とりとめのない物語たち

あおやま えこ

隣の君

君は笑う

僕のとなりでからからと笑う

例えば僕が車道側を歩こうとしたとき

「ありがと」

そういって嬉しそうに微笑んだ

そんな笑顔が嬉しくて弛む僕の口許をみてまた笑う

「可愛い」

可愛いのは君だよ

なんて言葉は照れ臭くていえないけれど

「唇、とがってるよ」

と、僕の心を読んだようにまた笑った


君は泣く

僕のとなりでボロボロと泣く

目の前のテレビに映るのは今見た映画のエンドロール

「~~~~」

鼻にかかりすぎて何をいっているのかわからない言葉

多分主人公の名前

切ない映画だった

バッドエンドではないが

ハッピーエンドというには少しもやもやとする

涙と鼻水でぐちゃぐちゃな君にティッシュを渡したのに

君はそのティッシュを僕の顔へと押し付けた

代わりに僕も君の顔を拭いてやる


君は怒る

僕の隣でぷんすこ怒る

理由は……なんだっけ?

でも僕も怒っている

君がわからず屋だから

僕にとって一番大事なのは君なのに

あぁ、そうだ

僕が躓いた君をかばって代わりにスッ転んだからか

君が怒っているのは

格好つかない僕の擦り傷をみてぷんすこ怒る

その目に少し悲しさが見えて

少しだけ反省する

次は転ばないように気を付ける

そう言ったらまた怒られた

「次は絶対怪我しないで」

痛そうに僕の傷口をみる君に凄く反省した


君は微笑む

隣にいる僕に手を差し出して微笑む

首をかしげる僕を無視して行動に出た君は

僕の手をぎゅっと握って歩きだす

手を繋ぎたいなら言ってくれれば良かったのに

そう言ったら

「察してよ」

と怒られた


僕の隣には幸せが溢れている

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