第41話王都動乱10

 俺はセリスに手を引かれて食堂に歩いていく、セリスの隣にはシルがいて若干苦笑いだ。


 あの実習後、教室に戻ると同時に何人かの貴族の学生に囲まれて、俺に護衛依頼や雇用の打診が来たのだ。


 やはり王都でそこそこ名のしれているDランク冒険者を手玉に取ったのが高評価だったらしい。


 結構高額な報酬を提示されたけど、お金よりも自由が欲しいので俺は断った。


 ある程度の期間なら、この依頼が終わってから受けてもいいかと思ったが、期間が一年とか長すぎて面白くなさそうだったのだ。


 このままだと食事の時間がなくなると、セリスが割って入って何とか抜け出せたのである。


「もう抜け出せたし、手を離してもらっても大丈夫なんだけど」


「ダメです。ナインは強いといってもまだ子供です。学園は広いので迷子になられては護衛できなくなってしまいますから」


 というような感じで離してもらえない。


 身体は子供、中身はおっさんなんで、連れて歩くのはいいのだが連れて歩かれるというのはちょっと恥ずかしいのだが・・・。


 手を振り払うこともできないのでおとなしく従っている。


 それにしても今のところは何もないな、相手が慎重なのかな。


 子供とはいえ護衛がついたから俺がどれぐらいできるのか、障害になりえるのかの様子見ってところか。


 必要であったとはいえDランク冒険者を倒したのはどう思われたかな?


 Dランクを圧倒できたのだから、Cランク以上の脅威として武力では難しいと思ってくれればこっちとしても楽なんだが、そのまま諦めてくれるとなおいい。


 食堂につくと大勢の人が入り乱れている。


 俺のご飯はどうするのって思いながらセリスとシルと一緒に当たり前のように列に並んで食器を持ち、バイキング形式のご飯をよそっていく。


 周りの学生が俺を不審な目で見ているが気にしない。


 何も言われないところを見ると、護衛もここで食べていいのだろう。


 不審な目で見られているのは、学生でもない、護衛に見えない俺が当たり前のようにご飯をよそっていくのが不思議なのだろう。


 窓際の席につくと、俺は念のため鑑定をかける。


「鑑定」


 俺の料理にも二人の料理にも不審な表示はなし、索敵は常に発動するようにしているがこう生徒が多いところだと判断が難しいな。


 二人と食事を楽しみながらふと外を見る。


 外は色とりどりの花が咲いていて、ゆったりとした時間を演出してくれる、このまま外に出て昼寝でもできたらどんなに幸せなことだろう。


「ナイン。護衛について予定をちょっと変更したいのだけどいいかしら」


 俺が昼寝に思いをはせているとセリスが仕事の話題を振ってくる。


「いいけど。シルが一緒のここでそんな話をして良いの?」


 シルも一緒に食事をとっているのでもちろんセリスの隣にいる、そういうのは内緒で話したほうがいいと思うけど。


「シルは大丈夫。前に物が落ちてきたときに気がついて助けてくれたのがシルだから」


 そうなのか、まあ大丈夫というのなら大丈夫なんだろう。


 唯一シルだけが普通にセリスに接してくれる友達だからな。


「わかった。だけど何か変更するところなんてあるの?このまま普通に学園に通っているだけなのが一番安全だと思うけど」


「確かにこのままでいたほうが安全が高いと判断できるけど、ナインの強さが予定外だったわ。シルに聞きたいのだけど、ナインの強さはどれぐらいだと思う?」


 話を振られて、ちょっと驚きつつもシルが答える。


「何でもわかったわけではないけど、Dランクの攻撃を全て紙一重で躱し続ける技術、そして剣戦の中で急所を一撃で捉える技術。それに魔法も使えるということだし、どうみてもEランク程度じゃない。強さだけならCランク以上は確実にあると思う。」


 かねがね高評価だな、まあ自慢じゃないが戦争で最前線で戦ってたほどだからどこらのモブとは違うのだよ。


「ありがとうシル。それが聞けただけで満足よ。Cランク、王都には数人しかいない冒険者と同レベル。たぶん、相手も見ていたならそう思うはずよ。そしてその冒険者が私の護衛について周囲を見張っている。これじゃ事故死に見せかけて私を殺すのは難しい」


 そうだろうな、俺も同意見だ、単純に警戒する人が増えただけでも難しいのだ。


 そこに高ランク相当の冒険者がいるんじゃちょっと強引な手段をとったとしても無理だと考えるかも。


「そこで、ナインの強さを考慮に入れて、来週の課外授業に出て相手を誘ってみようと思う」


 課外授業?嫌な予感しかしないんだが、と、シルが拒否の反応を見せる。


「正気なの!?課外授業に出るなんて、狙ってくださいと言っているようなものじゃないっ!」


「ええ、そこで上手くいけば相手の正体と証拠がつかめるかもしれない。それに何もなければ何もないで、この状況はたぶん継続されるだけ。この状況が続いてもナインがいる限り、強引な手段をとらない限り私をどうにかできる可能性は低い。」


