絶対に死にますん!
シャベリカ
第1話 絶対魔王討伐させたい神vs絶対行きたくない人間
「ピンポンパラララパンポンパーン!あなたは現世ではお亡くなりになりました。ですが今なら剣と魔法のファンタジー世界へ魔王討伐の旅へご招待致しまーす!おめでとうございまーっす」
イェーイと言いながらパチパチパチと拍手をする美女が目の前にいる。
一瞬何のことだか分からず左右を確認してしまう。
パチンッと頬を掌で挟まれ、美女の顔が目の前にくる。良い匂いがする。
「こんな絶世の美女が目の前にいるのにどこを見ているの?」
「顔近い!顔近い!!」
「嫌?」
「嫌って事はないですけど、ちょっとこれどういう状況なんですか!?」
「だから言ってるでしょ?剣と魔法のファンタジー異世界へご招待って」
ポクポクポク、チーン
「ああ、こういう感じなんですね?」
「あなた達の世界ではこういうの流行ってるんでしょ?話が早くって助かってるから使わせてもらってるわ」
「えっと…、ていうことは俺死んじゃったんですか?」
掴まれていた顔を解放され親指をビッと立て「いえーす」と答える美女。
「なんだろ?実感ないから別にどうという事もないんですけど、絶対そのテンションで迎え入れちゃいけないと思うんですよね?」
「間違えてこのままのノリで他の世界の子を迎えると私が神だって信じもらうのにすっごい時間掛かったりするのよね。けど下手に壮大に出迎えるとこっちも『我』とか『朕』とか?『人の子よ』って(笑)『迷える子羊よ』とか言わなくちゃいけないじゃない?」
「そのノリじゃ神様だって信じてもらえなさそうですもんね」
「そうなのよ!けどね『迷える子羊よ』ってなんなら眉間に皺寄せて『マヨエルコヒツジヨー』ってどんなテンションで言えっつー話でしょ?ちょっと下手に出ると神様だって信じてもらえなくなって『神の名を語る悪魔め!甘言には騙されんぞ!!』とか怒るのよ?ほんっと、罰当たりよねー」
この神様、距離が異様に近い。ボディタッチなんかも気軽にされると簡単に惚れてしまう。責任とって結婚しなさいよ?
「あら、童〇?もしかして童〇?最近の子は早いっていうけど、昔は童〇は恥じる事でも、今では『童〇も守れない男に何も守れないですよ』みたいな感じなんでしょ?やーん、童〇だから世界守れちゃーう」
美女が腕に絡みついてくる。
「どどど、童〇ちゃうわ!やりまくりだわ!2日に7回はやってるわ!!なんなら『女も飽きてきて次は男かな?』ってくらいやりまくってるわ!!」
おもむろに美女は俺の頭を豊かな胸に抱き寄せるので、思わず思いっきり抱き返す。
そして俺の頭を優しく撫でてくれる。
「良いのよ、私の前で強がらなくて良いの。辛かったんだね……」
涙ながらに慰めてくれるものだから思わず涙が出ちゃう。だって童〇だもん。
「ってなるかー!なんだこの茶番!?こういう事するから神様だって信じてもらえなくなるんでしょーが!」
「見てきたみたいに言うわね」
「説明してくれるんですよね?剣と魔法のファンタジー!」
「はいはい説明ね。説明説明っと」
美女は少し俺と距離を取り支配者のポーズで輝きだす。
後光が差すってやつだ。
「私は性と愛の神エロス」
エロスって確か全裸の男の像だった気が?
「性別なんてどちらでも良いのよ。神様っていうのは基本的に概念だから『軍神アーレス』が幼女の姿だったりしたらなんだか勝てる気がしないじゃない?だから大体決まった姿やら形やらをしてるけど私はなんといっても『性』と『愛』の神よ!男とか女とか、なんなら両性具有であったとしても問題ないわ!」
あれ?今声に出したっけ?
