第60話
我ながら。
昼下がりの森に響き渡るほど、見事な声の口上だったのだが。
「な……?」
人間たちの……いや。
勇者たちの反応は、いまひとつなものだった。
「な、なん……? 魔王……?」
「よくぞ」
もう1回、俺はマントを翻らせる。手で。
「よくぞこの魔王までたどりついたな! 勇者たちよ!」
「魔王様、絶対にわかってもらえていません」
「なにい!? なぜだ!? 今の典型的すぎるセリフでもか!?」
「そういう問題では」
「我こそは魔王!」
「わたしをおろしてから言ってください、魔王様」
むん?
「き……」
やはりロングソードの青年剣士がうめく。
こわばった表情といい、たじろいだ構えといい、それっぽくないわけではないのだが。
「木の枝とか葉っぱとか頭に刺さりまくってる女の子を肩車した謎の男が、猫といっしょに上から目線で魔王とか言っている……!?」
なるほど。
言葉にされると思いのほかヤバいな。
アリーシャごめんな、いったんおりて。
「ずっとおりると言っていましたのに……」
「つい当たり前な感じになってしまってな……。で、こいつらだな?」
「はい。間違いありません」
アリーシャが目で
剣士の青年。
槍術士の男。
魔法使いの女。
俺たちの前に立っているのは、その人間3人。
イールギットの、元パーティメンバーだ。
「ほ……本当に魔王よ!」
魔法使いが叫ぶ。
俺の魔力密度かなにかを見て取ったんだろうか。
ようやく緊張状態になったパーティに、俺は手のひらを向けた。
「待て。戦うつもりはない」
「なにっ……!?」
「いやまあ、結果的に戦うんなら、それはそれでいいんだけどな。俺は魔王だし。お前たちは勇者だし。ただ、その前に」
じ、と剣士を見つめる。
彼がリーダー格ではあるようだが……さて。
「目的を聞こうじゃあないか」
「目的……!?」
「お前たちの。そうだろう? 最初から俺を狙うつもりで、旅をはじめたわけじゃあるまい。この近くまで旅をしてきた結果、そうせざるをえなくなった。そうじゃないか?」
この勇者たちの母国は、俺の領地からずっと北。
身につけている物の端々に、彼らの出自を語るものが含まれている。
しかし、そうでない部分――隣国の、ここからほど近い町でそろえたとわかる装備やアイテムも、いくつも見て取れる。
魔王と戦うことになるかもしれない。
本来、予定外だったのだろう、あわててそろえたということだ。
なら。
「お前たちはもともと、何をしにここまで来たんだ?」
「魔王に答える義理はない!」
「そりゃそうだが。だったら?」
「だ……だったらって、なんだ!?」
「このまま、流れで戦うのか? 俺は別にかまわんが、大義も示さず魔王を倒して悦に入れるほど、どこぞの勇者殿の主義は安っぽいのか?」
……………………
……魔王、ちょっと言いすぎちゃった?
いや別にあおるつもりとかじゃないんだけど、まあその、なんというか。
こないだうっかり、勇者じゃないやつを勇者扱いしてバカを見たからなあ。
イールギットの元パーティメンバーとはいえ、魔王いささか疑いの心地……
「お、俺たちは……任務を果たしに来ただけだ!」
ほう?
任務?
それはまた……少しばかり意外な言葉がきたな。
使命、とか言うならよくわかるんだが。
あるいは深い意味などないのか?
「どういう任務だ?」
「それこそ答える理由はない! ……ただ!」
「ただ?」
「イールギット・ラフカルディ!」
「!」
「彼女の身柄が貴様のところにあるならば、黙って引き渡してもらおう!」
おおっ……
いいじゃないか!
とらわれた仲間を助けに来た、これはなんとも勇者らしい!
勇者、らしい…………が。
ちょっとまてよ?
今でも仲間なら……マロネが言っていたように、内外で呼応して俺を襲えばよかったんじゃないのか?
それとも……
「俺を討つつもりはないのか?」
「ない。魔王とかそういうの関係なく、なんだか貴様とは関わり合いたくない」
「思ってたのと違う理由で地味にショックなんだが、ま、まあ、そうか。仲間を助けることに重きを置いているのは理解した。だがな、あの娘は――」
違うわ、と魔法使いが口を挟んだ。
違う? とは?
「私たちは、ラフカルディを助けに来たんじゃない」
「うむ?」
「逮捕しに来たのよ。我々の王都に連行する」
「……なんだと?」
「だから魔王、あなたと争う理由もないはず」
たい……、何と言った?
逮捕?
イールギットを?
どういう……ことだ?
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お読みくださり、ありがとうございます。
次は1/25、19時ごろの更新です。
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