第44話王都動乱13

「ナイン様、手を引かないとなると・・・敵対、ということになってしまいます。魔王様もそれは望んでいないでしょうし、何より・・・リル様が悲しみます」


 敵対という言葉を聞いて俺は動揺する、たぶん顔に出てしまっただろう。


 考えてはいたが、言葉に出されるとダメージが違うな。


「それでも俺は引くつもりはありません。魔王様には、恩を仇で返す様なことになってしまうのはとても心苦しいですが・・・敵対しない方法を考えるってのはどうですか?」


「状況は動いています。もうこの国だけの問題ではないのです。」


 エヴァさんはため息をつくとすっと動いてくる、早い!


 俺は何とかエヴァさんの短剣を剣で受け止めるが、重い・・・!!


「ナイン様にはここで退場してもらうしかありませんね。」


 エヴァさんは受け止められた剣を支点にして俺に蹴りをはなってくる。


 体勢が崩れていた俺は何とかガードしたものの吹っ飛ばされる。


 体勢を立て直したところにすぐさまエヴァさんが突っ込んでくる。


 エヴァさんの短剣をまた防ぐがここにまた蹴りがくる。


 まさかエヴァさんがこんなに強いとは、正直このままだと致命傷を受けないようにするのがやっとだ。


 せめて腕輪を外せれば何とかなるが、その隙を与えてもらえない。


「このまま攻めさせてもらいますね。腕輪を外されたり、雷鳴の剣を出されるとちょっと私でも無理だと思いますので」


 完全にエヴァさんのペースだ。


 そういえば訓練所で俺は何度か訓練したことがあるが、エヴァさんが戦っているところなんて見たことない。


 何度かの攻防で俺は膝蹴りを左腕でガードするが、左腕に激痛が走る。


 ミシッ!


 折れてはいないがヒビが入ったみたいだ、このままだと本当に退場させられる!


 魔法を使う余裕もない、ガードするので精一杯、距離を離すこともできない。


 何でサキュバスがこんなに接近戦強いんだよ、世界設定間違ってるだろ!


 時間が経つにつれて俺はどんどん傷が増えていく、左手はもう痺れて動かないので、何とか下がりながら右手の剣だけでギリギリ捌いていく。


「シールド」


 時折何とか使えたシールドで攻撃をズラしてみせるが、それもわかっているから全く動じない。


 少し距離が離れても俺が何かをする気配があるとエヴァさんの攻撃が来て、全く何もさせてもらえない。


 完全に動きが読まれている、だがこれでどうだ、俺はダメージ覚悟でエヴァさんの蹴りを受けて同時に後方に飛ぶ。


 飛んだおかげで多少のダメージは軽減できたが、めちゃくちゃ痛い、ここもヒビ入ったかも。


 だがこれで距離は稼げた!


 俺はその隙に指輪に魔力を流す。


「ヴェリアス・レイ」


 俺は真横に向かって六色の魔法をぶっ放す!


 轟音を立てて木々がなぎ倒れて引火した炎が辺りを照らす。


「くっ油断しました。まさか人を呼ぼうとするとは・・・」


 そうなのだ、このままでは勝てないと踏んで轟音を立てて警備の人を俺は呼ぶために魔法を使ったのだ。


 ここは貴族街の中にある公園だ。


 貴族街には夜の番をしている兵士がいるから轟音や火の手が上がれば必ず警備の兵がくる。


 俺はちゃんと身分証を持っているので大丈夫だが、エヴァさんはどうだろう?魔王様の任務でここにきているのだから目をつけられるのはかなり不味いはずだ。


「どうします?ちょっと卑怯な手を使っちゃいましたけど、組織の規模が違うので俺としてもなりふり構っていられません。ここで退場するわけにはいかないんです。」


「今日のところは諦めますが・・・できるならこのまま魔王城にでも帰ってリル様の相手をして欲しいところです」


 エヴァさんは苦々しい表情で燃えている木々を見ながらつぶやく。


 良かった、なるべくならエヴァさんの正体を人族にさらしたくはないし、逃げてくれるなら俺も追わない。


「諦めてくれるならありがたいです。ではお礼と言っては何ですが一つだけ情報を。俺とセリスは来週の課外授業に出ます。期限ギリギリで申請するのでまだ誰も知らないはずです。そこで全力で誰が来ようとも迎え撃ちます。」