「思った事が筒抜けなのよ。なにせほら、私神様だし、神の御前ってヤツだから。なので今回はあなたが考える『ぼくがかんがえたさいつよのびじょ』が目の前にいるわ」
「サービスよ」とペロッとハニカミウィンクをひとつ。
確かに何がどうしちゃったの?というくらいの美女が目の前にいる。
長身でボンッキュッボンボボーンのダイナマイトボディ!チラッと見える腹筋はうっすら割れて引き締まっている。金髪のロングヘアーで美女にしか許されない前髪パッツン。凛々しい眉毛にすっと通った鼻筋にふっくら唇。だが、大人びすぎない少女のあどけなさを、の、こ、し、て、い、る!いやっふー!!
うっかり好きです!って告って嫌悪感丸出しの顔で「他の人に私の事が好きだった、なんて絶対に言わないでよ……」つって、振られるところだったぜ!
「良いのよ!思う存分私の胸で泣きなさい!」
「うわーん!」
中学生の頃の黒歴史を思い出しマジ泣きした。
「けどこれ、実はロ〇コンだったりしたら幼女の姿だったりしちゃうんですかね?」
「そうねぇ、あまりにもアレだったら私が勝手に姿決めちゃう事もあるけどね」
「あまりにもアレってどんなんなんですか?」
「幼女を通り越して赤子」
「赤ちゃん!?」
「くらいだったらまだ良いんだけどね」
「マシなの!?」
「愛も性も紙一重なところがあるからね」
性と愛の神様が言うんだからきっとそういうものなんだろうと納得する事にした。
「それはピーな見た目なのにピーな服着せられてピーにピーとピーを突っ込んだ状態でピーがピーでピーピーピーピーーーー」
「もう聞きたくない!やめて!!って言いたいけど、ピーが多すぎて何言ってるかわかんない!?」
「最近こっちでもクレームとかうるさいのよ。配慮が足りないとか個人情報とかプライバシーのなんちゃらかんちゃらとか」
考えている事が筒抜けなのは個人情報とかプライバシーの侵害とかに当たらないのだろうか?
「まぁ、私達一応神様だしね」
考えている事が筒抜けなのでクレームみたいになってしまった。
「そうなの、だから拒否権はあるのよ?」
拒否権?なんの話だ?
「異世界」
そういえばそういう話してたんだった。
「そ、話が脱線したけど、考えている事が分かるから異世界へっていうのは強制って訳じゃないのよ?本人が納得してないのに無理矢理行かせる様な事はしないわ。拒否権はあるの。天界はブラック企業じゃないからね」
「天界って企業なの!?」
「言っても私達は宮仕えみたいなところあるしね」
「宮仕え?宮なの!?」
「そうよ、何だと思ってたの?」
「なんだろ…、趣味とかボランティア?」
「あー、最初はそうだったかも。増えすぎちゃって管理しきれなくなって神様増やして起業せざる負えなくなった。みたいな?」
そんな理由で世界って出来てたの?
「ちょっと待って下さい。拒否権があるって事は、断ったら天国とかに行けるんですか?」
「そうね、そもそも地獄行きの子には異世界行きの話自体がないからね」
やっぱ地獄もあるんだ。
「けどね、天国って思った程良いところって訳じゃなくってね、肉体も無くなっちゃうから日向ぼっこか温泉に浸かるくらいしかやる事がないのよね。だからある程度いると暇だーってなって転生を希望する人が多いわね」
「どっちにしても転生できるなら異世界とか行く必要あるんですかね?」
「だってほら、生まれる世界選びからガチャになるのよ?今ならそのまま異世界へ行けちゃうのよ?」
「あーなるほど、それはでかいですね」
「でしょ?じゃあ行きましょう、やれ行きましょう、すぐ行きましょう!」
「いやいや、魔王討伐した後また世界選びからガチャになるんですよね?」
「チッ」
「…あれ?今舌打ちしました?」
「んーん、してないわよー」
「……わざわざ怖い思いしてまで魔王を倒しに行かなくてもいいかなぁって思うんですが」
「そりゃそうねー、だから見事魔王を討伐出来た暁にはー、ジャジャン!自分の望む世界で容姿・才能、おまけに親まで選んで転生させてあげるわ!すっごくない?」
「滅茶苦茶VIP待遇じゃないですか!!」
「そうよ!だから魔王討伐に行くわよね?ね?」
「勿論チート能力とかいただけるんですよね!?」
「チッ」
「あれ?また今舌打ちが?」
「私神様よ?舌打ちなんてしないわよー。なんの話だったかしら?」
「……」
「チート能力の話ね。あーはいはい、いやあねーちゃーんとよういしてるわよー」
なんだ?やけに歯切れが悪いな。
「こういうの流行ってるんでしょ?」とか言ってたのに「チート能力で無双かましてハーレム生活」までがデフォなんじゃないの?
