第67話ダンジョンコア8

「まさか・・・ハイライトが一対一の勝負で負けるなんて・・・何をしたのです?彼は聖教国でも、いいえ、冒険者の中でもトップレベルの実力を持っているのです。それをこんな短時間で、あなたは何者です?」


 俺はフーリースの質問に答えず、アイテムボックスから良い方のポーションを取りだすとハイライトにぶっかける。


「何を!」


 フーリースが激怒するが・・・かなり焦っているのか何をしているのか判断できていないのだろう、このまま放置するとハイライト死んじゃうからな。


「焦らないでください、これはポーションです。このままだと彼は死んでしまいます。追ってこないでくださいね。戦利品としてこれはもらっていきます」


 俺は倒れているハイライトの近くに落ちている魔法剣を拾うとすぐにその場から逃げ出していく。


「待ちなさい!その剣は聖教国の・・・」


 フーリースは何か言っていたが無視して俺は暗い夜の森の木々の合間を潜り抜けつつ、どんどんスピードを上げて逃走していく、今の俺のスピードについてこれる人は中々いないだろう、自由の翼だとハイライトか猫獣人のポレル辺りだろうか。


 かなり離れたのを確認するとアイテムボックスから封魔の腕輪を取りだしつけ直す、反動で身体に脱力感が・・・それほどないな。


 魔王様との戦いで俺の魔力器は治療開始前のボロボロの状態まで戻ってしまったはずだ、それなのに身体の調子がほとんど上下しないのは確実にユニークスキルの影響だろう。


 魔力操作がユニークスキルになったのも魔力制御の練習だけじゃなく、この身体の状態もあって変化したのかもしれない。


「アオオオォォォォーーンッ!」


 俺が立ち止まって身体の調子を確認しているとどこからか狼の鳴き声がする。


 俺の索敵範囲にはまだ入ってこない、だがこの声はかなり近いだろう。


 すぐに周辺から俺を囲むように複数の気配が入ってくる、数は・・・六匹か。


「試しにこの剣を使ってみるか」


 俺が取りだしたのはハイライトから貰ってきた魔力剣だ、フーリースが聖教国のどうとか言っていたからさぞかし良い剣なんだろうな。


 この剣には興味があったのだ、魔力操作で刀身に魔法を付与することができるようになって一番初めに浮かんだのが同じような魔法剣を使うハイライト、何か剣に秘密があるかと思ってたのだ。


 俺は片手剣に魔力を通そうとするが・・・通らない、何だこれ、何か別の魔力が纏わりついている。


 所有者を固定するための魔力認証みたいなものだろうか、確かこれがあると魔力で認証した人以外は使えないとか聞いたことがあるな。


 そうこう考えているうちに鳴き声の主たちが姿を現す。


 ウェアウルフか、広範囲に生息しているFランクの魔物だ、ツリーベル王国のヘプナムの町の近くの西の森にもよくいたっけ。


 ウェアウルフが襲いかかってくるが俺は素早く回避するとそのまま首を下から斬りつける。


 鈍い音とともにウェアウルフは吹っ飛んでいくが、よろよろしながら立ち上がってきた、そう言うことか、全然斬れてない、所有者以外は使えないってのは鈍らな鈍器になってしまうってことか。


 四方八方からウェアウルフが突っ込んできてそのたびに俺はこの鈍器としてしか使えない剣で殴りつけて吹っ飛ばす、戦いながら魔力操作で纏わりついているハイライトの魔力をどうにかしようと頑張っているのだが上手くいかない。


