第50話王都動乱19
次の日からの数日はいつもの日常があった。
学園に行き、授業を受けて、シルと話して屋敷に帰る。
学園で何が起こることもなく、変わったことといえばほとんどの学生の話題が王都に悪意を持ち込もうとした魔族を命がけで捕らえた英雄の話だった。
英雄達は危険を顧みず、国のため、民のために、夜の森という危険地帯に影族を捕らえるために向かって行き見事捕らえたという美談になっていた。
何かしらで魔族の脅威を察知したということらしい、そこは結構曖昧だった。
失笑したくなるのを我慢したよ、金に釣られて子供を殺そうとしていたクソどもが英雄として祭り上げられてるんだからな。
王城で英雄達の歓待があり、褒美も色々与えられ、町の雰囲気を上げるためにパレード的なお披露目も予定されているらしい。
冒険者ギルドもここまで有名になってしまっていると、致し方なく八人全員をEランクからDランクに昇格させたそうだ。
学生達の話によると英雄達は貴族の私兵として高待遇の勧誘や騎士団の勧誘も受けているみたい。
調子に乗って勧誘受けて現実を知ればいい、貴族の私兵はわからないが、騎士団は隊長格はCランクレベルの強さがあるらしいからボッコボコにされるだろうな。
状況が変わったのは英雄騒動が多少落ち着いてきてからだった。
一人の貴族がセリスを訪ねてきたのだ。
セリスを養子として迎え入れたい、保護したいということだった。
キアリスさんが言うには、戦力となる重要な位置にいるセリスを自分達の監視下に置いて管理したいってのが本音らしい。
もちろんセリスは断った、まあ今更だよな。
命を狙われているのが暗黙の了解として貴族達には知れ渡っていて、その時に誰も助けてくれなかったのに今更保護とかどの口が言うんだって話。
一人が訪ねてきてからは、次々と位の高い貴族達もやってきた。
セリスは家名は名乗れないがそれでもツリーベルだ、ほとんどの貴族は丁寧だが、中には高圧的な交渉とも言えない態度の貴族もいた。
護衛と一緒に威圧してきた貴族もいたが、そういう輩は俺とキアリスさんがすぐさま鎮圧した。
どうにかこうにかそんな日々を我慢してやり過ごし、ほとほと愛想が尽きた時にその時はやってきた。
俺の契約期間の終了前日の夜だ。
俺は屋敷から抜け出すと、まずは索敵。
もう屋敷の周りには監視はなくなっているな。
なんか最近は冒険者ってよりも本当に暗殺者みたいな事しか俺はしていない。
元から冒険者としての仕事もたいしてしてなかったんだけどね。
貴族街を歩き、城門を目指す。
この時間だと貴族街の見回りはあまりいないのでそこまで警戒することもないだろう。
連日の英雄騒ぎでみんな警備に駆り出されて疲れているのかもしれない。
城門に到着すると、城に通じる橋は上がっていて堀があるのでこのままだと入ることはできない。
もうしょうがないな、できる限りは外したくないんだけど・・・。
腕輪を外して身体の調子を確認する。
この間、長時間外してたから正直不安はあったがまだ大丈夫そうだ。
俺は上がった身体能力で堀を飛び越えて城壁に張りつく。
音はほとんどしてないから見張りも気がついていない。
見張りの動きを索敵で確認しながらゆっくりと城壁を登って場内に侵入する。
牢屋の場所はキアリスさんに聞いているから何とかたどり着けるだろう。
ウロウロと場内を歩き回り、見張りが来ると物陰に隠れてやり過ごす。
そうして何とか地下牢への扉を見つけるが、やはりというか当たり前だが監視が二人いる。
二人の監視は眠そうにしながら、眠気を誤魔化すために話をしたり、黙ったりの繰り返しだ、これならいけるか?
「スリープ・ブレス」
二人が黙り込んだ瞬間に眠りの魔法を使う。
本来はそれほど効果がある魔法じゃなくて、結構簡単に抵抗されるんだが監視二人は崩れるように倒れて眠りについた。
監視の一人から腰についている鍵を借りて扉を開ける。
扉の内側は階段になっていて下に続いている。
所々にあるランプのおかげで見えないほど暗くはないが、階段が狭くて上がってくる人がいたらどうやっても見つかってしまうな。
索敵で階段下の気配を探ると固まっているのが二人、他はポツポツと離れて五つの気配がある。
たぶん固まっている二人は見張り、五つの気配は牢にいる囚人だろうな。
音を立てないように階段を下っていると、牢が続く廊下の前に二人の監視が椅子に座ってウトウトしている。
俺からするとありがたいが、魔族を閉じ込めたばかりなのに気を抜きすぎじゃないか?
