第17話
「え、え~っと。要するに……」
いろいろと、虚をつかれた感じも否めないが……
つまるところ、こいつは?
「俺のこと、スカウトしに来た、ってことで……いいのか?」
「最初からそう言っているだろう?」
「言ってねーわ!! 少なくとも俺の知ってる人間語にはなかったわ!!」
「はっはっはっ、ゼルスンはおもしろいなあ。エルフみたいなことを言うじゃないか」
ぎくり。
やべやべ、人間語とか言っちゃいかんわ。
よけいなことに耳ざといなこいつ。
マロネタイプか。やだーん。
『なんかマロネの悪口言いましたあ? ゼルス様』
どんな直感力だよヤベーな闇の精霊。
つーか、今はおまえの声に反応できねーの!
返事したら怪しまれちゃうだろ。しっしっ。
『なんかわかんないけど、いっか……。ごはん作ってきますねーっと』
おいコラ見るのは見とけよ、こっちをよ。
なんなんだあいつマジで。
「お待ちください」
ざ、とアリーシャが1歩前へ出た。
普段通りの静かな表情。
なんかもう、マロネの10倍頼れる感あるぞ。
「失礼ながら、ファレンス様。あなたが本物かどうか、ご証明を」
「ふむ?」
「わたしはアリーシャ・ベル・エル・ファンカトラスと申します。ゼルスン様のもとで教えを受けている者です。我々は田舎者ゆえ世事うとく、しかしファレンス様のお名前はよく存じ上げております」
「光栄だな」
「本物のファレンス様であれば……」
うながすように言葉を切るアリーシャの前で、ファレンスが腰の剣を抜いた。
夕暮れどきの儚い光をも、しっかりと照り返す刀身。
この研ぎ方は……聖剣か。
「Sクラス勇者にしか所持を許されない逸品。12の聖剣がひとつ【ロンダルギア】、そのアリオクラスとして鍛えられたものだ」
「アリオクラス・ロンダルギア……炎の聖剣ですか。Bクラス以下の冒険者であれば、握るだけでも精神力を消耗するという」
「証明になったかな?」
「ありがとうございます。非礼をおゆるしください」
ぱちりと剣を鞘に納め、ファレンスは片方の眉を上げた。
「いけないな、ゼルスン? 太陽神の使徒ともあろう者が、こんなかわいらしいお嬢さんと2人旅とは」
「使徒は元だし、俺はなまぐさなもんでね。女に鼻の下のばすし、酒も肉もやるぜ? アリーシャは預かってるだけだけどな」
「それはいい。これから食事だな? さっそく魔王攻略について話し合おうじゃないか」
「いやいやいや、まてまてまて! さすがにちょっと、話が早すぎ――」
「無論、私がおごる」
「行こうじゃないか」
物言いたげなアリーシャの視線を、華麗にスルーして胸を張る。
俺じゃない……俺じゃない!
魔王領が貧乏なんだ!
魔王なんてしてると、ものすごく物入りなんだ!
支出歳出もマロネにまかせきってるから、あいつの口から「切り詰め」って言葉が出ると、魔王でも逆らえない!
お小遣い制度やむなし!
「私にふさわしい店がある。近くはないが、ま、付き合ってくれたまえ」
返事は待たずに先を行くファレンスの背中を、俺はじっと見つめた。
彼が……ダクテムを、パーティから追放した、勇者。
ファレンスの行く手を空ける町の人間たちの反応を見ても、立場に間違いはないだろう。
ダクテムの何が、不足だったのか。
この勇者が何を、必要としているのか。
「そのためにも俺は、役に立つ必要があるな……」
「ゼルスン様、くれぐれもご注意を」
「ああ。せいぜい努力するさ」
「そうではなく……役に立たれすぎなさいますと……」
はは、またそれか?
アリーシャは買いかぶってくれるなあ……
でも魔王!
そういうのうれしい!
もっと言って! もっと買いかぶってちょうだい!
『ゼルス様あ、今日のこっちのごはんは、レンテ牛の丸焼きにしてみました~♪』
なんか、こう、マロネおまえ、ほんともう、いっぺんぶっとばすぞ。
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お読みくださり、ありがとうございます。
次は11/21、21時ごろの更新です。
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