第49話 終わりの鐘が鳴る…?
理事長との打ち合わせ後、櫻と二人、寮への道を歩いていた。最近は生徒会主催行事が多く、なんだかんだ調整するために櫻が遅くまで遅く残ることが多く、一緒に帰る機会が少なかったことに気づいた。
「ねぇ総花」
「なんだ」
櫻がふいに立ち止まる。
コイツが不意に立ち止まるとなにか良くないことが起きる。そう直感が囁いていた。
「理事長の話どう思う?」
「いや、やるしかないだろ」
彼女の質問にするしかないだろと答える。出征命令だ。指示じゃない。
「本気でそう思ってる?」
しかし、彼女はなにか感じとったらしい。うーん。こういうときって、意外と勘が鋭いんだよなぁ。
正直、今回の作戦は小萩さんも師節先輩も無茶なんだよねぇ。
コイツの直感力は半端ないのだ。
「なにが言いたい」
とはいえ『作戦』に加担してしまっている以上、それを遂行したい、櫻がどういう反応示すのか、そして櫻がトラップをどう避けるのか見てみたい。そんな『願望』が俺にはあった。
だから、理事長の『命令』に俺は従う方を選ぶ。
「あれ嘘でしょ」
しかし、櫻はそれを否定してくれた。
理事長や小萩さんたちの思惑をぶった切ってくれた。
「は?」
もちろんこの驚きも演技だ。本当に驚くわけなんかないよ、櫻。
「陸陽と戦いなんてそんなの架空じゃないのかな?」
「どうしてそう思うんだ」
どう
もちろんコイツのことだ。ただ直感というだけではあるまい。
「だってそもそもあの家って元は五位会議を構成していた家。今は師節と卯建、ううん、今でいう紫条家へ譲ったけれど、もしそんな理由であの人たちが反旗を翻したなら、それは
櫻の前に理論など要らなかった。
たしかに武芸百家であるならば知っているはずの大事件。幼子でも知っていて
あのときもう一つの家と五位会議を追われたのは皆藤家の反逆。
それを今更、そのときの復讐なんて、なにを考えているんだかってなるわな。
俺は少しだけ食い下がってみる。櫻には気づかれないように
「そうかな」
「だから理事長の話ってかなりおかしい話なんだよ」
それでも櫻はぶれない。次の一手は……――そうだな。こう言うしかないか。
「でも、別の理由で反旗を翻したっていうのは考えられないか?」
「うーん、それはどうだろうかなぁ。あの家が五位会議から凋落した理由って、たしか一族で大モメして一部が皆藤家幹部、《十鬼》への傷害事件によるものだから、これ以上皆藤家へ反発したらお家取りつぶしだよ」
すぐに反論する櫻。相変わらず理論というよりも感覚に近い言葉だったが、それには頷けるものがあった。
江戸時代中頃までは皆藤家に反逆を企てた時点でお家取りつぶしになったが、たまたま明治維新と重なったときだったか、関東大震災のときだったか忘れたが、当時の社会情勢のゴタゴタで降格処分だけで済まされたのが陸陽家。そしてもう一家も似たような社会情勢により、降格処分で収まっている。
どちらもある意味、幸運に恵まれた家だ。
「ああ、なるほど」
「だから、そういった意味でも私たちを出陣させる意味がない。むしろ、私たちを出陣させれば、相手は成人が大量におしよせてくる。勝ち目はゼロとは言わないけれど、相手は双棒術。接近戦で勝てるのは同じ起源を持つ伍赤か、マルチプレイができる皆藤家だけ。私が一人だけ出ていく必要性を感じないし、伍赤と同時に遠距離の紫条が出る必要を感じない」
続けて言われたのはそれまでとは違った
しかし、それを否定できるものはない。
「……――――」
「ソウはこの陣営についてなにか聞いているの?」
櫻の強い視線を受けつつ、俺は考えた。どこまで櫻はこの質問で問いかけているのだろうかと。
「いや、
俺は強く否定する。もちろん聞かれたのはこの陣営についてだから、すべて否定できると天に誓おう。
「ふぅん」
そんな俺の言葉にそっけなく返した櫻は踵を返す。
「どこに向かうんだ?」
「どこって決まっているでしょ」
なんとなく察しはついていたが一応、確認しておく。
理事長のところ。売られた喧嘩は返しにいこう。
久しぶりに櫻の強気の発言。そして、猫のような鋭い視線。コイツに従うことにした。
「理事長、あの戦って、本当は嘘ですよね?」
理事長室に入ると同時に宣戦布告した櫻。さっきと同じところ見ると蠢く二つの影は見えないことから、小萩さんと師節先輩はどこかに退散したんだろう。
「どうしてそう思う」
理事長は一瞬びくってなったが、さすがに経験豊かな大人なんだろう。櫻が気づかない程度にはあまり動じてないように見える。しかし、櫻は追及の手を緩めない。俺にしたのと同じ説明を繰りかえす。
それをじっくりと聞いた理事長はにやりと笑う。さっき、最後に櫻に向けたあのあたたかい笑みではない。
「お見事だ。情報の精度を考えずに直感で見抜くとはな」
「情報の精度?」
この情報戦を仕掛けた人はそうほくそ笑む。それには俺も少し驚かざるをえなかった。
「たしかにお前が言うとおり陸陽は
「それだけじゃダメなんですか?」
櫻の疑問に俺も頷く。実はこれは俺も理解できてない。
皆藤家に対して陸陽家が戦を仕掛けたというのは事実だ。
「正確にいえば
「えっ……――」
『惜しい』か。ということは、古文書の情報だけだと不十分ということか。
だとするならば……――まさか俺に振ってくるとはねぇ。でも、考えるのは嫌いじゃないからいろいろな関係図を脳内に描いて考える。
「まさか」
一枚の関係図をめくったとき、ひとつ気づく。陸陽家が戦を起こさない証拠。
たしかにそれは古文書より
リーチがかかっているからなんていう、非科学的な理由じゃない。とはいえ、ただそれだけではリーチがかかっているからと似たりよったりの不十分さじゃないのか?
俺があげた声になんだ? と興味津々の理事長。
「まさか紫条家と遠戚であるからとか、そんな理由じゃないですよね?」
伺うように言うと、大爆笑する理事長。
「そのまさかだ」
紫条家と陸陽家は先代首領の従兄弟同士が結婚している。それによって皆藤家への帰順の楔となっている。
理事長の言葉は俺と櫻を突きさす。
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