第9話 晩餐

──ユナの魔女認定試験は

2日後に迫っていた。

今日もユナとの資料館通いを終え帰宅する。


近頃は夜に時間があれば、

スリーズと一緒に夕飯を作る様になった。

料理好きの俺には楽しい時間だ。


「テルアキは料理上手だねぇ。

魔法も使えて、料理もできて、

男前で……大したもんだよっ」


「いや、男前は分かりませんけどっ。

ところでスリーズさん? この街に


『何かのお祝いに美味しい

夕飯を外で食べよう!』


みたいな事に使える

オススメのお店ってあります?」


「さては、噂のユナちゃん?

もうすぐ魔女の試験だったわね。

……って、合格祝いに彼女へご馳走!?

やだもうっ! こっちが照れるじゃないの!」


(いやっ、彼女じゃありませんけどっ!

そして照れる前にお店の情報を!)


「それなら、私の妹夫婦が

やってるお店はどう?

この街で特産の、羊や牛の焼肉が

美味しく食べられるお店よ。

お店の場所、後で書いて渡すわね」


「ありがとうございます。

羊の焼肉ですか? それは楽しみです」


「さて、夕飯出来たわよ!

今夜は羊のミンチ入りラザニアっ。

火傷しないように食べてね」


「わーいっ! シクルの大好物ー!」


──スリーズの妹は『マイス』、

その夫は『パステーク』と言い

宿屋を兼ねた食事屋を営んでいるそうだ。


翌日、俺はその店を訪ね、

ユナの魔女認定試験が終わる夜に

席の予約をしておいた。


──魔女認定試験の当日、夕方。


魔法書店を訪ねる。


……カランカラン♪


「ミエルさん、こんばんは」


「あら、テルアキ君、こんばんは。

ユナちゃんはそろそろ帰る頃よ。

試験の結果は当日出るから、

一緒に吉報を待ちましょう」


……暫くしてユナが帰宅した。

ユナの明るい声が店内に響く。


「ミエルさんっ! やったよ!

魔女っ! 合格しましたーっ!!」


「あらっ、良かったわねぇ。

ユナちゃん! おめでとう!」


「ユナっ! よく頑張ったな。

合格おめでとうっ!!」


「あっ! 僧侶様!?

うん、合格したよ。ありがとう!」


皆でユナの合格を分かち合う。


「あの……、ユナ、ミエルさん?

今日は俺に夕飯をご馳走させて下さい。

オススメのお店、予約してあるんです」


「えっ? 良いの? 僧侶様っ。

わーい、ありがとうっ!!」


「あら、テルアキ君、流石だわ。

では遠慮なくご馳走になりましょう。

今日は美味しいお酒が飲めそうね」


──予約した店に到着する。

店内は食事と酒を楽しむ客で賑わっている。


「こんばんは。予約してた者です」


「いらっしゃい。

テルアキ君、ようこそ。

今日はゆっくり楽しんでいってね」


マイスとパステークに

挨拶を済ませ、食事を楽しむ。


「んーっ。羊の焼肉、美味しいっ!

あ、その肉も頂きっ」


(……あっ、俺が食べようとした肉!)


「つか、ユナ! 野菜も食べろよな」


「いいのっ。今日の私はお肉の日♪

合格祝いだもん。えへへ」


この笑顔の前では

何も言えなくなってしまう。

そんなユナの笑顔に少し見とれた後、

ミエルに声をかける。


「ミエルさんも、遠慮せずに……

って、えっ!?」


「うー……もう1杯~!!」


ミエルは意識を失いかけた状態で

酒を追加注文しようとしている……。


「……ちょっ!?

ミエルさん? 大丈夫ですかっ!?」


「うー……なーに? テルアキ君……。

私が酔ってるとでも言うのっ?」


ミエルが俺の肩に抱きかかってくる。


(……これは、なかなか面倒なヤツだ!)


「ユナッ? ミエルさんは飲むと

いつもこうなのか?」


「うーん、大体こんな感じかなぁ。

魔法書店まで運ぶの、大変なんだよねー」


すると、ミエルはテーブルに顔を伏せ

眠り始めた……かと思ったら

急に起き上がって大声で叫んだ。


「アベーユの馬鹿ぁっっ!!」


(……なっ!? アベーユって誰っ!?)


「あんたがっ! あの時ーっ!!」


そう叫んだ後、ミエルはそのまま

眠ってしまった。


(……あの時って一体!?)


「今日はミエルさんの

新しい一面を知ったな」


「ミエルさんのこんな姿、

びっくりしちゃうよねー」


「ところで、僧侶様?

