第5話

「おい、神奈っ! 指示が遅い! 早く指示だせ。みんなが混乱してるだろ」

「わかってるよっ!」

「神奈ちゃん、私はどうすればいい?」

「リンリンはそのままバックアップに回って」

 金曜日の夜、私―渡月(とげつ)神奈、弟の睦、三嶋鈴(みしまりん)通称リンリンの三人が、私の部屋に集まってスマホゲーム『ファーマーズクエスト』の農協戦に挑んでいた。

 私はリンリンのことが好きだった。

 そしてリンリンは名前も年齢も性別も顔も知らない、ゲームのプレイヤー『ランド』に恋心らしきものを抱いていた。

 その『ランド』は、実は睦のプレイヤー名だ。

 ランチのとき、そのことを知らされた私は、意を決してリンリンにすべてを打ち明けた。

 ランドが弟であることも、私がリンリンを好きだということもすべてだ。

 恋愛経験値ゼロの私には、複雑なことなんて考えられない。だからすべてを打ち明けるという方法しか思いつかなかったのだ。

 結果、休みの日にリンリンと睦を会わせることになった。

 そうしたら、なぜか次の週末の金曜日にはリンリンが仕事終わりにウチにやってきて、三人で一緒にゲームをする今に至るのだ。

 ちなみに、すべてを打ち明けたときのリンリンに対する告白の返事は……

「ごめん、どう考えればいいかよくわからない……。でも、神奈ちゃんのことは大好きなお友だちだよ。それだけは間違いないけど……」

 というものだった。

 多分、フラれたんだと思う。

 そして、睦に会わせたときにリンリンは……

「まさか五歳も年下の男の子だとは思わなかったなぁ。メッセージだけじゃわからないものね」

 というさっぱりした感じの反応だった。

 ランドの正体を知って、リンリンの気持ちに変化があったのかどうかはわからない。

 少なくとも、ランチのときに『ランド』のことを語っているリンリンの表情からは恋心を感じられたけれど、一緒にゲームをしている今はそんな雰囲気を感じない。

 現実を見て、さっぱり恋心が消え去ったのかもしれないし、私に気を遣って隠しているだけかもしれない。

 恋愛経験値ゼロの私にはそれを読み取る能力はない。

 睦の方は、私と好みのタイプが似ているから警戒をしていたんだけど、一定の距離感を保とうとしている感じだ。むしろ、若干避けているような気配すらある。

 もしかして、一応私に気を遣っていたりするのだろうか?

 もしも私に気を遣った結果、私に気付かれないように密やかに関係を深めているとかだったらどうしよう……。

 そう考えると、わざと白々しく距離感を保っているようにも見えてくる。

 もう、恋愛は難しいよ!

 ゲームをしている方がずっと気が楽だし楽しい。

 あれこれ考えるのが面倒になって、ゲームのリアル対戦に集中することにしたのが幸いしたのか、私たちの農協は接戦を制してなんとか勝つことができた。

「な勝ててよかったねっ」

 リンリンがニッコリと笑って言う。

「うん。危なかったけどね。……えっと……。対戦は終わったんだけど、リンリンはこの後どうするの? 泊まっていく、の……かな?」

「泊まらせてもらおうと思ってたけど……神奈ちゃん、なんだか嫌そうだね」

 ソファーに背を預けてラグに座っている私の顔を、リンリンはソファーに座った状態で覗き込むようにして言った。なんか、そういう仕草ひとつひとつがかわいいのはやめてほしい。

「あ、オレは迷惑」

 私が返事をするよりも早く睦が答えた。

「睦くんは居候なんでしょう? 決定権は家主の神奈ちゃんにあるんだよね? で、神奈ちゃんはどうなの? 嫌なら帰るけど」

「嫌なはずないよっ! こんな遅い時間に帰るのは危ないし、泊まって」

 私は慌てて返事をした。半分本心だけど、半分は嘘という感じだ……。

 せっかくの週末だし、もう少しリンリンと一緒にいたいとか、おしゃべりしたいとかっていう気持ちはある。あふれるくらいにある。でも、フラれたという事実が頭を過るたび、どう接していいのかわからなくなるのだ。

