第32話王都動乱
晴れ渡る青空、雲ひとつない晴天。
こんにちは、ナインです。
俺は今、街道を一人で歩いている。
何で一人で歩いているかというと王都へ行こうと思っているのだ。
本来テンプレとしては町から町へ行く場合は護衛依頼を受ける、冒険者の基本だね。
そう、依頼を受けつつ馬車に乗せてもらって魔物が出たらボコボコにし、盗賊が出たらアジトに乗り込んで根こそぎ金品を強奪し、町につけばお金をもらって豪遊。
護衛依頼で町を行ったり来たりするだけで生活困らないんじゃないかって。
そう考えてた時期が俺にもありました。
だがしかし、現実は無情だ。
冒険者ギルドで王都へ行く護衛依頼を受けようとしたのだが、人数が足りないという壁にぶつかった、どれもこれも最低二人以上が条件、パーティーを組んでいない俺には無縁の依頼だったのだ。
せっかくEランクになったのに、美味しい?と俺が勝手に思っている護衛依頼が受けられなかった。
じゃあということで、一人がダメなら複数パーティーを必要としてる大人数の護衛依頼を受ければいいじゃないって思ったのだが・・・根こそぎ断られた、呆然としたね!
護衛される側が断るなんてそんなシステムあったの?って話、俺の知ってる異世界転生には断るなんて選択肢は存在しなかった。
普通はさ、あれ?子供で平気なの?みたいな感じで渋々護衛されるけど、他の冒険者が苦戦する中、魔物をボコボコにする俺を見て心を入れ替え、俺に気に入られようとペコペコしだすパターンがあるはずでしょ。
それなのにいくらEランクとはいえ、子供に護衛を任せられないとか言われたよ。
ちゃんと商会名覚えたからな、もう頼まれても護衛してやらない!
そして依頼を断られ続けた俺は一旦宿に帰って不貞寝することになるのだが、おかげで乗合馬車の時間に間に合わず、なんかもうどうでもよくなって徒歩で王都に歩き出したとさ。
特に急いでるわけでも何か目的があるわけでもない。
せっかくだから観光がてら王都に行ってみようかなってそんな軽い気持ちで行動を起こしたわけだけど、まさか最初から躓くとは思ってもみなかった。
俺が悪いんじゃない、世間が悪い。
魔窟のデカゴブリンちょっとズルいんじゃないか事件から数日。
特に大きな進展もなく魔窟の調査は粛々と続いている、いや、元魔窟というべきか。
魔王様が言うにはデカゴブリンがいなくなったことで、魔素がだんだん薄れて通常の濃度になり普通の洞窟になっていくそうだ。
デカゴブリンがいた空洞でCランクパーティーが死体で発見された事もあり、今までサクサク進めていた調査のペースを落として慎重に進めているみたいだ。
何処に洞窟が繋がっているか判明するのはもうちょっと先のことだろう。
という事で暇を持て余した俺は王都を見に行こうと思ったのだ、徒歩だと大体三日あれば着くだろう。
乗合馬車には乗れなかったが天気の良い日の散歩だと思えばこれも悪くない。
暑くもなく寒くもない、晴れ渡る空をアホみたいな顔して見上げて俺は歩いているのだ。
子供一人で歩いてるぐらいじゃ相当切羽詰まっている盗賊団じゃなきゃ襲ってなんてこないだろうし、木々の合間から時折吹く風がとても気持ちいい。
街道を歩くこと半日ほどで森が少し深くなり、森の中心を切り開いた街道になる。
たぶん今日は森の中でキャンプかなって思っていると、微かに、本当に微かにだが剣戟と声が聞こえてくる。
この先で何かあったのかな?
剣戟の音が聞こえるってことは盗賊でも出たのか、俺は音の聞こえる街道の先に走っていった。
俺が音のする場所についた時にはほぼ情勢は決まっていた。
一方は盗賊と思われる集団が十人以上、馬車とそれを守っている護衛が二人、周りには倒れている多くの盗賊と、倒れている護衛が二人。
これは・・・多くの矢が落ちているから矢で奇襲を受けた後、囲まれたって感じなのかな。
「全員で囲んで護衛を引きつけろ、倒そうと考えるな!攻撃するときは全員で一斉にだ。一発かすればラッキー程度に考えろ。」
盗賊のお頭だろうと思われる髭親父ががなり立てる。
盗賊の割に徹底しているな、この人数差で持久戦をされると護衛の方は相当の実力差がないとキツいだろう。
見捨てるのも寝覚めが悪いし助けるか、通り道だしな。
俺は足音を立てながら近づいていき戦闘中の盗賊と護衛に話しかける。
「こんにちは。介入しようと思うんですが、人数の多いほうは盗賊ってことでいいですか?」
間違えちゃいけないからとりあえず聞いてみる。
馬車の前にいるからといって、見た目が盗賊にしか見えないからといって思い込みで判断するといけないっていうのが何かあったんだよな。
「なんだガキ!死にたくなければどっかいけ!」
たぶん盗賊のお頭が俺に怒鳴ってくるが・・・これどっか行けば見逃してくれるとかあるの?
「助かる。包囲を崩したい!できるか?」
護衛の男の人は俺みたいな子供にでもちゃんと話してくれているので、こっちに味方しよう。
俺は護衛の方を向いて無言で頷くと短剣を二本構える、そう、今日の俺はここまで一切出番のなかった短剣二刀流なのだ。
俺が短剣を構えると盗賊も俺を警戒しだす、いくら子供と言っても戦闘に自分から参加してくるような子供を警戒しないわけにはいかないのだろう。
全員の注意が俺に向いた瞬間に囲みから少し離れているお頭に突っ込んでいく、とっさにお頭は俺の右手の短剣を受け止めたが左の短剣でお頭の左太ももをぶっ刺す。
「ぎゃあああぁっ・・・!」
「お頭っ!!」
悲鳴とともに崩れ落ちるお頭に蹴りを入れて吹っ飛ばし、運悪く木に直撃すると盗賊たちが若干動揺する。
お頭がやられた衝撃で動揺する盗賊たちを見逃さず護衛の二人も動きだし、囲みの一部を簡単に崩す。
一部が崩れてからは早かった、一人二人と盗賊が斬られていき逃げ出そうとする盗賊には優先的に俺が対処する、これ俺が介入する必要なかったんじゃないかな?
