17才の不安定 (連結版)

鈍感難聴系な僕にもわかるように、よく聞こえなかった言葉の意味を恥ずかしがりながらも丁寧に解説してくれる17才の不安定な彼女さん

「セックスって、したことある?」


「あるけど。いきなり何?」


「いや。どんな感じなのかなって思って」


「普通だけど」


「その普通が分からない」


「男のことを女のわたしに訊くのがおかしいよねまず」


「色々知ってるかなって思って」


「知らんよ。女だし」


「相手は彼氏?」


「うん」


「彼氏の事後の感想とかないわけ」


「ないよ。そんなに仲良くないし」


「いいなあ。俺も恋人ほしい。えっちなことがしたい」


「えっち目的で恋人作るなよ。失礼だろうが」


「すんません」


「わたしに謝ってどうすんのさ」


「すごいよね。恋人がいるって」


「普通でしょ。べつに。17年ぐらい生きてれば恋人のひとりやふたりできるって」


「あ。仕事の連絡きた」


「その年で仕事してるってほうが凄いよ」


「何言ってんの。俺たちの仕事では普通だよ。正義の味方に年齢制限とかないから」


「正義の味方ねえ」


「街を守るのさ。じゃ、俺はここで」


「おう。今日も元気に街を守ってこいよ」


***


 ああもうだめ。もうわたしだめ。何やってるのわたし。


 恋人なんていない。

 えっちなんてしたことない。

 彼が好き。


 好きなのに。


 彼との空気を。友達でいられるこの関係を壊したくなくて。

 ずっと、こうやって嘘を並べ続けている。


 彼の後ろ姿。


 手を伸ばしたけど。


 もう届かない距離。



***


 爆発音。


「セックスって、どんな感じなんですか?」


「あ?」


 耳が少しおかしくなって。また爆発音。


「なんだ。セックスしたいのか」


「いや、それほどでも」


 また爆発音。耳に反響。


「なんか、友達がいるんですけど、俺」


「友達がいるのはいいことだな」


 擲弾グレネード砲頭ランチャー。臥せてやり過ごす。


「友達が、嘘つくんですよね」


「嘘?」


 また爆発。


「彼氏がいて、セックスしたことがあって、みたいな。そんな嘘なんですけど」


「そうか」


 グレネードランチャー。さっきから執拗にこちらを狙ってきている。


「なんでそんなしょうもない嘘つくんですかね。それがわかんなくて」


「お前何才だっけ」


 グレネードランチャー。制圧。


「17ですね。友達も17才です」


「まあ、多感な年頃だな」


「多感」


「お前はもう少し」


 ぐいっと身体を動かされる。さっきまで自分がいた位置に。手榴弾。


「年相応の不安定さを身に付けたほうがいいんじゃねえの?」


「なんですか、年相応の不安定さって」


 手榴弾。闇雲に投げてきているのか。爆発がそこかしこで起こる。


「俺は俺ですよ」


「そういうところがいかんのさ。17才とは思えない完熟度だ」


「そうですか?」


 制圧。


「俺から言わせれば。その嘘をついてる友達とやらのが正常で、お前のが異常だ」


「まじかあ」


「嘘をつく理由はひとつさ。これが終わったら教えてやる。その上で、その友達とやらに会いに行きな」


***


「なによ。急に会いたいって。この前借りた漫画は返したはずよ」


「え?」


「漫、画。返、し、ま、し、た、よね?」


「ごめんごめん。なんか今日の仕事、やたらうるさくてさ。耳が遠くなっちゃってて」


「なんで呼んだのよ。遊ぶ約束してないでしょ」


「え?」


「ご、用件、は。な、ん、で、す、かぁ?」


「あ。用件。そう。用件。一緒に仕事してた人に言われたんだけど」


「うん」


「もしかして、俺のこと好き?」


「ちがうわよっ」


「うわっうるさっ。グレネードランチャーよりもうるさっ」


「ちがいます。ちがう。なんなのよ」


「そっか。ありがとう。それが聞きたかっただけなんだ。じゃあ、またね。はいこれ漫画。貸しとくよ」


「うん」


 彼。去ろうとする。


「待って」


 声は。

 聴こえない。


「まってっ」


 彼は。


「好きなのに。わたし。なにやってるんだろ」


 小さく呟く。


「わたし。あなたのことが好きなのに。友達の関係でいたくて。振られるのがこわくて。彼氏がいるなんて嘘ついて。本当は、えっちなことだって」


 声は。彼に聴こえないまま。


「あなたのことが。好きなのに。わたしは。あなたに釣り合わないから」


 どうしても、届かない距離。

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