「ちょっと前まではあげてたんだけどね」
エロスが今までの魔王討伐の経緯を語り始める。
「現世に対して神は制限があって決まっている力しか与えられないの。それが魔法とかスキルになるんだけど、今ここにいる状態、ここは現世ではないから無制限に近い形で力を与える事ができるのね」
無制限に近い形でって凄い事言い出すなこの人。あ、神様か。
「ただの人に力だけ与えて世界を救えって言うとね、大体の人は私利私欲の為に力を使おうとするのね」
努力なしに得た力で使命感もなければ目的もない。そうなるわな?
「お金稼ぐじゃない?それは良いのよ、旅に資金は必要だしね?けど、お金があるとハーレム作るのよ。そうすると魔王討伐しないでもうそこで一生を全うしようとするのね」
そりゃね。ハーレムは男女共通で夢と希望と愛とジャスティスみたいなところあるからね?
神罰だーって雷でも落としてやれば良いんじゃないの?
「それも現世に介入する事になるから、簡単には出来ないのよ」
思ってる事筒抜けなんだっけか。
「そんな中でも真面目に魔王討伐をしてくれる子もいるのよ?世界の平和の為にって頑張ってくれる子、まさに勇者よ」
「お、俺だってとんでも能力くれたら世界平和の為に頑張っちゃうし。ホントだし」
「お姫様と結婚して幸せに一生を全うしました、めでたしめでたし」
「そういうのが聞きたかった」
「なんてもうホンット稀ね」
「稀なの?」
「だいたいは魔王討伐後は勇者の存在が邪魔になって勇者ぶっころよ、つまり暗殺?」
「大きすぎる力は恐れられるし邪魔になるのは否めないですね」
「国同士の政争に巻きこまれて嫌がらせ受けて鬱になって自殺しちゃったりする子もいるのね」
「血でドロドロした戦場から、人間関係でドロドロした戦場へって?どんな冗談だって話ですね」
「死んだらここに戻ってくるじゃん?一通り労いの言葉を掛けた後に、生まれ変わったら何になりたい?なんて聞かなくちゃいけないこっちの身にもなれって話よね?暗い目をして『このまま…天国に…行かせていただく事は…可能ですか?』なんて暗い瞳で言われると、もうこっちとしてもリアクションに困ちゃうのよね?『お、おぅ。生きてればきっと良いことあるわよ』くらいしか言えないじゃない?」
「勇者からしたら『生きてても良い事なかったからここにいるやないかーい!』って話ですね?」
人間不信になってるところにまた現世に戻れますよーって言われても戻る気が起きないわな。
「まだ自殺する子は良いんだけど」
「良いんですか?」
「襲撃されて下手に生き延びると復讐に目覚めて世界を滅ぼそうとしたりするのね」
「散々こき使っといて、用が無くなったら死ねって言われればね」
「けど勇者って強いじゃない?だから暗殺っていっても簡単にはいかないんだけど」
「世界救ってるからね?」
「だから、魔王討伐メンバーの魔法使い(♂)が暗殺の指令を受けたりする訳よ」
「勇者のパーティだったら強いですもんね。けどそんな苦肉を共にした仲間がそんな命令きて受けるもんなんですか?」
「世界一の魔法使いだったりするから宮廷魔術師団の団長さんだったりするのよ」
「あー、それだと国からとかの命令ならばやらない訳にはいかないかもですね」
「そんで勇者ってだいたいパーティの聖職者(♀)に性的な行為するじゃない?聖職者は性職者じゃねーっつー話よね」
「いきなりなんの話ですか?」
「その聖職者(♀)が魔法使い(♂)の幼馴染だったりするのよ」
「あ、あー…(察し」
「国からの命令にも熱が籠るってもんでしょ?」
「確かに…」
「『俺の性職者(♀)を返せ~』ってなる訳よ(笑)」
「うまくないですよ?」
「ガッハッハ!」と豪快に笑う神エロス。
「幼馴染に手を出したんだったらぶっ殺されても文句言えないですね」
「え?」
「え?」
見つめあう2人。俺、今変な事言った?