 さらに、ウチの場合は寝る場所問題もある。

 比較的広い部屋を借りているけれど、それは『一人暮らしにしては……』という程度である。そこに睦が転がり込んでいるのだから、さらにリンリンを泊められるような部屋はないのだ。

 私は自室のベッドで寝ている。睦はリビングで布団を敷いて寝ている。

 そして、来客用の布団なんて用意していない。

 つまり、リンリンは私か睦のどちらかと一緒に寝るしかないのだ。

 考えるまでもなく睦は却下だから、私と一緒に寝ることになるのだけれど、失恋した相手と一緒に寝るなんて拷問みたいなものだと思う。

 リンリンは平気なのだろうか?

 私の告白を冗談かなにかだと思っているのか、そもそも全く論外だから気にする必要すらないのか、友だちという距離を維持するためにあえて気にしていないフリをしているのか……。

 モヤモヤしながらゲームをボチボチ操作しているとメッセージの通知が届いた。

「あ、ベルチャンからだ」

 私は思考を一時中断してメッセージを開く。

 罪深い私は、リンリンと同時にプレイヤーのベルちゃんにも惹かれていた。

 そして『ベルちゃん=リンリン』なんて期待も抱いていたのだ。

 結果、ベルちゃんはリンリンではなかったし、そのベルちゃんも結婚をしてしまった。

 リンリンとベルちゃんの双方にフラれたのは、同時に二人に恋心を抱いた罰なのかもしれない。

 それでもベルちゃんとのメッセージのやりとりは今でも楽しい。

 リンリンがランドのことを年上の女性だと勘違いしていたように、私が想像しているベルちゃんと、実際のベルちゃんは全く違うのかもしれない。

 だけど、ベルちゃんと実際に会うわけではないから、妄想くらいは自由に楽しんでもいいはずだ。

『農協戦お疲れ様でしたー。ギリギリでしたが勝てて良かった! オクトーブルさんとランドさんとグロッケ曹長さんってリアルで一緒にプレイしてるんですよね? うらやましいなー。私も混ざりたいですっ』

 うつ伏せでソファーの下のラグに寝転がり、ニヤニヤとベルちゃんのメッセージを読んでいると、ソファーに座っていたリンリンが覆い被さるように背中にのって画面を覗き込んだ。

