第27話



「我が名は勇者ファレンス!!」


 ガーゴイルたちが守っていた通路を抜けた先。

 ぽっかりとひらけた氷の広間に、ファレンスの声がこだました。


「魔王に終わりを告げる者だ! 覚悟するがいい!!」


「ゴファハハハハハハハ」


 対するは、身の丈4馬身ほどもありそうな魔物。

 なるほど見た目は雪熊の魔物ブリザードベアだが、大きさがふたまわり以上も違うな。

 みなぎる魔力も桁が違う。


 本当に魔王になりたてか?

 言葉を理解して、笑ってもいるようだし――


「笑わせるな人間ごときがこのバドマトスと戦おうなどとふざけたことをだがもうおそい逃げようとしてもむだだぞ氷の彫刻にしてくれるわなにせこの」


 うわああああなりたてだった!

 しゃべれることに慣れてなさすぎる!

 せめて句読点くらい会得してから魔王名乗れよ!?


「そもそもキサマら人間どもがわがもの顔でいることこそがまちがっている肉体的魔力的な圧倒的強者たる我々魔族こそすなわちこの魔王こそが」

「ええいごちゃごちゃうるさい! とっとと片付けてくれる!」


 そうだなファレンス。

 急いだほうがいい・・・・・・・・

 たぶんだけどな。


「いでよ魔物どもこやつらを八つ裂きにせよ八つ裂きといっても必ずしも8回裂けというわけではなくつまり」


「ゼルスン! 能力強化を! タテノスはザコどもを狩れ! ユミーナは適当に遊んでいろ!」


 うん?

 弓ちゃんに指示しないのか……?

 ほほう。


 それで倒せる、ということか。

 この魔王を。

 いいねえ!


「勇者の剣を受けてみよ!!」


「グオオオオオオ!!」


 振り回される巨大な腕をかいくぐり、ファレンスが魔王の脚に斬りつける。

 魔力を帯びた毛皮に守られて傷はついていないが、ダメージはあるようだな。

 あれは本当にいい剣だ。


「体勢が崩れましたね」


 相変わらず、俺だけを守ってくれているアリーシャにうなずく。

 決めきるならここだ。


「味わうがいい!!」


 距離をとったファレンスが、ひとたび剣を鞘に戻した。

 力を集中させているのがわかる。

 剣の柄をにぎる彼の手元に、赤い光が宿って――


「<ヴァイオレットジャスト>!!」


 抜き打ちの斬撃が灼熱の軌跡となって、魔王を斜めに打ちすえた。

 轟く咆吼。

 魔王のまわりの氷壁までがひびわれ、白い煙となって崩れる。


 おお……!

 これが必殺技か!

 なるほどなるほどかっこいいじゃないか!


「やったぜファレンス! 楽勝だなあ!」


 鎧くんの笑い声が響く。

 弓ちゃんは……魔王の手下を相手取る鎧くんを、地道にサポートしているようだ。

 ふむ。

 手下相手の戦いは、ほぼほぼ決着しているようだが……


「む……!?」


 ファレンスが顔を上げる。

 たちこめていた氷の煙の向こうから、魔王バドマトスがのそりと現れた。


「なにっ……!? 手応えはあったはず!」


「ほほ~。タフだねえ」


「くっ。勇者の技を耐えるとはこしゃくな! だが何度でも……っお?」


 ずず、とバドマトスが後ずさる。

 のどの奥で小さくうめきながら、思いのほかにすばやい動きで、背後の洞窟に入っていった。


 逃げた?

 ……いや?


「はははは! 見たか! やはり効いていたのだ、魔王のくせにやせがまんしおって!」


「……かな?」


「行くぞ! トドメを刺すのだ!」


 抜き身の聖剣を手に突撃するファレンスに、鎧くんたちが続いていく。

 おーし。

 俺も行くぞー!


「ゼルスン様」


「わかってる」


 小さく、しかし鋭くささやいたアリーシャに、ひとつうなずいてみせる。

 わかっているとも。

 これは罠だ。


 そして当然。

 おまえもわかっているんだろう? ファレンス。

 罠とわかっていて、正面から挑みかかる。


 ふふふ。

 ふふふふふふふ……!

 勇者だ勇者!


「俺は今っ……勇者パーティにいるぞおー!」


『はーい幼稚園のみんな~、よく見てくだちゃいねー。あれが、魔王が絶対しちゃいけないテンションの上げ方でちゅよ~』


 ちょっとまってマロネおまえ何してんの!?

 しばらく静かだと思ったら!

 幼稚園!?

 もしかしてとんでもないことしてない!?


「城であずかっている魔物の幼体に、こちらの映像を見せているようですね……」


「うっそだろ!? うっそだろあいつ!? する!? そんなこと! あいつ悪魔!?」


「近しくはあるかと」


 だよなあ!

 闇の精霊だもんなあ!

 チクショーーー!!



**********



お読みくださり、ありがとうございます。


次は11/25、7時ごろの更新です。

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