それとも最初に気を張りすぎて、何も起こらないから反動で気が抜けたとかかな。
ここもなるべく近くに寄って、眠りの魔法を使っておく。
見張りの先には牢屋がいくつかあって、気配は五つだけ。
王城の地下にある牢は、特に凶悪な犯罪者や表に出せない者を閉じ込めているそうだ。
気配がある牢の扉にある覗き窓を一つ一つ確認していく。
中は薄暗い程度でランプがついているから見えるようになっている。
真っ暗だったらいるかどうかわからないしそりゃ明かりがついてるか。
手前から覗いていったが四つ外れ、最後の一部屋に足を鎖で繋がれた影族の男がいた。
俺は見張りから借りてきた鍵を使って扉を開ける。
ガチャリと音がして扉が開く。
「・・・誰だ?・・・情報は全て話したはずだ・・・もう俺に用はないだろう」
拷問でも受けたのかひどい傷だ、奴隷の首輪も嵌められている。
ヤバいな、捕獲されるようにしたのは俺だが・・・ちょっと罪悪感が湧いてくる。
俺は剣を抜くと影族の男の足にはまっている鎖を切り離し、アイテムボックスから高級な方のポーションを取り出す。
「何のつもりだ?・・・お前は、森にいたやつだな?」
「ああ、とりあえずこれを飲め、ポーションだ。お前をここから出す。話を聞きたいなら出た後だ。」
俺の有無を言わせぬ口調に訝しみながらも、影族の男はポーションを口にする。
みるみる傷が消えていき、男には傷がなくなった。
凄いな、一番いいポーションてこんなに効果があるのか!
「よし、行くぞ。」
俺は男に外套を渡すと、外套を羽織るのを待って出口へ向かっていく。
「おい、この首輪は外してくれんのか?」
影族の男は鬱陶しそうに首につけられている首輪を指でさす。
「それ外したら能力使って暴れるだろ?今はまだ暴れられると困る」
奴隷の首輪は、俺が使っている封魔の腕輪の劣化版だ、影を使うスキルが封じられているから、下手に外すことはできない。
俺達は地下牢から出るが、監視はまだ崩れ落ちたような体勢で眠っており、人がくる様子もない。
索敵で見回りの兵士が近づいてくるのを避けながら、城の外に向かって歩いていく。
なんとか城門のところまで到達すると、跳ね橋を上げている装置を作動させ跳ね橋を下げていく。
夜中に跳ね橋が下がっていき、城門が開放される音を聞いた兵士が騒ぎだす声が聞こえてくる。
「じゃあここでサヨナラだな。逃げきれることを祈っているよ」
俺はそういうと影族の男の奴隷の首輪を剣で斬り開放する。
「ちょっと待て!説明してくれるんじゃなかったのか?仲間はどうした!?」
影族の男が慌て出すが構っている暇はないのだよ。
「お前の仲間は魔王軍に捕まった。それだけしか俺は知らない」
走りながら城門を抜け、降りきってない跳ね橋を駆け上がりジャンプして対岸に着地する。
俺は後ろを振り向かずにその場から逃走した。
能力が使える影族ならあそこから逃げるのも容易だろう。
貴族街を走りながら耳を澄ますと、王城のほうから騒ぎが大きくなっていくのが聞こえてくる。
索敵を使いつつ追手がないことを確かめながら屋敷に戻っていく。
これで王都でできることはほとんど終わったな。
屋敷に戻ると服などを脱いでベッドに横になる。
これで俺が起きた頃には魔族が逃げ出したって事で王都中が厳戒態勢になるだろう。
状況から魔族の仲間が王城に侵入してきたと思われる、かなりの緊急事態だ。
王城の警備に騎士団が多く回され、魔族と繋がっていた連中は報復を恐れ、私兵のほとんどを自分の護衛に回すだろう。
冒険者ギルドにも護衛、警備の依頼が殺到してくれれば儲けものだ。
王都の警備は厳しくなるとは思うが、これでセリスに対する関心や注目も貴族連中から一時的に逸れるはず。
英雄さん達に緊急依頼でも出て、魔族討伐なんて事になったら王都中の人がそっちを注目するだろう。
王都から逃げ出そうとする人だっているかもしれない。
後は、あの影族の男がどうするかだな。
影族たちは森で会った時は冒険者風の姿をしていたので、貴族に裏切られた後は冒険者として活動していたか、それを装っていたと考えられる。
なので町の地理はわかっているだろうから、上手くスラムにでも逃げ込んで時間を稼いでいてくれると助かるな。
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