第48話
クワーーーッコッコッコッコッコッ
コケーッ コケーッ コケーッ
キキャキャキャキャキャーーーッコッコッコッ
「な……!?」
建物の中に、2人して踏み込むなり。
洪水のような音の奔流が、俺たちの耳を圧倒した。
「な、なっ……なにこれえ!?」
「あー!? なんだってーっ!?」
「なにいー!? これえー!?」
「
「なんてー!?」
「よいやみどりのおー! たまごをおー!」
「ハアー!?」
くそっ、うるさすぎる!
やはりここに入るのは気合いが必要だな!
「たまごを安定供給できないか、試してみたくてな! 養鶏場を作ってみたんだ!」
「魔王のやることそれ!?」
「人間社会ほど貿易システムが発達しとらんからな! 食べたいと思ったらとってくるしかない、こんな世の中じゃポイズン!」
「なんか聞き取りづらいと思って好き勝手言ってない!?」
「ゆーておまえも好きだろ!? 宵闇鶏のたまごで作ったオムレツとか!」
「うっ……!」
「今日の朝ごはんもきれいに平らげてくれたと調理方がよろこんでいたぞ!」
「うっさいわねっ!? そんなことまでいちいち把握してんじゃないわよ!」
「クククク! 体は正直ということだな!」
「そんな魔王っぽいセリフいるかッ!」
がんばったのに。
「てゆーかほんとにうるさいんだけど! ちょっとはなんとかならないの!?」
「ならん! 宵闇鶏の習性が幸いして、鶏舎を暗く密閉できたのはいいんだがな! 内部は鳴き声がこだまして、開放系鶏舎に数倍するやかましさだ!」
「それ幸いしたって言う!? あ~頭ガンガンしてきた!」
「がんばれ! あのオムレツを毎日食べられるようにするためだ!」
「ど、どうしろっていうのよ!?」
とか言ってるが、そもそもテイマーに求められることは少ない。
ここにいる鶏たちは当然ぜんぶメスだが……それはさしたる問題でもなかろう。
「機嫌良くたまごを産んでくれればそれでいい!」
「そんな細かいことテイムでしたことないんだけど!?」
「そうか! なら別にテイムじゃなくてもいいぞ!」
「ハア!? テイムじゃなくてどうやってっ……まさか」
イールギットが頬を引きつらせる。
うむ。
テイム以外ならば、まあアレしかなかろう。
「……ええい! <チャーム>ッ!」
いちばん近くの宵闇鶏を、イールギットが指さした。
本来、魔法使い系のスキルではあるが、テイムの感覚をつかむため、テイマーもよく練習する。
元気いっぱいに鳴き騒いでいた宵闇鶏の1羽が、数秒、ぽかんとした様子でイールギットを見上げて……
ココココケーーーッ!!
コケッ!! ココココケッ!!
コケーコケーコケーッコンコケーッ!!
今までに倍する勢いで叫び、羽ばたきはじめた。
すごいな。この魔王をしてイラッとするぐらいうるさい。
「ちょ……ちょっと!? いいのこれ!? 成功なの!?」
「チャームはできてるだろ! さっき途中でケッコンって鳴いてたし!」
「うそでしょ!? いやそれはともかく、チャームと産卵って関係あるものなの!?」
「どうなんだろうな! はっはっはっ!」
「魔王ううううううう!! あったまご産んだ」
お。ほんとだ。
イールギットに惚れ散らかしてるっぽい鶏が、バタバタしながらもちゃんとたまごを産み落としている。
よし!
「この調子だイールギット!」
「ぜんぶやんの!? マジで!? 何羽いるのよいったい!?」
「楽しかろう! いいスローライフだなあ!」
「いやスローライフってこういうのだっけ!? てゆーかアンタがやんなさいよ!?」
「もっともだ! 手分けしよう!」
「あ、やるのね……」
もちろんだ。
俺1人でやるのがめんどくてさびしくて、手伝ってくれる誰かが欲しいと前々から思っていたことはヒミツにしといたほうがいいな、たぶん。
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お読みくださり、ありがとうございます。
次は12/21、19時ごろの更新です。
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