魔王さま、ふとりすぎ( ´)Д(` )
ちびまるフォイ
みんなともだちがいちばん
「魔王様、恐れながら申し上げます」
「なんだ。申してみよ」
「その……」
「早く申せ」
「ちょっと、太り過ぎでは?」
「え、まじで?」
魔王は玉座から立ち上がって魔界鏡で自分の体を見直した。
「太ってる? わし、本当に太ってる?」
「いやもうだいぶ肥えてますよ」
「うそだぁ。そう変わってないでしょ。だって全然服とか苦しくないよ?」
「魔王様の服、実は我々の手でこっそりサイズ大きくしていたんです。
太っていることを告げるのはあまりにも勇気がいるために……」
「言ってもそんなレベルじゃないでしょ。大げさだなぁ。あは、あははは」
「魔王様、最近は冒険者一行が城に来ないもので運動不足なんですよ。
ちょっと魔法とか唱えてみてください」
「お前さもうちょっといい方とかないわけ。なんでそんな小銭をたかるヤンキーみたいな言い方するの」
しぶしぶ魔王はいつものように魔法を唱えようとした。
けれど喉の脂肪がぷるぷる揺れるばかりで、詠唱に必要な声のトーンが出せない。
せいぜい杖の先から出たのは奥の方にたまっていた歯磨き粉だった。
「……ね? 魔王様、このままじゃまずいですよ」
これには現実逃避をしていた魔王もさすがに焦り始めた。
「おいおいおい! 冒険者に来られたらどうしようもないぞ!」
「魔王様、ダイエットしましょう」
「いーーやーーだーー! なんで世界を支配したのに自主的に自分に苦痛を与えなくちゃいけないんだーー!」
「もう子供じゃないんだからしっかりしてください!」
「わしは自分の好き勝手したいがために世界征服したんだぞーー! やだやだやだーー!」
イヤイヤ期の赤ちゃんなら笑って許せることも、
「お前らの魔法でなんとかしろよーー! それでも魔王の配下か!」
「魔王様の体は対冒険者用の魔法反射コーティングされてるんですよ。
ほら、今なら魔界ジムも安いですから。2週間の辛抱ですよ」
「わし、ぜっっったい魔界ジムなんていかない!」
「魔王様が不在のときは我々で魔王城はしっかり守りますから」
「そういう問題ではない! わしはジムとかだいっきらいなんだ!」
「ええ……? まだ1度も言ったことないでしょう?」
「わしが魔界ジムに行ったら、他の魔物共がわしを見て
"うわぁ、魔王ジム来てるよ"とかひそひそ言うに決まってる!
仮に痩せられたとしてもそんな辱めに耐えられるわけ無いだろう!!」
「ああもうめんどくさいプライドだなぁ!! じゃあどうすればいいんですか!」
魔王はぽんと手を叩いた。
「あ、そうだ。この城をジムそのものにすればいいのでは?」
「は?」
「たとえば、階段はもっと急勾配でたくさんの段数にするのだ。
そうすれば日常的に魔王城を行き来するわしなんかはたちまちスレンダーバディだろう?」
「いやそれは……」
「軟弱な冒険者どもがここへ来たときも弱らせることができる! わし天才!
さっそくこの魔王城を改築するのだ!!!」
魔王は基本的に玉座に座るばかりなので、改築して影響を受けるのは頻繁に行き来する魔王の配下。
そのことを伝えたかったが、魔王はクリスマス前日の子供以上に目をキラつかせていたので言うに言えなかった。
魔王城をトレーニング施設に作り変えると、魔王は以外にも玉座を離れて魔王城を行き来するようになった。
「ほっほっほっ。いやぁ! 運動というのは実に気持ちがいいな!」
「どうせ使わないだろうと思っていましたが、魔王様に気に入ってもらえてよかったです」
「これからは玉座にふんぞりかえるイメージを変えていかねばな。
もっともっと魔王城を改築していくぞ!!」
「え!? まだやるんですか!?」
「当然だ。世界征服と同じ。やるからには徹底的に、だ」
こうして調子づいた魔王による鶴の一声で、魔王城はますます改築工事となった。
足腰を鍛えられるようにと地下には広い迷宮が作られ、
天井からはサンドバック用のスライムが吊り下げられ、
魔王城の外には水が引かれて遊泳スペースまで設けられた。
「すばらしい! すばらしいぞ、我が配下よ! これだけあればわしを含めて魔物の生活習慣病はすべて一掃だ!!」
ご機嫌になった魔王は改築された魔王城を遊園地かの如く楽しんだ。
数日後、ふたたび魔王は玉座に座るようになった。
「……魔王様」
「なんだ」
「また太ってらっしゃいますが、もう運動はされないんですか」
「……」
「魔王城の中も外もしっかり改築されたじゃないですか。
なにが足りなかったんです。どうすればもっと運動したくなるんですか!?」
「そういう問題ではない。外を見てみろ!」
窓から見える魔王城の外を配下に見せた。
「世界各国からここの運動施設目当てに人間どもが集まっておる。
最近では
「はぁ……それがどうしたんですか。混ざればいいじゃないですか」
配下のぶしつけな言葉に魔王は激怒した。
「ばかもの!! 知らない人の集団に入るの、めっちゃ怖いだろう!!!」
魔王が側近を常にそばに置く理由をこのとき初めて知った。
魔王さま、ふとりすぎ( ´)Д(` ) ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます