正義と焔と少年と

あじは

第1話 始まり

未来、ミグレイナ大陸。

エルジオン・エアポートの一角で、旅ながらアルドは採集をしていた。


「お、トルマリン見っけ」


アルドは採集が得意である。幼い頃から日常的に行っていたからか、それともの生態のせいか。道端に落ちている価値ある物がキラキラ光って見えると言う。

先ほど見つけたトルマリンを、腰につけた素材袋にいれると幾分か重みが増したのを感じた。これを鍛冶屋へ持っていけばかなりのGitが手に入るだろう。


「そろそろイシャール堂に行こうかな」


イシャール堂とは曙光都市エルジオンに立地する鍛冶屋のことだ。仲間であるエイミの父ザオルが店主をしており、彼の気前の良さに甘えこれまで何度もお世話になった。

よし、と立ち上がりエルジオン行きのシップへと向かうアルドの背中に突如、何かがぶつかった。


「いてっ」


思わずバランスを崩し膝をつく。振り返ると1人の少年が尻餅をついていた。今の衝撃はおそらく少年のものだろう。「大丈夫だったか?」と、ぶつかられた側であるはずのアルドが気遣うも、少年は頷きもせずそそくさと立ち去ってしまった。


「…シャイな子、とか?」


まあいいや、と再びシップへ向かって歩き出す。

それにしても、珍しい少年だった。凄みのある眼をし、衣服はところどころ擦り切れ土汚れもついていた。すべてがきれいに整頓されている未来の都市付近で、あの少年は少し異質だった。

停留所へ到着すると同時にシップが出発してしまった。恐らく先ほどの少年が乗ったのだろう。時間に追われていないアルドは、特に気にすることもなくシップを待つことにした。

すると今度は1人の青年_正確には1人ではないが_が一散に駆けてきた。アルドに目もくれずシップがあった場所で立ち止まった青年は、「くそっ」とブロンドの髪をかき上げる。頬を伝う一粒の汗が陽光を反射した。と、そこでようやく青年はアルドの存在に気がついた。


「ああ、アルドか」

「やっぱり、セティーだったか!」


天色の瞳が瞬く。何か言いたげに口を開いた瞬間、やけにお気楽な声が耳に入る。


「アルドか〜!久しぶりだね!ボクらとは旧KMS社を探索した以来かな?」


宙に浮かぶ白い球体が、両端に付いた板のような部品をくるくる回す。


「こらポンコツ!今は懐古している場合ではありません」


宙に浮かぶ黒い球体が、ピカッと青い光を放つ。

彼らはレトロ、クロックといい、COAに所属するセティーのサポートを行うポッドだ。彼らの捜査はレトロを起点として賑やかなもので、単に捜査官とその補助という関係には見えない。ただ、今は賑やかどころではないようだが。


「どうかしたのか?」

「ああ。ここに1人、少年が来るのを見なかったか?」

「見たよ、オレとぶつかったあとそのまま_」

「っまさか…!」


ぐっとセティーが近づく。鬼気迫る声とその真剣な眼差しは、少年に何かがあることを明瞭に伝えていた。


「アルド、君は…何か盗まれてはいないか?」

「えっ!?盗…あの子は盗賊だってことか?」

「盗賊?ああ…いや、そんな輩ではない。それで、どうだ」

「どうって、何も盗まれてなんか…」


悠然と自身の鞄に触れたそのとき、アルドは一つの違和感を覚えた。体が妙に軽い。先ほどまで感じていたはずの重さがない。嫌な予感を胸にすぐさま腰袋を見る。そこには確かに、確実にあったはずの素材袋がなかった。


「な、ない!素材袋がないよ!」

「っ、やはり…一歩遅かったか」


歯噛みするセティーに、「窃盗罪、10年以下の罰金、または50万git以下の罰金確実でしょうか」とクロックが言う。

盗みは悪いことだ。だが、セティーのその顔は犯人を逃したことよりも『少年に盗みをさせたこと』に対して悔いているような気がした。


「なあ、オレは盗んだものを返してもらえればそれでいいけど…」

「おお!ほんとほんと!?」

「示談解決なら少年が罰せられることもないでしょう。EGPDの捜査が行われば、それも難しくもなるでしょうが」

「…本当にいいのか?」


怪訝そうに眉をひそめるセティー。比較的彼は司法取引をしない性分だと言われているため、こういうことに慣れていないのかもしれない。


「うん、いいよ」

「…そういってもらえると、助かる」


タイミングを見計ったかのようにシップが到着した。煙が吹き出すようなブレーキ音が止むと乗車口が開く。


「そうときまれば即行動です」

「少年は恐らく鍛冶屋に行くだろう。盗んだものを売るためにな」

「わかった、イシャール堂に行こう!」

「あの子が売っちゃう前に急ぐぞー!」


ブンブンと左右のパーツを回すレトロとともに、駆け足で車両に乗り込んだ。




「あ…あ」


そんな彼らを、一人の男が見つめていた。

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