第51話王都動乱20

 夜に王城に忍び込んでいたため、寝るのが遅くそして朝に弱い俺・・・。


 今日は護衛最終日。


 何時間寝たかわからないが早めに目が覚めた、王都がどうなっているかが気になってしまったのだ。


 まだ若干眠いが、顔を洗っていると扉を叩く音が聞こえてくる。


ドンドンドン


 俺が返事をする前にセリスとキアリスさんが入ってくる。


「ナイン起きていますか!?」


「起きていますよ。今、顔洗っているのですぐにそっちに行きます」


 俺が顔を洗ってセリスたちがいるテーブルについた途端、セリスが話しだす。


「魔族が脱走に成功しました。今は王都は蜂の巣をつついたような大騒ぎになって、厳戒態勢が敷かれています。」


「そうですか・・・英雄たちはどうしていますか?」


 ぶっちゃけ英雄たちには全く興味はなかったが、対魔族への最大戦力とみなされている可能性があるのでそれによって貴族たちの動向がわかるかと思ったのだ。


「もちろん王城に招集がかかりました。魔族が逃げたのはスラムの方角らしいので、これから兵士たち、ギルドでは冒険者に緊急依頼を出して、英雄達を筆頭にスラムの探索が始まるはずです」


 よし、いい感じで影族が囮になってくれているな。


「ただ、脱走の手口と城門の門番の証言から、もう一人の魔族の存在が確認されています。影族の男はスラムに逃げて行ったと予想されていますが、もう一人は先に逃げたので、貴族街に潜伏している可能性も考えられています」


 ちっ!門番に目撃されていたか、まあ魔族だって思われているなら大丈夫だろう。


「見られていたか・・・でも大体は予定通りですね。セリスとキアリスさんの方は準備はできていますか?」


 二人は頷きながら、キアリスさんは俺にたずねてくる。


「ナイン様。本当に成功させるとは思いませんでした。貴方は・・・何者なのですか?」


「俺はただのちょっと依頼をサボりがちなEランク冒険者ですよ。」


 俺の事については話しても仕方ないからな、キアリスさんも俺が答える気がないのを理解したのか、それ以上は何も言ってこなかった。


「私はナインを信じます。ここまでやってくれた人は今までいませんでした。いえ、私の話を聞いてくれる人すらいませんでした。だから今は全力でナインについていきます。」


 セリスは信じてくれるらしい、それなら俺も頑張らないとな、まだ最後の関門は残っている。


 王都内の詳しい状況としては、王城は魔族に侵入され一人の魔族の行方を完全に見失っていることから騎士団が警備についている。


 貴族街は今まで以上に見回りが増えていて、貴族たちは屋敷にこもっているか王城に詰めている。


 市街地では兵士と冒険者ギルドで協力してスラムの封鎖、準備が整い次第探索。


「じゃあ俺たちもそろそろ動きましょう。」


 そういうと、セリスは一枚の紙を出してそれにサインする。


 俺の護衛契約期間終了の報告書だ。


 それを受け取ると俺は屋敷を出て貴族街を歩きだす。


 セリスの屋敷の周りにはほとんど見回りはきていない、屋敷の周りには何もないから隠れるところがないので少し見れば問題ないと判断しているのだろう、これはありがたい。


 貴族街の通りには、いつも以上に貴族の乗った馬車が走っていない、だがいつもより多くの警備の冒険者グループや兵士にすれ違う。


 貴族の屋敷の前には警戒している門番が増えている。


 貴族門を抜けて大通りに出るといつもと変わらない喧騒があるが、厳戒態勢って思っているといつもより周りを歩く人の顔が緊張をしているような気さえしてくる。


 辺りの様子を見ながら大通りを歩くと、冒険者ギルドに到着する。


 中に入るといつもはそこそこの数の冒険者が隣接する酒場で飲んだくれているが、今日はほとんどいなくなっている、いるのは依頼をおえて帰ってきたばかりと思われる人達だけだ。


 ほとんどの冒険者がスラムの包囲や探索部隊に行っているんだろうな。


 緊急依頼だって言ってたから報酬はかなり高いはずだ、王都の危機だし英雄様達がいらっしゃるから危険も少ないと考えた人たちもいるはずだ。


 そう言えば・・・他国にも英雄や最高戦力としてその国を拠点とする有名な冒険者がいるけど、ツリーベル王国では今回の英雄さん達がそれに名を連ねるのかね・・・赤っ恥かかなきゃいいけど。