 その体の重みとか、体温とか、息づかいとか、そういうのが一気に押し寄せて若干パニックだ。

「んー、身バレしてもいいの? って返事したら?」

 リンリンの声が耳元で響く。

 心臓がバクバクして息苦しい。リンリンがのしかかっているから体に負荷がかかっているせいか、リンリンに対する想いのせいなのかよくわからなくなる。

「お、重いよっ」

「女子に重いとか言わないでよ」

 私の反応に不満そうに言ったけれど、リンリンはすぐに退いてくれた。私は深呼吸しながら体を起こす。

 ベルちゃんに返事を打ちたいけれど、なんだかジッと私をみているリンリンの視線が痛くて返事を打つことが出来ない。

「あっ、そうだ。お風呂入ってくるよ」

 リンリンの視線から逃れる名案を思いついて、ワタシは立ち上がった。

「一緒にはいる?」

 即座にリンリンが聞く。

 そのたった一言で血液が一気に頭まで駆け上がったみたいになった。リンリンは私をからかっているのだろう。

 友だちっぽいやりとりをしてくれる優しさなのかもしれないけれど、今の私にはキツい。

「いや、ひとりで入る」

 私は素っ気ない口調で言うと、リンリンの反応を待つことなく即座に浴室に向かった。

 リビングの扉を閉めるのと同じくらいのタイミングで「いってらっしゃい」というリンリンの声が聞こえた。

 脱衣所でベルちゃんへの返事を打つ。

『おつかれさま~。ホント、ギリギリでしたね! いつかオフ会でみんな一緒にプレイできたら楽しそうですね』

 別にリンリンに見られても問題ない、差し障りのない内容だ。

 そうしてひとつ息をついて服を脱ごうとしたとき、着替えをもってきていないことに気が付いた。

 着替えがあるのは自室だ。

 リビングを通らずに自室に行くこともできるから、リンリンに気付かれないようにそっと着替えをとりに行こう。

 もしもリンリンに見つかったら「やっぱり一緒に入りたいの?」なんて、またからかわれるに決まっている。

 脱衣所の扉をそっと開けて、足音を立てないようにリビングの前を通過する。そのとき、私がいないときリンリンと睦がどんな会話をしているのか気になった。

 ランドに(多分)恋心を抱いていたリンリンと、私と好みのタイプが同じ睦。私の前ではあまり仲良くしていないけれど、それが私に気を遣ってのことならば、二人きりのときは違うのかもしれない。

 さすがに付き合っているってことはないと思うけど、良い感じに進行しているのならば、二人きりの会話から何かわかるかもしれない。

 もしもそんな雰囲気の会話を聞いたら、私は多分傷つくし、どうしたらいいのかわからなくなりそうだけど、好奇心の方が勝ってしまった。

 私はそっとリビングの扉に近付いて耳をそばだてる。

「あんまり神奈のことをからかわないでくれるかな」

 件を含んだ睦の声が聞こえた。

「別にからかってるつもりはないけど?」

 リンリンの声も妙に冷たい。

 この会話だけでも、二人が良い感じになっている疑惑が払拭された。

 それにしても、ランドのことが気になると頬を染めていたリンリンとは全く別人のような口ぶりだ。年上のお姉様でなかったことがそんなにもショックだったのだろうか。

「睦くんてさ、ちょっとシスコン過ぎない?」

「あんたに言われる筋合いないね。あんたこそ人の家で自由にしすぎだろ。神奈のことフッたんならもうちょっと気ぃ遣えよ」

「睦くんに関係ないでしょう」

「神奈を傷付けるなって言ってるんだ」

「神奈ちゃんに恋人ができないのは、睦くんがそうやって邪魔してるからじゃないの?」

 え、えーっと……何の話をしているのでしょうか……。

 なんか怖くて、思わず正座しそうになったよ。

 いい雰囲気どころか、すごい険悪な雰囲気になってるじゃない。

 私は二人の会話を聞かなかったことにして、静かに自室に着替えをとりに行って浴室に戻った。

 三人でいるときは、ある程度距離感はあるものの、普通に会話をしていたはずだ。

 それなのに二人きりになった途端あの険悪な雰囲気。

 なぜそんなことになっているかさっぱりわからない。私が知る限り喧嘩をするきっかけなんてなかったと思う。

 私が盗み聞きしているのに気が付いて、わざと喧嘩っぽい感じを演出したという可能性はないだろうか?

 演技にしてはリアルだったような気もするけど……。

 イチャイチャしててもイヤだったけど、険悪すぎるのも意味わからないよ。

 私の小さな脳みそでは処理しきれないよ。

「かーんーなーちゃーん」

 リンリンの声が聞こえた。

「え? な、なに?」

 お湯に肩までしっかり浸かって膝を抱える。浴室の扉の磨りガラスにリンリンのシルエットが見える。

「ちょっと長くなーい?手伝おうか?」

「いえ、結構です。もう出るので、はいっ」

 私は慌てて返事をした。そんなに長くお風呂に入ってはいないのだけど、着替えを取りに行ったり、リビングの二人を盗み聞きしたりしていたから、結果、時間が長くなってしまっていた。

 リンリンが脱衣所を去ったら出ようと思っているのに、なぜだからリンリンのシルエットが動かない。

「あの……。なぜずっとそこにいるんですか?」

「体を拭いたり髪を拭いたりしてあげようと思って」

「一人でできるので大丈夫ですっ。お願いですからリビングで待っててください」

「どうして丁寧語になってるの? お友だちならこれくらい平気なのに」

 恋愛経験ゼロの上に、友だちも少ないからよくわからないけれど、お風呂上りに身体を拭いてもらったり着替えを手伝ってもらったりするものなのだろうか?

