力があるのなら、俺の所に伺いなぞたてにこない」

 俺は少し不満そうにぼやいた。

「だからサクラをリーダーにしないんだ」


 俺はキャリアに乗って、ドームポリスを出る。そして訓練場に向かった。

 この十日間を振り返る。

 アジリアの訪問時に、プロテアに不信感を植え付けた。それにアカシアたちが、主旨に反して訓練に没頭する事実が、その不信感を助長したことだろう。アジリアたちの信頼関係、大義名分はガタガタだ。士気は低下している。


 そしてアカシアたちは独自の暗号を使用し、内密に事を運んでいる。秘密はそれ自体が有益だが、共有する者との結束をより強く持つ性質を持っている。更に閉塞したコミュニティは、時折妄執に似た環境を作り出す。彼女たちは負ければ殺されると信じ込み、背水の陣で戦いに挑むだろう。


 何よりアジリアたちは倒すために戦う。だがアカシアたちは生き残るために戦う。倒すために必要な力を使うだけと、生き残るために貪欲に力を吸収する。どちらが恐ろしいかは言うまでもない。


 不思議だ。十日前あれほど絶望的だった戦況が、今では拮抗しているように思える。後は俺が暗号で通達した指示を、どれだけ実行できるかだ。


 訓練場ではアカシアたちが、人攻機を駆って機動訓練をしていた。サクラから基礎は学べたようだ。カバーアクションや、フォーリンダッシュ(人攻機の機動の一つ。前方に倒れるようにして走る技法)を駆使して、防壁から防壁へと身を移し、敵陣に進攻している。


 やがてアカシアの弾平が俺に気付き、機動を止めた。他の二躯もそれに従う。ということは、アカシアがリーダー格だ。珍しい。一番気の弱いアカシアを上にあげるとは。

『ナガセ……あの……その……どうしたの?』

 段平からアカシアの声が響いてくる。

「確認だ――難易度ABCの順で、状況を展開しろ」

『サー。イエッサー』


 アカシアたちは、一度自陣まで戻る。それから俺が指示した内容を、一つずつこなしていった。彼女たちは驚いたことに、俺の与えた指示を全てこなして見せた。

 全ての指示を終えると、アカシアが不安そうに聞いてきた。


『な……ナガセ……どう? 勝てそう?』

 俺はそれに答えない。ただほくそ笑むと、踵を返してドームポリスに戻っていった。


「来た、見た、勝った(Veni,Vidi,Vici)」


 思わずつぶやいた。


 翌日。模擬戦の日が訪れた。

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