 何だこれ、呪われてんじゃないのか?感覚的には魔力をつかもうとするとウナギを掴んでるようにスルスルと逃げてしまう感じだ。


 剣の重心もふらふらと変わっているような感覚で鈍器としても上手く力が伝わらずウェアウルフすら一撃で倒せない。


 六匹のウェアウルフを捌きながら四苦八苦していると、そこで思いだす。


 そうだ俺はこんなことしている場合じゃない、今の俺はダンジョンコアを盗んで追われているんだ。


 自由の翼を撃退したからといって安全じゃなくて、すぐにリースフィア王国の騎士団やらなんやらが駆けつけてくるはずだ。


 俺は実験をやめるといつもの魔力剣を引き抜きヘロヘロになってきているウェアウルフたちをスパスパ斬っていく。


 何匹かには逃げられたが俺も逃げなければ。


 かなりの時間ウェアウルフと遊んでいたのだろう、多くの気配が索敵範囲に入ってくる、これはリースフィア王国の追跡部隊だな。


 俺はすぐにその場から離れると索敵部隊の包囲網の一番薄そうなところをかいくぐるように王都の方に戻っていく。


 王都から離れようと移動するとこの暗闇の中では追跡部隊の方が慣れているだろうし俺には土地勘もない、魔物が出てくるとまた足止めされる可能性もあるし痕跡を残してしまうと考えたからだ。


 まあ完全に痕跡を残してしまったのだが・・・。


 なので逆に王都に戻って王都の入り口に大勢いる野営の人達に混ざったほうが安心できる。


 何とか森を抜け王都の近くまで戻ると、王都周辺には松明が焚かれ厳戒態勢が敷かれているのがわかる。


 一度街道に出て暗殺者の衣を脱いで仮面も外し、魔法の明かりを浮かべてテクテクと王都に歩いて行くと周りで野営している人達たちは夜中だというのにざわざわと話をしている。


 空いているスペースを見つけてテントを張り、そこで食事の準備をしながら周りの話に耳を傾ける。


「古城迷宮のダンジョンコアが盗まれたらしいぞ」


「昼間も襲撃があったと聞いたが、いったいどうなっているんだ」


「自由の翼が返り討ちにあったらしいぞ、ボロボロのハイライトが帰ってきたのを見た」


「聖教国最強のはずだろ?自作自演なんじゃないのか?」


「犯人は高位の魔法使いだって話だな、小柄な人物だそうだ」


 すでに情報が出回っている、ただ古城迷宮のダンジョンコアじゃないんだけどそれは仕方ないか、昔のダンジョンコアはどこにあるのかさえ不明だったし、昼間の襲撃で狙われたのが古城迷宮のコアだったからな。


 俺は朝になるまで王都の外で情報収集を兼ねて滞在していたがそれ以上の情報は入ってこなかった。



 朝になると王都から兵士が大量に出てきて臨時の掲示板を設置してダンジョンコアの強盗事件が発表された。


 俺も何とか掲示板が見えるところに行き情報を得る。


 全世界指名手配とされて仮面をつけた黒づくめの姿が発表されていた。


 黒ずくめの情報としては、上級以上の魔法を使い、王城に侵入したことから隠密性能も一流と書いてある・・・何だこの暗殺者みたいな人物像は。


 捕まえた者には金貨五千枚という破格の報酬も発表されていた。


 姿も書かれているがすらっとしていて成人男性ぽく見えるな。


 どう見ても俺には似ても似つかない姿、というかこれじゃ誰もわからないため一安心だが、念のためこの仮面は燃やしておこう。


 そして王都の外で野宿していた大勢の人達には目撃情報の提供が呼びかけられ、兵士たちが周囲の人達に話しを聞きに周っているが・・・もちろん俺のところには来ない、子供に聞いてもしょうがないと思っているのだろうな。


 俺は楽だからいいけどちょっと悔しい、犯人は俺ですよ~。


 王都から逃げ出したのは夜中だからほとんど目撃はされていないはずだ、だがちょっとだけ注意しておこう。


 気になるのは盗まれたのは古城迷宮のダンジョンコアとの発表だ・・・俺が盗んだのは元々あったダンジョンコアだというのは確定している、ダンジョンコアが嘘をついていなければの話だが。


