木漏れ日話4


ヒュゥっと少し冷たい風が頬を撫でる

夏の空気がすっかり消え去り

寒い季節の始まりを告げる。


青々と瑞々しかった木々は赤い葉をつけてヒラヒラと

ゆっくりと舞い落ちている。


「綺麗だね」

「紅葉?」

「そう、紅葉、綺麗で私結構好きだなぁ」


少しだけ寒くなってきた

ぶるりと震える。

夕方に差し掛かった道。

遊びの帰りだ。


整備された道が紅葉の赤で染め上がる

まるで高価な絨毯のようだ。


踏みたくないのに、踏んでしまう。


カサリと踏むたびになる木の葉の音が耳に心地よい

わざと、いい音がなりそうな茶色い葉を探して

トンと踏んでいく。

カサ、カサ、たまに音が鳴らない奴がある。


飛び跳ねるように…とは言わないが軽い足取りで先へ進んでいく


音無くんは後ろからそれを見ている


「いま子供っぽいって思ったでしょ」


くるり、と片足を軸に小さく回って後ろを向く

音無くんは軽く笑った


「バレた?」

「そういう音がしたんです~」


ムスっとわざと拗ねるような口調で口を開いた。

もちろん怒ってなどいない。

ただの悪ふざけの遊びだ。


「怒んなよ。何か奢ってあげるから」

「え!」

「やっす」

「は?」

「おっとつい」


なんてわざとらしく口元に手をやる音無くん。

しかし、奢るといったのだから奢らせなければそれは失礼というものだ。

そう、失礼なのだ!


さて、何をおごってもらおうか

ピタリと道の隅で立ち止まる。

音無くんも同じように隣に止まる

私が考え終わるまでは居てくれるらしい。


ひときわ強い風がビュゥっと通り過ぎる

長い髪が風にさらわれて通り過ぎていく。


「とと…髪が…」


風で乱れた髪を手で整える


「あ、華まって、髪に葉っぱついてる」

「えっどこ?」

「僕が取るよ」


音無くんの指が私の髪にそっと触れる

熱い気がする。


髪に神経もなければ温度もないのに何故か少しだけ

熱い。

風邪でもひいてしまったのだろうか。

小さく首をかしげると動くなと怒られた。


「ん、取れたよ」


髪についていた葉の破片をぺっと道に落とす。

髪の毛が絡まっていない。

随分と丁寧にとってくれたのだろう

乱れた髪も幾分マシになっていた。


「ん、ありがとー!」

「いーえ」

「こうも長いとねぇ…切ろうかな」

「だめ」

「えっ」

「だめ」

「え!?」

「僕は華の髪好きだから」

「…しょうがないなぁ…」


珍しい押しの強いわがままに押されてしまった

いやまぁ、音無くんの頼みであれば髪の毛くらい

頑張って手入れして整える。


それに、触れられた毛先とか切るのは何故か今はちょっと嫌かも知れない

先ほど放った言葉と矛盾の思考が一瞬生まれるがそれも直ぐに消え去る


「で、何おごって欲しいわけ?」

「あ!じゃー……!ラーメン!」

「色気ないね」

「わたし~ぱすたがたべたいな~」

「ラーメンいこっか」

「ねえ、むしですか?!」

「パスタ=女子っぽいとか安直じゃない?」

「じゃぁどんなのが女子っぽいの!?」

「パンケーキ」

「音無くんの勝ち!!」

「じゃぁ次は華のおごりね」

「ちくせう」


なんてくだらない話。

先ほど熱くなった髪はいつの間にかいつもの温度に戻っていた


また風が吹く。

冬の音を強く連れて。

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