第4話

「なによ。急に会いたいって。この前借りた漫画は返したはずよ」


「え?」


「漫、画。返、し、ま、し、た、よね?」


「ごめんごめん。なんか今日の仕事、やたらうるさくてさ。耳が遠くなっちゃってて」


「なんで呼んだのよ。遊ぶ約束してないでしょ」


「え?」


「ご、用件、は。な、ん、で、す、かぁ?」


「あ。用件。そう。用件。一緒に仕事してた人に言われたんだけど」


「うん」


「もしかして、俺のこと好き?」


「ちがうわよっ」


「うわっうるさっ。グレネードランチャーよりもうるさっ」


「ちがいます。ちがう。なんなのよ」


「そっか。ありがとう。それが聞きたかっただけなんだ。じゃあ、またね。はいこれ漫画。貸しとくよ」


「うん」


 彼。去ろうとする。


「待って」


 声は。

 聴こえない。


「まってっ」


 彼は。


「好きなのに。わたし。なにやってるんだろ」


 小さく呟く。


「わたし。あなたのことが好きなのに。友達の関係でいたくて。振られるのがこわくて。彼氏がいるなんて嘘ついて。本当は、えっちなことだって」


 声は。彼に聴こえないまま。


「あなたのことが。好きなのに。わたしは。あなたに釣り合わないから」


 どうしても、届かない距離。


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