第63話 何も隠していますん!


「なぁ」

「何?」

「何隠した?」


「( *゚ェ゚)?」という顔をするメティス。


「ん?じゃねーよ!ん?じゃ!!」

「何も隠してないわよ」

「いやお前今絶対なんか隠したろ?」

「ちょっと!後ろ回るとか止めて!変態!えっち!ヒデト!」

「だからヒデトは悪口じゃねーだろ!お前今あからさまに俺の姿を見てなんか隠しただろ?って言ってんだよ!」

「仮に何か隠していたとしてズッキーに関係あるの?」

「まぁ確かに……いやあるだろ?大アリだよ」

「何?今更彼氏ヅラ?」

「今更も前更も後更もお前の彼氏になんかなりたくねーよ。頼まれても嫌だ」


「はんっ」と鼻で笑って挑発的にニヤニヤするメティス。


「……まぁね。セ○レなら良いけど?」


「ふんっ」とやはり鼻で笑って「やっぱり」みたいな顔をしている。ムカつく。


「童○なのに?」

「童○関係ねーだろ?」


勝ち誇ったように「オーっホッホッホ」と高笑いをして席を立つメティス。

……首根っこを掴んで逃亡を阻止する。


「逃がすか!今のじゃ何にも誤魔化せてねえからな!?むしろムカついたから絶対に逃がさんわ!!」

「なんの話だったかしら?」


「実はこいつ俺とこういう絡みがしたいからわざとツンデレしてるんじゃないの?」

と勘ぐってしまうくらいには毎回とりあえず抵抗される。本当は俺の事好きなんじゃないの?


「お前、本当何やらかした?」

「何?今度は保護者面?」

「お前が何かすると俺のところに回ってくるんだよ!主に請求書的な物が!!」


確かにメティスが一人で何か短検のような物を手に持ち眺めていた。

メティスにもある程度お金は持たせているので、何を買うのも自由だ。だが、あからさまに俺の姿を確認した後に何かを隠すのを見過ごす訳にはいかない。

前にエロスの銅像(全12種コンプリート)をありあえない金額で買ってきた事があった。それ自体は別に構わない。メティスにだって娯楽は必要だ。だがその後、足りない分の請求が俺に回ってきたのだ。しかもあの時は返品できないように銅像の裏に名前を彫って返品不可にしやがって……。


「今回は来ないから大丈夫」

「お前の大丈夫なんて信用できるか!良いから観念して見せろ!」

「ちょ、いやー誰か助けてーオー○ーサーレールー!」

「ジタバタしてんじゃねーよ!誰も助けちゃくれねーよ!!イーッヒッヒッヒ」


このいつもの悪ノリが俺の悪い評判に繋がり「クソムシ」の名を欲しいままにしている原因でもある。


「これは本当に触らない方がいいんだってば!人間が持つとまずい事になるんだってば!」

「やっぱりなんか持ってるんじゃねーか!そんなやばいやばい言ってる危険なブツをお前に預けておけるか!!」


抵抗するのでドッタンバッタンと揉み合いながらやっとの思い出取り上げたのはやはり短剣であった。

無駄に高い物を買ったんだか買わされたんだか知らないが、鞘に収まったその短剣は見るからに高級な装飾がされている。

ただし、メティスが持っている時は何も無かったと思うのだが、手に取った途端に短剣から禍々しいオーラが漂っているのが見える。

これが何かよろしくないものであるだろう事は直感で分かる。


「あーあ。駄目だって言ってるのに……」

「どういう事だよ?」


と、手を差し伸べメティスを起こしてやる。

そのまま手を離そうとするがメティスが手を離してくれない。短剣を取り上げたのに腹を立てているのか?


「な、なんだよ?」

「オーラ見えてる?」

「ん?」

「短剣からなんか見えない?」

「紫っぽいオーラが漂ってる」

「あっちゃー……。良い?私が手を離したら気を付けるのよ?」

「何に?」

「全てに」


何を言っているのだこいつは?