 周りを軽く見た後に、暇そうにしている受付嬢のところに歩いていく。


 初めて見る人だな、まあ受付嬢を全員知ってるほどここに来てないんだけどね。


 歩いてくる俺を見に止めて受付嬢が話しかけてくる。


「こんにちは。今日は依頼かな?でも今、ちょっと王都が忙しくて依頼は受け付けてないの。待てる依頼なのかな?」


 完全に俺を冒険者だと思ってないな、確かに剣は持っているが最近の癖で防具じゃなくてスーツできてしまった。


 セリスもキアリスさんも教えてくれればいいのに・・・。


「えーと違うんです。俺は冒険者で依頼完了したので報告しにきたんです」


 俺はすぐにギルドプレートを出して、依頼書と一緒に受付嬢に見せる。


「ウソっ!Eランクなの?・・・ちょっと待ってね。」


 驚いてはいるがテキパキと依頼書を確認、処理して報酬を持ってきてくれる。


「ナイン様ですね。こちらが報酬になっています。ご確認ください」


「ありがとうございます」


 俺はチラリと中を見ただけで特に確認せず、すぐに受付を離れようとするが受付嬢に呼び止められる。


「ちょっと待ってくれないかな?実は今緊急依頼が出ててEランク以上の冒険者には伝えなきゃいけないの。ナイン君は子供だけど、規則だから聞くだけ聞いてくれないかな?」


 まあ聞くだけならいいか、何か新しい情報があるかもしれないし。


 俺は受付嬢に向き直ると、頷いて話を聞く。


「聞くだけなら。どうせ受けても子供だからって感じで邪険にされるので受ける気はないですが」


 苦笑しながら受付嬢も頷く。


 受付嬢の話は聞いていた通りのことだった。


 スラムに逃げ込んだ魔族を捕まえるための包囲と探索部隊の依頼だ。


 交戦する必要はなく、見つけたら英雄様に報告して英雄様がそこに向かっていくということだ。


「そうですか。英雄がいるなら俺はいてもいなくても変わらないでしょうね。俺は元々王都に観光に来たようなものですから。」


 それから少し話だけして、俺は冒険者ギルドに王都を離れることを伝えて町の外壁へ歩いていく。


 町中は兵士の数が多いかと思っていたが、そこまで見かけることはなくたぶんスラムの包囲にかかりっきりなのだろう。


 ちょっと見てみたい気持ちもあったが、そこはグッと我慢する。


 街の外へ出る門も混んでいるということはなく、一度魔族を捕獲した英雄が動いているとみんな知っているからか王都から逃げ出そうとする人はほとんどいないみたいだ。


 俺の良いポーションで全回復している影族はEランク程度の冒険者が数人集まったところでどうにか出来るほど弱くないんだけどな。


 よく考えてみればいい、敵国の王都に入り込んでくるぐらいの魔族が数が多いとはいえEランク程度の冒険者に簡単に捕獲できると本当に思っているのだろうか?


 できると思うなら逆に魔族領に侵入してみればいいのだ、すぐに見つかってボコボコにされるから。


 できたとしてもかなりの被害はでるだろうな、俺の希望だとこっちの都合で捕まってもらったし囮にしちゃっているから、こそっと逃げてくれると多少は罪悪感が薄れるというか・・・。


 町の外に出た俺は、王都の外壁をぐるっと回るように歩いていく。


 少しすると外壁から水の流れる場所がある、地下水路だ。


 王都の地下には水を通すための地下水路があり王都の広範囲にわたって張り巡らされている。


 定期的な点検の時以外は誰も入ることができず、鉄格子で固定されていて鍵がないと入ることも出ることもできない。


 剣を抜き放つと魔力を込めて鍵を破壊する。


 魔法で明かりをつけて地下水路を歩いていくが、かなり複雑で準備なしで入ったら迷子になるだろう。


 俺はここ数日間の間に、何度か入って目印をつけておいたので迷わない。


 ここはただの水路で魔物がいるとか、汚物が流れているってこともないので暗いってことを除けば比較的安全に王都内に侵入できる。


 まだまだ夜までには時間があるが早めに着いておきたい。


 どれぐらい歩いたのか、暗くて時間の感覚は無くなっているが目的の場所に到着した。


 そこは少し広いスペースがあり奥に階段が見える。


 階段の先には鉄格子があって外に出れるのだ。


 ここは俺がこの数日、地下水路に入るために使っていた出入り口なので鍵はすでに壊している。


 地下水路を出たところに見える屋敷、それがセリスが住んでいる屋敷なのだ。


 地下水路から出ると、索敵で周囲の気配を探り誰もいない事を確認するとセリスの屋敷に入っていく。


 セリスとキアリスさんが準備を終えて待っていた。


「お待たせしました。すぐにでも取り掛かるので外に出ていてください」


 二人を外に出し屋敷を見回すとそこらじゅうに油が撒かれている。


 そして、蝋燭にロープを巻いて作った自動発火装置が至る所にある。。


 蝋燭がなくなっていくと蝋燭に巻いてあるロープが外れて、ロープの先についている火種が倒れて着火するあれだ。


 俺は最後の仕上げとして、スラムで死んでいたのを回収した人間の死体をアイテムボックスから取り出し、屋敷のそこらじゅうに置いた。


 これで擬装は完成だ。


 索敵で屋敷の周りに監視の目がないのを確認すると、俺は屋敷の至る所にある蝋燭と火種に火をつけていく。


 大量に発火装置があるのは一つが失敗した時の保険だ。


 油で滑らないようにしながら二人の元に行くと、誰もいないのを確認しながら三人で地下水路へ入って行った。

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