おまけ



「登録名のご変更ですか?」


 がやがやと騒がしい冒険者ギルドの受付で、若い男が首をかしげた。

 ええ、とあたしは大きくうなずいてみせる。


「すぐにお願い。ユミーナから、結美奈に。字はこうよ」


「え……と、ああ、東方からの方ですか?」


「そうよ。本名に戻すってわけ」


「なるほど。登録名変更は初めてですか?」


「ううん、もともとは本名でやってたのさ。元雇い主に、言いづらいとかなんとか難癖つけられて、変えてただけ」


「それは、なんというか。大変でしたね」


「まーねー。あたしが悪いんだけどさ。楽しようとしちゃった報いだと思ってるよ」


 では、と係員の男が登録用紙を出してくる。


「ご存じかと思いますが、制度上、今までの実績はリセットされてしまいます。よろしいですか?」


「ええ。お願い」


「それではこちらにご記入を。必須項目と、あとよろしければ、理由なども」


 理由。

 ……それは書けない。

 書けやしない。

 目標ができたから、と言えば聞こえはいいけど。


 魔王を倒しに行くから、と言えばもっと聞こえはいいけど。


 だけど、きっとわかってもらえない。

 魔王を倒すから名前変える、ってだけでも意味わかんないしね。

 ましてや……


 憧れたから、だなんて。

 救われた気分になって、なかば恩返しのつもりで、絶対強くなって倒しに行きたいだなんて。


 どういう理屈で、そうしたいのか。

 自分でも、ちゃんとわかってるわけじゃない。

 でも。


「あんな魔王もいるんだ……」


「はい?」


「なんでもないよ。魔王、倒さないとね」


「? そりゃ、そうですね?」


 ペンを握る手に、自然と力がこもった。

 いつか、必ず。

 あの魔王の前に立ってみせる。

 そのときあたしは、勇者を名乗るんだ。



**********



お読みくださり、ありがとうございます。

これにて第1部終了です。


少し身辺がばたばたしておりますが、早めに次に動き出そうと思っております。


また近況ノートに書き込みをさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

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