「そこにおびき寄せるわけですね・・・。ではこちらも情報を。・・・この争いに、魔王様とは関係のない魔族が絡んでいます。ナイン様なら大丈夫だとは思いますが、お気をつけください。」


 魔族が?一瞬何を言っているのかわからなかったが、まあそうだよな。


 人族だって複数の国を作り、王がいても全ての人がそれに従っているわけじゃない、なら魔族にだって魔王様に従わないのがいても当然か。


 ここに来て情報量が多すぎませんかね。


 ただの護衛依頼がここまで大事になるとは思わなかった、頭ごちゃごちゃで誰かに丸投げしたい気分だよ。


「わかりました。情報ありがとうございます。・・・次に会ったときは、敵対していないことを祈りますよ。」


 エヴァさんは軽く頭を下げると去って行った。


 声が聞こえてくるからもうそこまで警備の兵士が来ているんだろう。


 俺もすぐにここを立ち去らないと面倒なことになる、貴族が絡んでいるから何かと理由をつけられてセリスの護衛ができなくなっては意味がない。


 アイテムボックスから一番良いポーションを取り出すと一気に飲む。


 すぐさまフードを被り直すと俺は声のする方と反対側に公園から離れていく。


 それにしても、エヴァさんかなり強かったな、確実にサキュバス隊のエースのクリスさんより上だろう。


 マジでどうしよう・・・。


 保守派、セリスを狙う。


 主戦派、セリスの軍事利用。


 エヴァさん達、たぶんセリスを狙ってる?


 はぐれ魔族、目的不明。


 どこかで潰しあってもらわないと勝ち筋が見えない。


 俺は屋敷に帰りながら考える、どう動けば良い?


 立ち止まってアイテムボックスから手紙を取り出すと読んでみる。


 内容としては腕の立つ護衛がついたから事故死は難しくなったこと、強引に進めるにはセリスの動きが少なくて隙がない事が書かれている。


 この手紙を主戦派の権力が欲しい人間に渡せば、暗殺の妨害工作ぐらいはしてくれるのではないだろうか。


 いや、違う、逆を考えろ。


 あくまでも主戦派は、戦争を掲げセリスを利用して権力を握りたい人間と、セリスを合法的に消したい人間の集まりだ。


 国力が落ちている中で戦争なんてバカらしいとわかっているヤツもいるはずだ。


 戦争とセリスの利用はあくまでも主戦派の少数が権力を握るまでのパフォーマンスと考えられる。


 セリス暗殺が行われようとしているのにほぼ動かなかったのがその証拠とも言える。


 セリスが殺された前提で考えてみる、主戦派が権力争いに勝つのは確定だ。


 主戦派少数・・・権力争いは勝ち、セリスが死ねば戦争はしなくて済むと考えてる人間もいるはずだ。


 主戦派多数・・・セリスを危険視しているだけで、セリスがいなくなれば戦争はしないほうがいいと考えているやつもいるはず


 保守派・・・権力争いは負けるが戦争を止められる、逆に言えば戦争を起こそうとする貴族がいなければ、セリスの生存には関心がないとも言える


 エヴァさんたち・・・魔王様を考えると・・・戦争回避のためにセリスを狙っていると考えたほうが俺にはしっくりくる。


 はぐれ魔族・・・あくまでも予想だが、魔王様と敵対しているなら、戦争をさせようとしている?


 俺が探すのは、セリス生存かつ戦争回避ルート。


 上手くいけば課外授業でセリスを狙いだす主戦派、もしくは保守派と一時期的に同盟を結び戦争を回避しようとセリスを狙う主戦派も出てくるのではないか?


 もう権力争いは終わっていると考えて、後は戦争を回避するだけ。


 問題は魔族側だな。


 セリスをどこかに逃したとしても人族側である限り狙われる可能性が高い、特にはぐれ魔族は何をしたいのかがまだわからない。


 考えながら歩いているとセリスの屋敷が見えてくる。


 もう夜も遅く明かりがほとんど消えている玄関に行くと扉が開く。


「おかえりなさいませ、ナイン様。」


 キアリスさんが出てくる、よく俺が帰ってきたのがわかったな。


「ただいま。ちょっと色々トラブルがありまして、明日、セリスと一緒の時に話しますね。」


 屋敷にはいると、俺はすぐに自分の部屋に行って洋服を脱ぐと軽く風呂に入って、すぐに寝た。

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