第565話 王子か化物か

「ひ、ひぎいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃ! き、気持ちいいいいいいいイイィィ!」


 自分の指をへし折られた女性は、痛みに叫びながらも快感に酔ったかのような嬌声を上げる。



 口からだらしなく涎を垂らしながら、女性はあらぬ方向に曲がった指を見て涙を流す。


「あが……がが…………私の指が…………どうして?」

「ハハハ、どうだい? 痛みが快感に変わって面白いだろ?」


 ニヤニヤと下卑た笑みをルーファウスは、自分の指を見て愕然とする女性の足を無理矢理広げると、彼女の意思を無視していきなり自分の怒張したモノを突き入れる。


「ぴぎぃぃ!?」

「ハハッ、何だ。あっさり根本まで埋まっちゃったね。君ってば意外に男性経験豊富なんだね」


 激しく腰を動かしながら、ルーファウスは拳を振り上げていきなり女性の顔を殴る。



「あぎゃっ!」

「どうだい? 殴られながらするのは? 痛いのに気持ちいいなんて最高の悦びだろ?」


 何度も女性を殴りつけ、拳を返り血で赤く染めたルーファウスは、続いて彼女の首を絞めにかかる。


「……おっ、締まりがよくなったね。何だ、君ってばとんだ変態だな」


 嗜虐的な笑みを浮かべながら、ルーファウスはさらに強く女性の首を絞めていく。



 余りに強く首を絞め付けられているので、女性の顔色はみるみる青くなり、口から泡を吹き出す。


「クッ……いいねぇ。この締め付け……これならそう長くはもたなそうだ」


 自分の限界が近付いているのを察したルーファウスは、女性のことなどお構いなしに、激しく腰を振りながらさらに女性の首を強く締めていく。


「はぁ…………はぁ…………そ、そろそろいくよ」


 きつく目を閉じたルーファウスが、ラストスパートとばかりにさらに手に力を籠める。

 すると、


「…………あっ」


 ボキッ、という何かが壊滅的に壊れる嫌な音が響き、ルーファウスは腰を振るのを止めてバツが悪そうな顔をする。


 ルーファウスが手を離すと同時に女性の首がだらりと後ろへ倒れ、そのまま人間の可動域を超えて背中へとぶつかる。


 首の骨を折られた女性は、目を大きく見開いたまま絶命していた。



「……しまったな」


 ルーファウスは流石に殺すつもりはなかったと呟くと思われたが、


「死んだと同時に締まりが悪くなったから、果てそこなったよ」


 女性の安否より自身が満足できなかったことの不満を口にしたルーファウスは、未だに怒張したモノを引き抜くと、周囲で固まったように動かない女性たちを睥睨する。


「それじゃあ、次はどの子に相手してもらおうかな?」


 そう言ってルーファウスが一歩足を踏み出すと同時に、


「キャ、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!」

「い、いや、あんな化物の手にかかって死にたくない!」

「に、逃げるのよ! あそこ、あの人が入って来たところが開いてるわ!」


 命の危機を察した女性たちは、我先にとルーファウスが入って来た扉に殺到して逃げていく。


「おいおい、さっきまで王子様って呼んでてくれたのに、化物呼ばわりは酷くないかい?」


 蜘蛛の子を散らすように逃げていく女性たちに、ルーファウスは思わず苦笑を漏らす。



 てっきり鍛え上げられた肉体美を使って逃げる女性たちを追うものかと思われたが、彼は悠然と佇んだまま動こうとしない。


 その理由は二つあった。


「まあ、いいや。まだ残っている子もいるしね」


 一つは恐怖の余り動けなかったのか、それとも最初の女性と同じように薬によって快感の波に溺れて逃げ出せなかったのか、室内には数名の女性が残っていたこと。



 そしてもう一つは、


「あ~あ、このまま僕を満足させてくれれば、無事に家に帰れたのにね」


 女性たちが逃げた扉の先には、自分を遥かに凌ぐ最悪の出来事が待っているからだった。




 女性たちが一斉に部屋から逃げ出すのに紛れて、ソラとアイシャの二人も部屋から脱出していた。


 逃げた先は石造りのやや広い通路が続いており、数メートルおきに置かれた燭台によって、ただの人でも通路の先まで見通せるようになっていた。


「……長いわね」


 逃げていく女性たちの背中を見ながら、アイシャはソラの手を引きながら尋ねる。


「ソラ……大丈夫?」

「わ、私は何とか……」


 顔を青くさせて小さく震えるソラは、たった今出てきた背後の部屋をちらと見ながら呟く。


「そ、その……あの人たちを放っておいてよかったのでしょうか?」

「それは……」


 その質問に、アイシャは思わず解答に詰まる。


 志は違えど、ついさっきまで同じ店で働いてきた仲間たちである。

 その仲間たちのピンチを見て、何も思うことはないと言えば嘘になる。


 しかし、だからといって自分に何かができるわけでもない。

 もしかしたら、あの場にいる全員でルーファウスに向かって襲いかかれば、怪我人は出てあの男を組み伏せることはできたかもしれない。


 それが叶わなくなった今、アイシャにできるのは当初の目的を完遂すること、ソラを何が何でも守り抜くということだった。



 アイシャは「ふぅ」と大きく息を吐くと、ソラの目を見てハッキリと告げる。


「ソラ……辛いけど今は、自分のことだけ考えましょ」

「アイシャさん……」

「一刻も早く助けを……コーイチ君に助けを求められれば、もしかしたらあの子たちも救えるかもしれないでしょ?」

「それは……そうですね」


 もしかしたら浩一なら何とかしてくれるかもしれない。そう判断したソラは、アイシャに向かって力強く頷く。


「わかりました。一刻も早くここを抜け出しましょう」

「ええ、皆のためにも……ね」


 二人は互いの存在を確かめ合うように手を取り合うと、前を行く女性たちを追いかけるように石の通路を駆け出した。

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