 俺の強さが浮き彫りになって、相手が今までのようなちょっとしたことじゃセリスを殺せない、と判断すれば今後どうなるかわからない。


 だからこっちから襲いやすい状況を作って、お互いに準備万端で勝負ってことか。


 出せるなら子飼いの暗殺者とか出てくるだろう。


 そうこの前、夜の貴族街で出会ったような黒フード。


 あれが複数来たらちょっと不味いかもしれないな、俺一人なら逃げることはできると思うけど、セリスを守りながらってのは難しいかも。


 この課外授業パターンて複数の妨害が入って、不測の事態が起こるってのがお決まりのパターンだよな。


 てか、それ以外のパターンを俺は知らないから、不測の事態がお約束ってことだよな。


 課外授業とは、数人でパーティーを組んで近くの森に小さい魔物を狩りに行くとのことだ。


 出席するかどうかは各自の自由で、貴族は基本的に出席することはなく、ほとんどが平民出の子供が実戦経験の場として出席することが多い。


「セリス。かなり厳しいんじゃないか?俺一人ならどうにかできる自信はあるが、この前会った黒フードがいたら守りながらだと複数で来られると逃げるのすら難しいと思う。」


「予想としては、それでも森での事故死、という体は崩さないと思います。暗殺者を使うとしても暗殺だとわかってしまうのは相手にとってマイナスでしかありません。」


 そこまでして事故死にこだわる理由が俺にはわからない、ただ本当にこだわっているならセリスの側にいる俺もパーティーを組んでいる学生も殺害対象になるのか。


「他の学生とパーティーは組みません。行くのは私とナイン、キアリスの三人です」


 キアリスさんがいるなら何とかなるか?実力の程はわからないが護衛も兼ねているという事だし。


「ちょっと待って。私も行くわ。元々参加するつもりだったし。私だってFランク冒険者よ。少しの経験は積んでいる、足を引っ張らない程度はできるわ」


 シルが手を挙げるが、連れて行っていいのだろうか・・・正直、かなり危険なんだけど。


「ありがたいと思うけど、友達を危険に晒したくはないの。諦めてほしい」


「嫌よ。ダメと言われてもついて行く。」


 セリスとシルが見つめ合って動かない、先に折れたのはセリスだった。


「そうね。私が魔眼があるから周りとの距離をとっていたのに、変わらず声を掛けてくれたのはシルだけだったものね。あなたは折れないものね。」


 そして二人はにっこり微笑む。


「となると、キアリスさんとシルはセリスの護衛。俺が周りを片付けるって事で。」


「それが良いわね。キアリスは初めから連れて行くことはできないから、相手を油断させる意味も込めて森の中で合流ね」


 それから少し詳細をつめて、また授業に戻って行く。


 午後は座学の時間だし、考えをまとめるにはちょうど良いだろう。


 まず課外授業の申請は明後日が期限だ、なので明後日ギリギリに申請する。


 申請はパーティーリーダーとしてシルに申請してもらうことにした。


 そこにセリスの名前があれば多少の混乱は誘えるだろう。


 出席しないと思われているから相手も焦って動きがあると考えられる、それを掴むことができれば良いが、そこはセリスの情報網次第といったところか。


 俺の方は多少準備をする必要と、他にちょっとした調査をしようと思っている。


 当たるかどうかはわからないが、全く的外れでも何もしないよりは良いかなと考えている。


 課外授業自体はありきたりなもので、数体の魔物を狩って待機している教員の元に戻ってくるというものだ。


 危険があった場合は、事前に渡される煙玉というか狼煙を上げるための道具を使えば教員が助けに来てくれるということだ。


 大抵はこれが不発だったり、逆に魔物を誘き寄せる匂いを出す物だったりがテンプレか。


 シルに関しては彼女たっての要望で、課外授業が行われる来週まで毎日俺が鍛えることになった。


 一週間程度でそう変わるものではないと思うがこの世界にはスキルがある、スキルが上手く発現したりマッチすると急激な力の底上げになるから、鍛えれば鍛えるだけ実力は伸びるはずだ。


 ふと、教室内を見回すと、バウズとその雇主の学生がいない。


 怒って帰っちゃったのかな?バウズ先輩はクビにならなきゃいいけど。


 冒険者も貴族も舐められたら終わりだしどうなることか、俺に敵対しなければどうでもいいが。


 バウズは気絶しちゃったから警告できなかったんだよな。

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