 たぶんだが元々あったコアが盗まれたとなるとこの国の根幹が揺らいでしまい国民の不安を煽ることになる、で古城迷宮のコアが盗まれたとしたのだろう。


 俺は張り出されている掲示板を見ながら一つお得な情報を目にする。


 そこには王都への冒険者の入場の優先順位を上げる事、冒険者ギルドでもダンジョンコアの奪還に全面的に協力することが書かれている。


 これなら優先的に王都に入れそうだ。


 俺はテントを畳むとすぐに冒険者用入り口と看板が新たに設置された小さい扉の前の列に並ぶ。


 ギルドプレートを出すと驚かれたがあっさりと王都内に入ることができた。


 町の中は先日とは違いお祭り騒ぎはなりを潜め、兵士がいたるところに配置されている。


 ダンジョンコアが盗まれた影響で展示式典がなくなりそれを目当てに来ていた観光客や商人の多くが王都を出て行こうとしている姿も見てとれる。


 かなりの影響があるな・・・俺は町を観察しながら王都の冒険者ギルドに入っていく。


 冒険者ギルドには多くの冒険者が詰めかけており、依頼掲示板の隣には、ダンジョンコアの奪還に別途金貨千枚の懸賞金、の張り紙があった。


 冒険者限定で犯人を捕まえてダンジョンコアを持って来れば合計で金貨六千枚か、これはかなりおいしいな、依頼を受ける必要はなくただ捕まえればいいだけだしな。


 まあ捕まえられればの話だけどね。


 さて、せっかくここまで来たのだからもうちょい情報が欲しい。


 大勢の冒険者に混じって情報掲示板を見ていると、冒険者ギルドの扉が大きな音を立てて開く。


 一瞬ギルド内が静かになって全員が扉の方を向くと、王都の騎士団だろうか、リースフィア王国の紋章を鎧につけたフルプレートの人達が数人入ってきた。


 全員の視線が自分たちに集まっているのがわかると騎士団の一人が前に出て演説を始める。


「聞け勇敢なるリースフィアの冒険者たちよ!ダンジョンコアを盗みだし王国に弓引く悪賊の徒の探索部隊を今より招集する。我こそはと思うものは手を上げるがいい!」


 冒険者たちは誰一人として動かない、そりゃそうだ、冒険者たちは生活のため、自分のやりたいようにするために冒険者をやっているんだ、強制でもない限りメリットがないと動かない。


「自由の翼が返り討ちにあったって噂だぞ・・・」


「意識不明のハイライトが運ばれているのを見たって話があるな・・・」


 こそっと誰かがそう呟くとそこら中から自由の翼の話が出てくる。


 フーリースの焦った表情が美しかった、ハイライトざまぁ、ポレルは俺が守る、今のうちに聖女様とお近づきに・・・。


 ・・・欲望丸出しだな。


 冒険者を見回すフルプレートさんに、部下の一人だろうか、近寄ってきてこそこそっと耳打ちする、頷くフルプレートさん。


「報酬は出る、参加している間は軍から三食が出て一人銅貨五枚だ。日数はかかるのでテントもこちらで用意させてもらう。犯人を捕まえた場合は捕まえたパーティーに報酬が支払われる。かなりの好待遇だぞ」


 三食で銅貨五枚か・・・銅貨五枚だと日給五千円程度だが、正直この犯人を捕まえるのは高ランク冒険者じゃないと無理だとみんな考えているだろう。


「俺はいくぜ!逆賊を捕まえて金持ちになる」


「まてまて、俺が先に行かせてもらうぜ」


 一人が参加しだすと周りにいる冒険者がこぞって参加の意思表明を始める。


 完全に小銭稼ぎに切り替えてるな。


 それに満足したのかフルプレートさんは頷くと。


「勇敢な冒険者諸君の国を思う気持ちに感謝する、では前線基地に行く、私に続け!」


 フルプレートさんが踵を返して冒険者ギルドを出ていくとここに集まっていた冒険者たちがみんな一斉に出ていく。


 人波に流されそうになりながら俺は必死に隅のほうまで行くと、冒険者ギルドに残っていたのは数名の冒険者と俺だけだった。

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