エレキギター
「ムスタングだっけ、この前弾いてたの」
僕は壁に飾ってあるギターを見ながらそう言った。
「ジャズマスターです」
「そっか、ジャズマスターか」
「似てますからね」
「何を使っていたんですか」
「ストラトキャスター」
「いいですね」
ユキちゃんは特に目当てのギターがあるわけでもなくギターをながめている。
まずい。ぼくのほうがギターが欲しくなってしまう。
「何か欲しいギターはあるんですか」
「ありすぎて目移りしちゃうんです。フクロウさんは欲しいギターあります」
たしかにそう言われると、僕だって目移りしちゃってどれか一つなんてわけいかないよなあ。結局買うときは値段できめちゃうような気がする。
「リッケンバッカーなんてどうですか」
「ソロ向きではないって聞いたことがある」
「そうなんですよね」
ユキちゃんがちょっと悩ましげな顔をする。
「これなんかどうですか」
ユキちゃんが変形ギターを指差す。
「モッキンバードですね」
「どうなんですか」
「値段の張るものはいいみたいですけれど」
「そうなんですか」
そのギターはセールとはいえかなり安く廉価品のようだ。
「弾いてみたらどうですか。二本目としてはこの値段ならいいかも」
「そうします」
「この前美咲と別れた後に会ったのってアイツだったんだって」
「間違いないよ。美咲ちゃんは否定しそうだから黙ってたけど」
「正しい対応だね。アイツならやりそうだし」
嫁は少し不機嫌そうな顔でピザにかじりつく。
「食べたら。おいしいから」
そうはいっても、夕飯食べちゃったし。嫁の分も用意していたのに。
「無性にピザが食べたくなって。帰りの電車でもピザのことばかり考えてた」
まあ、食べたいときに食べるのが一番。
「明日の朝にでも食べるよ」
「ねえ、ギター欲しいの。エレキ」
「いらないよ、持ってるし。でもあのアンプは欲しいかな」
「どんなやつ」
「ちっちゃいやつだよ。5千円くらい」
「そんなに安いんだ」
「ほんとにちっちゃいから」
「連れがいたって聞いたよ」
誰に見られたんだろう。あいつの同僚とか。ありえない話ではない。
「黒マントの女の子だよ。偶然声かけられて」
「あのバンドの子」
「そう。声かけられなきゃわからなかったけど」
「そうかあ。ま、普段から黒マントは来てないよね。こんどメールしてみる」
「メルアド知ってるの」
「アンケートに答えたら、メールが来たよ」
「それで、何でショッピングモールなんかにいたの」
「ギターを見るの付き合ってほしいって言われたから」
「そうじゃなくて、そもそもの目的だよ、フクちゃんの」
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