手を離し、よっこらせっと椅子に座ろうと腰を下ろす……と、そのまま椅子が音もなく足が折れてしまい俺は床へひっくりかえってしまう。

「イテテ」と机に手をかけると今度は丸いテーブルの一本脚が「バキッ」と音を立てて折れてしまったので、また床に倒れ込んでしまった。


「え……えぇ?」

「あーあ、だから言わんこっちゃない」

「……お前がなんかしたの」

「あんまり大きい声じゃ言えないけどその短剣は『フォーチューンソード』っていう神器の一振りよ」

「なんでそんな運が良さそうな短剣でアンラッキーな事が起きてるの?アチい!!」

「きゃ〜、ごめんなさい!!今拭くもの持ってくるわ!!」


ベテランの給仕さんが足を滑らせて、床に倒れている俺の頭にスープが飛んできた。そう、俺たちの席はいつもの端っこの隅の席で、結構離れたところで転んだベテラン給仕さんが運んでいた熱々のスープが飛んできたのだ。

ほぼ毎日ギルドの酒場に入り浸っているが、ベテランの給仕さんがそんな失敗を見るのは初めてだ。

ちょっと考えて禍々しいオーラを放つ短剣のせいっぽいので床に置いて距離を置いてみる。


はぁ〜と溜息を吐き「場当たり的な対処にしかならないんだけどね」とメティスがスッと掌を上に向けて俺に差し出す。


「なんだ?『この呪いを解いて欲しければ金を出せ』そういうあれなのか?」

「違うわよ!私に触れていればアンラッキーな目には合わないで済むわよって、ズッキーの中で私どんだけ悪どいの!?」


ガシッとメティスの手を急いで掴む。


「こんなに頻繁に不幸な事が起こるものでもないはずなんだけど。ズッキーはハードラックと踊り狂っちまうタイプなのね」

「『ハードラックとダンスっちまう』んだったら聞いた事あるけど『踊りっ狂っちまう』奴がいるってのは初めて聞いたな」

「一度持ち主を決めちゃうと手放しても意味ないわ。100kmくらい離れれば流石に吸収力も落ちるかもしれないけど」

「吸収?吸われてるの?何が?」

「運。吸われてない?」


言われて床に置いた短剣を注意深く見てみるとオーラを「放っている」のではなく「吸っている」ように見える。


「……お前のせいって事はこの椅子と机とスープは弁償しないとか」

「私のせいじゃないわよ!ていうか、この状況でその気遣いができるってもう病気ね?」

「お前のせいっていうかこの短剣のせいなんだろ?」

「そうよ。だから触るなって言ったんじゃない?」


布巾を持ってきてくれたベテラン給仕さんが俺が壊したと思われる椅子と机をみて声をあげるが熱々のスープを頭からぶっかけてしまいバツが悪そうにしている。

壊した物は弁償するしスープの件も気にしなくて良いよと伝え布巾を受け取った。その時に「スープも俺のせいなんで」とは言えないので、机と椅子の代金に気持ちスープ代も上乗せして渡しておいた。


「私はやめなさいって言ったわよ?」


舌打ちをしてメティスを見ると「私は触るなって言ったわよ?」と繰り返す。


短剣の名は「フォーチューンソード」古の時代に神様から与えられた神器と呼ばれる武器の一振り。ただし、現在は神界に返納されているそうだ。いや、返納されて「いた」そうだというべきか。

このフォーチューンソードを元に作られたレプリカが存在しており、地上にオリジナルがないので人の作ったレプリカが便宜上「フォーチューンソード」という名で呼ばれている。レプリカのフォーチューンソードはその名の通り運気が上がる短剣として業物に名を連ねている。


「じゃあオリジナルって事は滅茶苦茶ラッキーマンになれるのか?」

「控え目に言ってなんでも願いが叶っちゃう」

「今滅茶苦茶不幸な目に遭ってるのに?」

「鞘に幸運ゲージが付いてるでしょ?それが満タンになるとなんでも一つだけ願いが叶うと言われているわ」

「なんだそりゃ?『君の側で眠らせて』でも良いの?」

「ええ、どんな場所でも良いわ」

「○eautiful W○rld !?」

「まーよーわずにーキーみだけをー♪」


メティスが歌い始めてしまった。


「なんでもは言い過ぎだろ?JAR○に訴えんぞ?」

「神器だもの」

「みつ◯かよ?」

「ええ、そうね。確かに言い過ぎだったかもしれないわ」

「だろう?」

「地球にこれからくるサ○ヤ人をやっつけるくらいの事だったら叶えられるけど、ズッキーから彼女が欲しいって言われても叶えられそうにないわ。ごめんなさい言い過ぎたわ」

「侵略するサ○ヤ人よりも困難なの?俺が彼女作るのって??」


○龍よりは高性能でも戦○ヶ原ひ○ぎよりは性能が劣るって事か……。

……戦○ヶ原さん、彼女になってくれないの?