全ての盗賊が倒されるのに時間はそうかからなかった。
護衛の二人も強かったから何でここまで追い詰められていたのかよくわからんな。
全ての盗賊が倒されたのを確認すると、俺は倒れている二人の護衛に近寄っていった、一人は意識があって馬車にもたれかかっている・・・大丈夫そうだ。
もう一人は出血が酷い急がないと危なそうだ。
「待て。助けてくれたのはありがたいが、それ以上近寄るな!」
護衛の一人が俺の前に剣を抜いたまま立ち塞がった。
何故かかなり警戒されている、そういうものなのかな・・・安心してもらおうと俺はギルドプレートを取り出して護衛に見せる。
「俺はEランク冒険者のナインです。ポーションは持っていますか?倒れてる人の出血が多そうです。」
護衛の一人が倒れている人に駆け寄って状態を確認する。
「息はある。ただ、出血がかなり酷いので・・・」
息があるなら何とかなるかな。
俺はアイテムボックスからポーションを取り出すと立ち塞がっている護衛に見せる。
「これを早く飲ませてあげてください。品質が良いので助かるかもしれません」
護衛は一瞬迷ったようだが、それどころじゃないとわかっているのだろう。
「すまない、助かる」
そう言うと俺からポーションを受け取る。
「そこで少し待っていてくれ」
足早に倒れている護衛に近寄ると受け取ったポーションを倒れている護衛に少しづつ飲ませていく。
見た感じ大丈夫そうだな、顔色が良くなってきている。
さて、盗賊のお頭が向こうで気を失っているはずだ、手加減して吹っ飛ばしたからな。
俺はその場を離れると木にもたれかかるように倒れているお頭の状態を確認する・・・よし、まだ生きてる。
近くにアジトがあるだろうから、最低限だけ治療してそこに案内させよう。
気絶してる盗賊に回復薬を振りかけて治療をし、装備を剥いで武器をアイテムボックスに突っ込む。
ロープを出して縛っていると護衛その一が声をかけてくる。
「ナインだったか?ありがとう。仲間は助かりそうだ。かなり良いポーションだったんだな、お代を払いたいが今はそこまでの余裕がなくてな。よければ一緒に来てくれないか?町についてから支払おう」
どうしようかな、お代は別にいらないけど、貰った方がお互い後腐れなく別れられるってものだしな。
しかし、俺がやりたいのは盗賊のアジトに行ってお宝を根こそぎ強奪することなんだよな。
「じゃあ、お代はこの盗賊達の持ち物ってことにしませんか?」
俺は一緒に着いて行かないことを選択する、一緒に行けば馬車の荷台にぐらいは乗せてくれるかもと思ったが、もう馬車よりもお宝に気持ちが向いている。
「それで良いのか?足りないと思うが・・・ああ、挨拶が遅れたが俺達は王都を本拠地として活動しているDランクパーティー『鉄壁の剣』だ。俺はリーダーのガイ」
王都のDランクパーティーか、馬車の向きからすると護衛依頼で王都に帰る途中なのかな。
報酬の話がまとまるとみんなで盗賊の装備を剥ぐのを手伝ってくれる。
盗賊の装備をあらかた剥がし終って俺はそろそろお頭を連れてメインイベントの盗賊のアジト襲撃に向かおうとすると、馬車の扉が開いて女の子が出てきた。
年齢は俺より少し上か、輝くような銀髪、銀目、長い髪を後ろで結んでいて、豪華ではないが青いドレスを着ている。
馬車を離れてこちらに近づいてくる。
「お嬢様、外に出てはいけないと・・・」
ガイさんが慌てるが、女の子はそれを遮る。
「いいのです。助けていただいてお礼を言わないのは失礼でしょう。・・・ナイン様、先ほどは助けていただいてありがとうございました。私はセリスと申します」
セリスさんか、家名を言わないということは貴族ではなく商家の娘って感じなのかな。
「いえ、通りすがっただけですので。それでは俺はこれで失礼します」
「ナイン様は、盗賊のアジトに行かれるのですよね?」
すぐに立ち去ろうとする俺にセリスさんが、俺の顔をとても綺麗な銀色の目でまじまじと見つめながら聞いてくる。
「そうですが・・・」
なんだろう・・・すごく不思議な感じのする子だな、何が不思議かはわからないが・・・。
「ではこれをお持ちください。盗賊が多くいると危険ですのでお守り替わり、というわけではありませんが。不要になれば売却すれば多少のお金にはなるでしょう」
そう言うとセリスさんは服の中から一つのナイフを取り出した、綺麗な装飾が施されたナイフだ。
どうしようと思ったが特に魔力を感じるわけでもなく、何かあるわけでもないのでちょっと豪華なナイフを受け取った、たぶんお礼ということだろう。
「ありがとうございます。ではこれで貸し借りなしということで」
俺は動きたがらない盗賊のお頭をロープで引きずるようにして森の中に入って行った。
「よろしかったのですか?お嬢様・・・」
森に入った瞬間に不穏な言葉が聞こえてきたが、今さら引き返すわけにもいかず、もう会うこともないのでそのまま森を進んでいった。
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