第20話
翌日の朝早く、俺たちは町を出発した。
総勢5人のパーティ。
ファレンスに、俺とアリーシャを加え……
あとは先だっての話通りに、弓術士と重装兵が1人ずつだ。
赤銅色の全身鎧の男と、大きくてシンプルな弓を装備した女。
男の名前は……あー……なんだったかな。なんか自己紹介はされていた。たぶん鎧くんとかだ。
女の名前は、んー、あー……なんだったかな。きっと弓ちゃんじゃないか。知らんけど。
て、適当に流してたわけじゃないぞ。
ファレンスの紹介もちょびっとだったんだ。
顔合わせは文字通り顔を合わせただけ。
あとは全員で馬車に乗り込み、会話らしい会話もなく……
いや、人間社会とは、実に厳しいものだな。
あれが毎日続くパーティもあるんだろう?
俺にはちょっと無理だ、耐えられない。
人間の働き者はスゴイ!
『ファレンス
「しゃべってはいたが、会話ではなかったぞ……」
耳元で響くマロネの言葉に、思わず声を出して答えてしまった。
確かにしゃべっていた。
ファレンスはずっと。
自分の装備の自慢話とか……
自分の勲章の自慢話とか……
自分の実家の自慢話とか……
あと……なんか……自慢話とか……
いや。いい。
別にそれは、いい。
国の公認勇者なんだしな。
誰かに話したい自慢もひときわ多かろう。
なぜこのタイミングだったのかはともかく。
それより引っかかったのは、連れの2人のほうだ。
『弓のやつと鎧のやつが、これまたず~っと持ち上げるもんだから。そりゃファレンス氏も止まらんでござる。吟遊詩人もびっくりのベシャリでござりましたですよフォカヌポゥ』
「そういうおまえも、いつもに輪をかけて妙な言い回しだな……闇の精霊の文化か?」
『そんなようなものです。あ、ゼルス様、あんましマロネに反応してると不審に思われちゃいますよ?』
なら反応したくなるささやきをやめい!!
「ゼルスン? どうかしたか?」
ほらファレンスに振り向かれたし!
「いや、なんでもない。なかなか立派な入り口だなと思って」
「年季の入ったダンジョンらしいからな。だが、私にとってはこけおどしだ」
「そうなんだろうな、きっと」
「入り口といえば、去年攻略した南のダンジョンの入り口も立派なものだったな。あのときは、私の<ヴァイオレットジャスト>がダンジョンの主を1撃で倒したが」
そうさ! と応じたのは弓ちゃんだ。
「ファレンスの奥義で1発だったね! あたしはただ見てただけみたいなものだよ!」
どうなんそれ。
「さて、それじゃみんな、中に入ってみよう。……ふむ、入り口からすぐ下り階段か。このパターンは、2年前に攻略した東のダンジョンと同じだな」
「へえ。よくある構造なのか」
「まあ、私が知り尽くしているから、ゼルスンも安心したまえ。あのダンジョンでは、私の<ヴァイオレットジャスト>がダンジョンの主の急所を貫いて倒したんだ」
そうだったな! と応じたのは鎧くんだ。
「ファレンスの必殺技は文字通り必殺だ! オレはただ構えてただけみたいなものだぜ!」
デジャブかな?
「ふふふ。ゼルスン」
「おう?」
「今、デジャブかな、とか思っただろう?」
「なにっ……!? な、なぜわかったんだ!? ファレンスは伝説の黒魔術師かー!?」
ていうか思わないやついる?
「はっはっはっ、安心したまえ。私はなにも、同じ話をオウムのように繰り返したいわけじゃない」
「そうか。それは安心した。マジで」
「ただ、今までの武勲を語るとなると、どれも同じような、至上の結果をしゃべるしかない、ということなのだ」
そこだけ聞くと期待が高まるんだがな。
俺の勇者育成プログラムの改善も、はかどってくれそうだ…………
まてよ?
このダンジョンの魔王とやら。
そいつがもし、めっちゃ弱かったら……?
そのときファレンスは、必殺技を使うのか?
俺はちゃんと、ダクテムが追放された理由を、『力の使い方がわかっていなかった』とやらを、見切れるのか!?
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次は11/22、21時ごろの更新です。
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