「けど不幸な事が起こればゲージが溜まるっていうなら結構簡単なんじゃね?死にまくれば良いんじゃないの?」

「わざと死んでもゲージは回復しないわよ?」


ダメか……。良い作戦だと思ったんだが。


「自殺はダメでも例えば、ロシアンルーレットみたいなのやれば100発100中で死ねるんじゃないの?」

「それも自殺みたいなものだもの。多分ゲージが貯まったとしても0.1%くらいしか溜まらないわね」

「良い方法だと思ったのにな〜」

「逆に今のコンボは良かったわよ。3%溜まってる」

「コンボって椅子から机で転けて熱々のスープ頭に被ったの?」

「そそ、人様のお店の丈夫な机と椅子を腐らせた挙句、他人まで巻き込んで不幸が降ってくるなんてポイント高いわ」

「そんなんで3%回復するのかよ!?どんなポイント換算方式だよ?」


鞘の幸運ゲージを見ると80%ぐらい溜まっている。


「なんか結構ラッキーが溜まってんだけど?」

「神界に返還された時のままになってるんじゃないかしら?」

「なんでも願いを叶えてくれるんだったらなんで神界にクリーングオフされたんだ?挙ってみんな欲しがるだろ?」

「いいズッキー?人間というのは愚かな生き物なのよ」

「ああ、そうだな」

「なんでも願いを叶えてくれる短剣が人間界にあったらどういう事になるか分からない?」

「あー……。想像に難くない」

「でしょ」


こんな物が権力者や悪人の手に渡れば弱者に預けて満タンになりそうになったら「ッペ」ってして取り上げるだろう。それはもう何人犠牲が出てもお構いなしに……。

ノーリスクでハイリターンのフォーチューンソード。これを我が物にしようと戦争が起きてもおかしくない。


「これを造った神様は何も考えなかったのか?」

「あら?神は求められたから与えただけよ?悪い事をするのはいつも人間」


なんだか随分上から目線で物を言いやがるな。実際、上(上位の存在)な訳なんだけども。


「それでも、人の手に余ると考え神界に返納を言い出したのも人間なんだけどね」


古の時代は神様が今よりも短な存在だったとか。


……なんか言い話っぽくなっているけど違うだろ?


「つーかさ?神器なのにガバガバだな?」

「下ネタ?」

「んとにお前は……」


なんでちょっと下ネタになったら嬉しそうなんだよ?

いや、下ネタじゃねーよ!?


「お前の物理攻撃もそうだし俺の魅了耐性もそうだけどさ、神様の設定?調整?って本当に適当だな?」

「神を人間と同じ尺度で考えてはダメよ」

「考え方の違いとかってそういう問題でもないような気がするけど……。んで、なんでメティスはこの短剣の呪いにかかんないんだ?」

「私一応神属性だし」

「そういえばそうだっけか」

「後、これ呪いじゃないからね?なんの見返りもなく願いが叶う訳ないでしょ?これだから人間は」

「……けどさ、そんな呪いのアイテムを現代に蘇らせてて大丈夫なのかよ?」

「だから呪いじゃないってば。それにズッキーがチート能力とかチート武器欲しいっていうからいただいた物なのよ?」

「へぇーそうなんだー」


うっかり聞き逃してしまうところだった。


「は?え?お前が股からポンッと取り出したとかそういうんじゃないの?」

「何よそれ?さっきからセクハラ?エロス様から賜ったのよ」

「……………」

「ズッキー、いつだったかしら?言った事あると思うけど男の子はそんなだらしのない顔をしてはダメよ?」

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