「いやいやいやいやいやいや。騙されないからっ」

「ちぇっ」

 断固拒否の姿勢を示すと、リンリンは舌打ちを残して脱衣所から出て行った。

 やっぱり騙そうとしていたらしい。

 恐ろしい人だ……。

 私は警戒しながら浴槽を出て、脱衣所をチラリと覗く。リンリンの姿はない。

 また覗きに来られても困るので、私は猛スピードで体を拭いて服を着た。

 私がリビングに戻ると、リンリンは着替えを持って浴室に向かう。どうやら最初から泊まる気満々だったようで、お泊まりセットを持参していたらしい。

 睦はソファーに座ってポチポチとスマホを操作していた。

 私はドライヤーで髪を乾かしながら睦に声をかける。

「睦はリンリンのことどう思ってるの?」

「どうって?」

「ほら、私と好みのタイプが似てるって言ってたじゃん。リンリンのこと、好きになっちゃったんじゃないの?」

 すると睦はギロっと私を睨んだ。

 そして深いため息をつくと「バカじゃねぇの」とつぶやいて再びスマホに視線を落とす。

 どうやらこれ以上話をする気はないらしい。

 髪を乾かし終えると、睦にリンリンにドライヤーを貸すように伝えて自室に移動した。

 そしてさっさとベッドに潜り込む。

 リンリンがお風呂から出るまで待っていて、色々話をするべきなのかもしれないけれど、もう色々とキャパオーバーなので、寝たふりでやり過ごす作戦を実行することにしたのだ。

 私は部屋の照明を落として瞑想タイムに突入した。

 本当にこのまま、リンリンが来る前に眠れるのならいいのだけれど、アレやコレや頭の中がぐるぐるして眠れそうにもない。

 私をからかおうとするリンリンがよくわからない。

 好みのタイプなのに、なぜだか距離を取ろうとする睦もよくわからない。

 二人が妙に険悪な雰囲気なのもよくわからない。

 何より、今からリンリンが私の部屋に来て一緒のベッドで寝るという状況がよくわからない。

 隣の好きな女性が寝ているのに安眠できるほど、私はできた人間じゃない。

 フラれた相手と一緒に寝るのに、穏やかな気持ちでいられるほど達観してもいない。

 だからといって強硬手段に出られるような大胆さも精神力も持ち合わせてはいない。

 つまり、私にできることは、瞑想をして心をできるだけ落ち着けて、棺に入ったドラキュラのようにおとなしく寝たふりをすることだけなのだ。

 寝たふりをしていても耳はしっかり活動している。

 リンリンがリビングに戻った音。

 睦が何やら話す声。

 ドライヤーの音。

 そして私の部屋の扉が開く音。

 ベッドに近付いてくる静かな足音。

 ベッドのすぐ横で足音が止まり、布団の端が持ち上げられるのを感じた。

 心臓の音が木魚のようにポンポンと部屋中に響き渡っているんじゃないだろうか。

 ベッドが軽く揺れて、私のすぐ隣に誰かが横たわる。

 誰かって、リンリンしかいないからリンリンなのだけど。万一、睦だったらグーで殴る。

 お風呂上がりのいい匂いが鼻腔をくすぐる。

 私のシャンプーとコンディショナーを使っているはずなのに、私とは違う香りがする。

 リンリンのぬくもりが伝わってきた。

 シングルベッドだから、私は壁ギリギリに横たわっているけれど、リンリンの肌は私に密着していた。

 狭いベッドだから距離が近くなるのは仕方がない。だけど、それにしても近すぎないだろうか? 目を開けられないからどんな感じになっているのか確かめることもできない。

 頭の中でベッドのサイズと二人の寝ている位置を思い浮かべた。

 私はベッドの三分の一以下くらいの場所で瞑想に入ったはずだ。身動きひとつしていないから、その位置から動いていない。

 そうするとリンリンはベッドのほぼ真ん中に陣取っているくらいな気がする。

 遠慮して……とは言わないけれど、もう少しだけ端の方に寄ってくれるとうれしいな。だって、もうすごい近いから!

