第45話王都動乱14

 朝、目が覚めると俺はすぐに昨日あったことをセリスとキアリスさんに告げる。


 グブリーズ子爵邸に侵入したこと、密偵の一人を捕まえてそこでセリスさんが王の子供であることなど大抵のことを知ったこと。


 そして魔族が関与し始めていることも伝えた。


 だが、セリスはさほど驚かなかった。


「いろいろ知られてしまいましたか・・・黙っていてすみません。ただ、言ってしまうと護衛を断られてしまうと思ったのです。ナインの言う通り、私の存在は主戦派、保守派両陣営にとって権力争いが収まりつつある中ではもうどちらにも不要の存在、いえ存在することが害となっているのです。」


 悲しそうに俯くセリス。


 やっぱりそうだよな。


 主戦派にとっても魔族との戦争でセリスを使うというのは、権力を手中に収めるためにセリスを危険視する貴族たちを派閥に引き込むための手段の一つ。


 大勢が決した今となっては、セリスに死んでもらったほうが戦争なんて馬鹿げたものをする理由がなくなる。


 このセリスを戦争で使うということ自体が、小さかった自分の派閥を大きくするためのものだったのだから。


 セリスが死ねば主戦派に属している多くのセリスを危険視する貴族も納得する。


 国も魔族も、全てがセリスの敵であるわけだ。


 冗談じゃない!魔眼を持っているというだけでたった十二歳の女の子が、国からも魔族からも命を狙われる、そんなことがあっていいわけがない。


 腹が立ってしょうがない!


「今までは、主戦派と保守派が睨み合っている状態でしたが、今後は・・・どちらも私を狙ってくる、とても危険な期間となるでしょう、ナインはどうしますか?」


 俯いたままセリスが問いかけてくる。


 俺の行動はもう決まっている、正直どうにもできないんじゃないかって、絶望以外ないんじゃないかって思っている。


 だけど、セリスはまだ諦めていない、あるかどうかわからない生存ルートを必死で探している。


「俺はこのまま護衛を続けます。」


「何故ですか?国も魔族も私を狙ってくるでしょう。絶望的な状況です」


 言葉ではそう言いつつも複雑な表情の中に諦めていないとわかる目の光がある。


「セリスが諦めてないからです。一人ぐらい味方がいてもいいでしょう。それに、やり方が気に入らない。」


 それを聞くとセリスは泣き始める。今までずいぶんと頑張ってきたのだろう。


 十二歳の女の子だもんな、何とかしてやりたい。


 セリスが泣き止むのを待っているうちに、俺はキアリスさんに確認する。


「キアリスさん、俺はセリスにつきます。キアリスさんの立場はどうなんでしょうか?」


 キアリスさんはただのメイドじゃなく護衛を兼ねている。


 いろいろ制限がある、ということは誰かからの命令系統で動いているはずだ。


 たぶん国王かなと思っている。


「私は、護衛という命令しか受けていません」


「ということは、命令によっては、俺たちの敵になるということですか?」


 セリスがハッとしてキアリスさんを見る。


「それは・・・ないとは言えませんが、そんな指示がくることはほぼないと思います」


 困ったようにキアリスさんが答える。


 うん、それなら大丈夫だな。


 この情勢下でセリスを守ろうとするのは国王か、その直属にいる人物だけだと思う。


「ではこれからの予定を少し変更したいと思います。課外授業をギリギリで申請するつもりでしたが、すぐに申請して周りに周知します。あとこの手紙、主戦派に渡します。」


 手紙を渡せば主戦派も動くと俺は考えている。


「この手紙を主戦派に渡せば、私の暗殺は保守派だけでは難しいと感じるはず、そうなれば主戦派も戦力を出すはず」


「一番のチャンスは課外授業という人気がなくて当たり前の魔物がいる森。そこに主戦派と保守派の戦力を集めます。先ほど話した魔族にも課外授業のことを話してあります。なのでそこで複数の戦力が集合する可能性が高いです。戦力が集中しなくとも全ての陣営が揃えばいい」