エロスは「で、でね?」と聞かなかった事にして話を進める事にしたらしい。
「止せば良いのに、また嫁が頑張っちゃったりして旦那だけでも、つまり勇者だけ生き残っちゃったりするのよ」
「まぁ、そうなれば世界を滅ぼそうと思ってもしょうがないかもしれないですね」
「そうなのよ、魔王はあくまで支配を目的にしてるのに、セカイヲホロボスって状況悪化してるじゃない?」
「セカイヲホロボスってなんかラストボスみたいですね?セカイヲホロ『ボス』みたいな?」
「駄目なの!こっちにはノルマがあるの!!」
「神様まさかのノルマ性?」
「魂のバランスをとらないと大変な事になるの!みんな神様総動員で三千世界のバランスを保ってんの!」
まさに宮仕え。夢の無い話だな。
指で眉毛を八の字に、少し鼻にかかった声で間延びする喋り方。
「『あっれ~?最近世界を滅した魔王を~派遣したエロスじゃないの~?あれ~派遣したのは勇者だったっけ~?どっちでも良いわね~。元気だった~?私⤴?大変だったわよあのゆう(しゃ)、ウォッホン、セカイヲホロ“ボス“が強くって~』なんて嫌味言われてさっ!」
「セカイヲホロ“ボス“って名前当てちゃったよ!?」
プンプンと勝手に怒り出し文句を言い始めるエロス。
そろそろ止めないと話が一生終わらない気がしてきた。
「結局どんなチート能力をいただけるのでしょうか?」
「そうそれよ!だから考えたのよ!ただチート能力をあげるだけじゃなくて、あなたの様な若者には無限の可能性があるわ!努力して経験を積んで勝利を掴むのよ!」
ジャ○プのキャッチコピーみたいだな。
「私の分身をお供に付けてあげるわ!魔王討伐の旅の仲間になって、もしあなたが死んでも私の分身があなたに限り無条件で生き返らせる事が出来るわ!」
ん?なんかおかしいぞ?
「この分身がいれば魔王を討伐するまで寿命で死なない限りどんだけ歳をとっても魔王討伐を目指せるの!凄くない?これ思いついた時、天才じゃん!?ってなったからね!」
こいつ何言ってんだ?寿命で死ぬまで死ねない?別世界から魔王を殺す為に派遣されたサイボーグかなんかか俺は?映画撮れちゃうぞ?大ヒットしちゃうぞ?「あ◯るびー◯っく!」って言っちゃうぞ?こいつほんと何言ってんだ?
「何よ?不服なの?」
「チート能力いただいて普通に魔王を倒した方が良いかな〜って思ったり思わなかったり」
「嫌よ、どうせまたセカイヲホロボスになるんでしょ?」
「その名前正式名称なんですか?」
つか拒否権あっても選択権は無しかよ。
「えっと、ちなみにエロス様の分身をいただいた場合のモデルケースはどうなったんでしょうか?」
「ないわよ」
「は?」
「あなたがロールモデルだもの」
つまり俺が初めてか…、だったら考えるまでもないな。
「天国行きはあちらですか?」
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