登校の風景と放課後
朱音に引っ張られるような形で、俺たちは学校への道を進む。そして昨日、片倉と別れた道に差し掛かった。するとそこには黒髪の少女が誰かを待つように立っているのが見えるのだった。
「あ、あれは!」
進行方向にいる人物に気付いた時点で、朱音の雰囲気が変わる。朱音の性格上、とげとげしい雰囲気やあからさまに邪険にしたりするようなある意味女子らしい雰囲気を出すことこそないものの、普段の朱音からは決して感じることのない雰囲気だ。
「おはようございます」
俺たちに気が付いた片倉は微笑んで挨拶をする。
「「おはよう」」
たまたまか、俺と朱音の挨拶が重なる。そんな俺たちの様子を見た片倉はさらに微笑んで言葉を発した。
「仲がいいんですね」
「付き合いが長いd――」
「そうだよっ!」
俺の返事を遮った朱音がニコニコでそう言う。しかし朱音はニコニコしながらも警戒をしている様子だ。言葉を遮られた俺は、しかし慌てて否定することもなく、ため息を吐いた。
「まあ、幼馴染ではあるしな。それぞれをある程度知っているんだ」
「あら」
俺の言葉に片倉は短くそう声を出した。そして朱音に視線をやった片倉は、しかしどこか納得した様に頷く。
「宮元さん、少しお話しませんか?」
「? いいけど」
そして唐突に片倉は朱音にそう言った。声をかけられた朱音も首をかしげて、そして返事を返す。それに対して俺は首を突っ込む気もなく、二人の後ろをついて学校へと向かう道を進む。なんだかんだと二人は話が合うようだ。徐々に話が盛り上がっているように感じた。
そうして三人で学校へと向かい、昇降口に差し掛かった。
「おはよう! 宮元さん、片倉さん!」
昇降口でクラスメイトのみんなから次々と声がかけられる二人。俺は学校に近づくにつれて徐々に二人と距離をとっていたため、声をかけられることもない。そんな様子を見ながら俺は下駄箱で靴を履き替え、遅れて教室に向かった。
教室ではごく短時間、離れただけなのにすでに、男子に囲まれている片倉の姿があった。そして、ほかの女子たちがいい加減にやめなさいと男子たちを散らすように威嚇している。
「二日目じゃ、こんなもんか」
俺はそんな片倉の様子にそう感想を漏らすと、自分の席に向かって進む。自分の席に腰かけ、今日の時間割を再確認している間に朱音が近づいてきていた。
「和樹君、聞いて聞いて」
そう言って話しかけてくる朱音を俺は適当に相槌を打ちながら時間を潰す。そうして、ホームルームの時間を迎えるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いつも通り昼休みを一人で過ごし、眠くなる午後の授業を耐えきって迎えた放課後。俺は一人で下校していた。いつもなら、なんやかんやと朱音がいるのだが、今日は片倉と話をするため先に帰ってほしいと言われたのだ。
俺はもともと一人でいることに何一つ不自由しない性格のため、「わかった」とだけ答え、帰宅する準備をさっさとして学校を出る。昇降口に差し掛かった頃、ちょうど雪音を見かける。雪音は友達といて、二人で下校するようだ。
「あ、和樹兄さん」
雪音が俺に気が付き声をかけてくる。
「あ! お兄さんだ!」
雪音に続いて俺に気付いたのは、雪音の友達である高岡小春だった。
「誰がお兄さんだ!」
俺は元気に声を大きくして俺を呼ぶ小春に対してツッコミを入れる。
「すみません。冗談ですよ、先輩?」
小春があざとく、しかし元気にそう謝罪をしながらてへぺろをする。殴りたい、この笑顔。
この後輩女子は物静かな雪音とは反対に元気な性格で、しかし雪音とはとても仲がいい。そのため雪音と小春で家にもお互いによく行き来しているため、俺とも気安く接してくる。いろいろな噂が合ったり、怖がられたりする俺にとっては、ある意味では稀有な女子である。
「こんなところで騒いでないで、行くよ小春」
そう言って進むように促す雪音。しかし、いつもの静かな雰囲気ながらも少し楽しそうに見える。そして下校途中、ふと何かに気が付いたように小春が訪ねてきた。
「そう言えば先輩?」
「なんだ?」
「宮元先輩はどうしたんですか?」
「ああ、昨日転校してきた片倉ってやつと話をするんだと。だから先に帰れって」
「へぇー、てことは先輩は宮元先輩をその転校生に寝取られたんですね!」
なんてことを言ってのける後輩。さてはこいつ俺のことを舐めてるな?
「そもそも付き合ってないし、寝取られてもねぇよ」
俺はそう言いながら小春にアイアンクローをかます。
「痛いです先輩! ごめんなさい、あやまりますからぁ!」
少し涙目になった小春に俺は満足し、手を放す。小春は俺からさっと距離をとると雪音の後ろに隠れた。
「雪音ちゃん! お兄さんがひどいよぉ!」
俺との間に挟まれる形になった雪音はため息を吐くと、こちらを見る。どうやら俺に味方はいないようだ。
「和樹兄さん、小春で遊ばないで」
雪音の後ろでは「もっと言ってやれ」と言わんばかりの表情で頷いている小春が見える。とっても腹が立つな。俺の視線に気が付いたのか小春はさっと雪音の後ろに隠れた。
そんな小春の様子を雪音はちらりとみると一言呟く。
「家に帰ってからにして」
どうやら今日は小春が家に遊びに来る予定らしい。そして雪音の言葉は、家に帰りついたら制裁OKの言葉。俺は我が意を得たりと頷き、小春は絶望する。
そんな風に俺は朱音がいる時とはまた違った騒がしさを連れながら、下校するのだった。
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