お店の予約してくれてたけど、

もし私が試験に落ちてたら

どうするつもりだったの?」


「それは考えなかったな。

ユナはずっと頑張ってたから、

……受かるって信じてたよ」


「あはは。僧侶様、

何かカッコイイこと言ってるー」


ユナは人差し指で俺の胸元を

ツンツンと押しながら笑顔を見せる。


「そぅそぅ、僧侶もたまには

カッコつけるんだよ」


こんな会話がとても楽しい。


──食事を終え、店内を見渡すと

1枚の張り紙が目にとまった。


『 ─ロティール祭り期間中─

夜のお手伝いさん募集!』


「僧侶様、どうかした?」


「ああ、この貼り紙なんだが……?」


「そっか。もうすぐ街のお祭りだね。

お祭りは国中から人が集まるから、

お店も忙しいんだと思うよ」


(……ちょっと興味あるな)


──店を後にする。


深い眠りについたミエルを運ぶのに

ムーヴの魔法が役に立った。

俺とユナは酔ったミエルの介抱を

少しでも楽しむ為、

ジャンケンをして負けた方が

ミエルをムーヴで浮かせて50歩運ぶ……

という遊びをしながら帰った。


──翌日、森林業の作業場。


「クルガーヌさん、近々この街で

お祭りがあるんですか?」


「あぁ。

テルアキにはまだ伝えてなかったな。

5日後から始まるぞ。

祭り開催中の3日間、仕事は休みだ」


「そうなんですね。では、

作業場の皆さんもお祭りに参加を?」


「そうだ。

ただ、参加と言っても遊びじゃないぞ。

この街の祭りは、事業の宣伝や

商品の展示・商談も兼ねてるから、

俺達は各地から来る業者に

木材や加工品の宣伝だな。

勿論、賑やかな祭りとしての催しも

沢山あるけどな」


(何だか、現実世界の

『企業展示会』みたいだな……)


「でしたら、お祭り期間の夜、

俺は『マイス』さんのお店で

働いてても良いですか?」


「それはマイスも助かるだろう。

是非俺からもお願いするよ」


(……よしっ。久しぶりに

現実世界の家に居た時みたいに

料理の仕事を楽しめるぞ。

ところで、ユナはどうだろう?

祭りの日はどう過ごすのかな?)


──祭り当日のユナの予定を聞く為、

魔法書店を訪ねる。


……カランカラン♪


「こんにちは」


「あ、僧侶様、こんにちは。

昨日はご馳走様」


「ところでユナ、

祭りの日、予定はあるか?」


「んーと、午後まではここのお店で

働くけど、夕方からは空いてるよ」


「そうか。夜、俺はマイスさんの

お店を手伝おうと思っているんだが、

ユナも一緒にやってみないか?」


「わーっ、ウエイトレスさん?

何だか面白そうだね。

ミエルさんに聞いてみるよ」


……ミエルが奥から現れる。


「テルアキ君、昨日はご馳走様。

話は聞いてたわ。お祭りの夜の件、OKよ。

ユナちゃん、しっかり人生経験を

積んでらっしゃいな」


「ミエルさん、ありがとう。

楽しみだなー」


こうして俺とユナは祭り期間の夜、

マイスの店で働く事になった。


──祭り当日。


大勢の人々が街を訪れている。

一方では賑やかに祭りのイベントが催され、

また一方では業者が集まり商談を行い、

大いに盛り上がりを見せている。


──夕方、マイスの店。


「テルアキ君、ユナちゃん、

3日間よろしくね! 忙しくなるから助かるわ」


「はい、よろしくお願いしますっ」


「まずは着替えね。

2人ともこれに着替えてくれる?

ユナちゃんは奥の部屋でね」


マイスから渡された服に着替える。

俺は白いシャツに黒のパンツをはき、

厨房作業用にエプロンをする。


……ユナが着替えを済ませ、

奥の部屋から出てくる。


「あらっ! よく似合ってるわねっ」


白いシャツの上に黒のベスト。

下は動きやすいように

黒の膝丈タイトスカートだ。


「えへへ。僧侶様、どう?

私、可愛い??」


……と言いながら、笑顔で

クルっと一回転して見せるユナ。


「……かっ、可愛いっ!

普段は魔女らしいロングスカートなのに……

膝丈スカートって!

それに! シャツとスカートだと

体の線とか少し出てるしっ!」


(……ええっ!?)


俺の反応にユナはハッと驚いて

戸惑いの様子を見せた。

そして前かがみになり、

両手でスカートの裾を押さえて

照れながら声を上げる……。


「ちょっ、もぅ! やだっ、僧侶様!

……どこ見てるのよっ!?

そんな風に言われたら、

こっちが恥ずかしいよっ!」


「……はっ? えっ!?

……俺!? 今、声に出てたっ!?」


「そ、そうだよ……もうっ」


(……しまった!

ユナの余りの可愛さに、

思った事が声が出てしまった!?)


俺は照れながら、

苦し紛れに言い訳をする……。


「あわわわっ!

……で、でもっ! 仕方ないだろっ!?

そう思わせてるのはお前なんだからなっ!」


「……もぅっ! バカっ!」


2人とも真っ赤になり

下を向きモジモジとしている。


「あははっ。若いっていいわねぇ!

さ! 2人とも緊張は解けたかしら?

お店、開けるわよ!」


──こうして、マイスは

互いに照れ合う俺とユナの背中を

バンバンと叩き、入口に

『welcome』の札を掲げるのであった。

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