 上手くいけば、はぐれ魔族もここに来るはずだ。


 来さえすれば、俺が全力で探し出し叩きのめす。


「そして、ここでこの権力争いに魔族が絡んでいることを森に潜んでいる者たちに周知させます。予想では、主戦派の一部にはぐれ悪魔が絡んでいると俺は考えています」


 そう、俺はこの課外授業を使って、権力争いが優勢である主戦派に魔族の関与があるとを印象付けたい。


 そうすれば魔族との戦争を望む主戦派になぜ魔族が協力しているのか?となって貴族達は混乱するはずだ。


 先の大敗で国力が落ちている中で戦争を望む、本心を外に出さない貴族連中のことだ、これが魔族の罠なのか?セリスよりも危険な魔族という存在、疑心暗鬼に陥るはずだ。


 セリス暗殺自体が魔族の企みなのだと考える貴族も出てくるだろう。


 どっちにしろ、魔族が暗躍する中で戦力になるセリスを今の状況で暗殺するのはまずい、と思わせればいい。


 そうすれば権力争いで瀕死の保守派も息を吹き返すし、セリスを暗殺する理由そのものを消すことだってできるかもしれない。


 一時凌ぎにしかならないかもしれないが、魔族との戦争よりもまずは国の中の不穏分子を探し出すことに躍起になるだろう。


「ということで、今日は学園に行ったらすぐにシルと相談して申請しよう。いや、あえて周知するためにシルと一緒にセリスも申請しに行こう。」


 俺たちは相談をおえると馬車に乗って学園へ向かう。


 学園についた俺とセリスは、教室でシルを待ちそのまま予定が変わったことを伝え、教室の学生に聞こえるように課外授業に参加することを話した。


 授業が終わると同時に、三人でロック先生の元へ向かう。


「シルさんとセリスさんのパーティーですか・・・まあナイン君がいるので大丈夫でしょう。無理はしないようにしてくださいね」


 ロック先生はほとんど興味はなさそうだな、彼はこの一件に絡んでいないのか・・・。


 俺たちは申請が終わると、すぐに帰途につく。


 シルも一緒に馬車に乗り屋敷に帰ると、セリスに状況の説明をシル話してもらっているうちに俺は用があるので屋敷を出て貴族街を歩いていく。


 貴族街を歩いていると索敵に俺をついてきている気配を感知する、監視されているな。


 ただこの監視がはぐれ魔族なのか、密偵的な人なのかは判断がつかない。


 貴族街を出て職人街に俺は向かっている、俺の目的は剣だ、そろそろできている頃だろう。


 大通りから職人街に抜ける道を歩いていると、監視もついてくる。


 監視って結構ウザいな、でも今は手を出す時じゃないから我慢。


 少し道に迷いながら、何とかドワーフのワンゴ武器店についた。


「こんにちは。」


 挨拶をしながら入っていくと、この店の主人のワンゴさんがカウンターに座っていた。


「おお、来たか。できているぞ。かなりの業物だ。」


 そういうとワンゴさんは奥に入って、布に包まれた一本の片手剣を持ってくる。


 俺はそれを受け取ると布から片手剣を取り出し鞘から引き抜く。


 刀身は光が当たるとうっすらと赤くなる。


 うん、注文通りの片刃で長さも少し短くなっていて丁度いい。


「どうだ?Bランクの魔石を混ぜているからな。切れ味は保証する。魔力の通りも良いはずだ。」


 ワンゴさんは自身ありげに髭を撫でながら保証してくる。


 俺はゆっくりと魔力を通していく、馴染むようにスッと魔力が通り徐々に込める魔力を多くしていく。


 魔力を込めるほど刀身の赤みが増していく。


 おお!全然壊れない。


「凄くいい!これなら派手じゃないし、長さも合ってるから普段から使える!ありがとうございます。」


「そうだろう、そうだろう。ここ数年での自信作だ。大事に使えよ。裏で試し斬りをしていくか?」


 試し斬りはしていきたいけど・・・監視に見られたくないんだよな。


 なるべくなら、ただちょっと強い程度のEランク冒険者って体にしておきたい。


「本当は試し斬りしたいんだけど、ちょっと用があって・・・今日はすぐ帰ります。すいません。」


「そうか、残念だが仕方ない。また注文に来てくれ。歓迎する。」


 俺は店を出ると足早に職人街の路地を駆け抜けていく、索敵で周囲を探り、よし監視を撒いたな。


 大通りに出ると適当な武器を売っている店に入り、一山幾らの投げナイフを購入する。


 これで買い物はOKだ。


 大通りを歩いているうちに、監視が俺を見つけてくっついてきた。


 何事もなかったように通りを歩いて貴族街に入っていく、うん?監視が二人に増えた。


 俺なんか監視しても意味ないんだけどな、どうせ何もしないし本気になれば相当腕のある密偵じゃなきゃ俺をつけ回すなんて無理だし。


 そういえばエヴァさんはどこに潜伏しているのだろう?


 ぼけ〜と歩いて屋敷までもうちょい、何もないところまで来ると監視はそれ以上はついてこない。


 ここから先は何もないし屋敷の人間以外は入ってこないから、監視も来ないか。


 俺はそのまま屋敷に戻り、夕飯までにちょっとした作業をすることにした。

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