第9話:食の旅【後編】

パチ!


火花が散る。


炎が鍋を加熱する。鍋の中には目の前に広がる海水が入っている。


俺の耳に入ってくるのは鍋を煮込む音と小波の音、背後から未だに宴で盛り上がっている酔ったエルフの声。


この世界に来て塩を海から取るとは思いもしなかった。


そう思うとため息が自然と出る。


「タクミ~ヒクッ」


少し良いから冷めたのか顔色がよくなったロビンが俺の元に来た。


「何してるんだ?」


「塩を取ってる」


塩を知らないロビンは鍋の中を覗きずっとそれを眺めていた。


暇だ・・・・・・。


何ができるか分からないロビンはワクワクと楽しそうに鍋を見ている。


「そういや、タクミはこれからどうするんだ?」


ロビンは鍋から目を離し、俺の目の前に浮かぶ。


「しばらくはここにいさせてもらうよ。まあ準備が整い次第旅に出るつもりなんだがな」


「そうなんだ」


会話が途切れた。沈黙が流れる中、火花がまた音を立てて散る。


ロビンは再び鍋に目を向ける。


徐々に水分が蒸発していき残っていくのは白い粒。


「タクミ、水が無くなったぞ」


俺は鍋の中を覗く。鍋に残った塩を指に付けてなめる。


しょっぱい。塩の完成だった。


だが塩が採れたのはわずかだ。1週間も持たない量だった。


これは日課になりそうだな・・・・・・。


「これが塩?」


「そう、少しなめてみて」


ロビンは指に塩を付けてなめる。

角砂糖四分の一くらい・・・・・・。


「しょっぱい!」


見てて分かっていたが量が多かったみたいだ。舌を出してあたふたするロビン。


「こんなもの何に使うんだ?」


「ナイス着目点」


俺はロビンを褒める。


「な・・・椅子?」


俺はあらかじめ、あのおっぱ・・・コホン!エルフお姉さんに魚を貰っておいたのだ。


鍋を退けて、その辺に落ちていた木を魚の口から刺す。


さっきできた塩を魚の全身に満遍なく振りかける。そして焚火の近くに木の根元を砂浜に刺して放置。

魚が焼けるのを待った。


数分後。


魚の両面が焦げたので俺は魚を取る。そして身をかじる。


魚本来の味に塩のお陰でさらにうまく感じた。素焼きより何倍もおいしい。


俺はよだれを垂らしてみているロビンに魚を渡す。


「食べてみて」


ロビンはゴクリと固唾を飲んで豪快に魚にかぶりついた。


「!ん~」


あまりの美味しさに驚いたのかロビンは宙に踊り舞う。


「凄く美味しい!いつもと同じ魚なのに、全然違う!」


「そう!これが塩の力!」


俺は自慢げに塩を掲げていった。


「おお!塩すごい!」


塩の凄さを知ったロビンは目を輝かせて塩を見る。


まあ、日本ではどこの家庭にもある調味料なのだがな。まあ文明の発達が遅れているこの世界では凄いことかもしれない。


さて、塩の次は唐辛子だな。だが唐辛子って熱いところで育つって聞いたことあるが、そもそもこの世界にと唐辛子ってあるのか?


あの、おっぱ・・・コホン!エルフお姉さんに聞いてみよう。



「辛い調味料?トウシガラならあるわよ」


とても唐辛子に似ている物があったみたいだ。いや普通に唐辛子だった。


お姉さんによると梁海リャンハイという国に盛んに栽培されているらしく、豆料理とすごく合うそうだ。


これを聞いた俺。


絶対、麻婆豆腐だろ!

豆と唐辛子の料理と言えばもうそれは麻婆豆腐で間違いない。

絶対、梁海に行こう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る