 とりあえず、私は心の中で念仏を唱えてやり過ごすことにした。念仏なんて知らないから、念仏風の何かでしかないけれど、そうでもしていないと奇声を発しながら飛び上がってしまいそうだ。

「ねえ、もう寝たの?」

 リンリンが私の耳元で囁いた。

 リンリンの息が耳に触れ、前身がゾクゾクして鳥肌が立つ。

 脳内念仏ボリュームをさらに上げた。

「ねぇ、本当に寝ちゃったの?」

 さらにリンリンが耳に息を吹きかけながら囁く。

 はい、寝ました。寝ている人は返事をしません。だからリンリンもそんなこと聞かないで早く寝てください。

 心のなかでそんな風に願っていたけれど、リンリンはモゾモゾと動いてさらに私に体を寄せた。

 リンリンが何をしたいのかわからないけれど、私にできるのは寝たふりを続けるだけだ。

 そう思った矢先、私の頬にやわらかくてあたたかいものが触れた。

「うがぁっ」

 私は慌てて飛び起きてしまった。

「あ、やっぱり起きてた」

 リンリンは笑みを浮かべて言う。

「なんでこんなことするの?」

 あたたかいものが触れた右の頬を手でおさえる。なんだか涙が出てきそうだ。

「神奈ちゃん、私のことが好きなんでしょう?」

 告白したし、その通りなんだけど、それと今の行動に何の意味があるのだろう。私は何も答えられず、涙を堪えながらリンリンを見つめる。

「私のことが好きならうれしいでしょう?」

 うれしい?

 もしもリンリンも私を好きだったなら、これはうれしいことだろう。

 だけど私の想いをこんな風にからかわれてうれしいと思えるはずがない。こんなことになるなら打ち明けなければよかった。

「リンリンは私のこと好きじゃないでしょう? 友だちなんでしょう? だったらどうしてこんなことするの?」

 言葉にするとさらに苦しい。

 リンリンは不満そうに唇を尖らせた。その唇は、多分さっき私の頬に触れたものだ。

「神奈ちゃん……わからないの?」

「わからないよっ」

「じゃあ、わからせてあげる」

 そう言うとリンリンは私の腕を掴んでベッドに押し倒すと、馬乗りになって私の両手を押さえつける。

「な、何しようとしてるの?」

「教えたら抵抗しない?」

「する」

「じゃあ、教えない。おとなしくしててね」

 そう言うとリンリンは私の首元に顔をうずめた。

「ン、ちょ、ちょ、ちょ、睦が隣にいるからっ」

「睦くんなんて関係ないでしょう?」

「関係あるよ、すぐ隣にいるんだよ」

「だから、見せつけるんじゃない」

 リンリンの微笑みが悪魔に見える。

「ダメだって!」

 私は全力でリンリンを押しのけた。

「お前らなにやってるんだよ。うるさいぞ」

 睦が私の部屋のドアを開けて乗り込んできた。

「女子の部屋に入らないでくれる?」

 リンリンは体を起こしながら睦を睨みつける。

 睦は若干乱れた私のパジャマを見て目を吊り上げた。

「おまえ、神奈に何したんだ」

「まだ何もしてないわ」

「神奈をこんなケダモノと一緒に寝かせられるか、こっちに来い」

「ケダモノっていうなら睦くんの方でしょう」

 ちょっと待って、本当にこれ、どういう状況?

 ゲームオタクで恋愛経験ゼロの私は、ちゃんと本物の恋愛をするためにゲームを封印した。

 だけど私が望んでいた恋愛は、こんな修羅場みたいなものじゃないよ。

 もっと平凡でいいのだ。告白をして、両想いになって、手をつないでデートをする。そんなので良かったんだよ。

 こんな難易度の高いゲームは望んでないよ。

 私はこれからどうすればいいのだろう。

 助けて、ベルちゃん。

 私はスマホを手に取るとゲームアプリを開いて現実逃避をすることにした。

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