第437話 見せたい身体
納屋の修理を終え、ついでに他にも壊れている個所が無いかを確認した俺たちは、ますます強くなる雨から逃れるように、駆け足で母屋の中へと飛び込んだ。
申し訳ないと思いつつも、勢いよく扉を全開にした俺は、後から来る二人を手招きする。
「さあ、二人とも早く!」
「おう!」
「は、はい!」
俺の言葉に応えるように、シドたちが雨に打たれる面積を狭めようと、前傾姿勢になって走る。
両手で頭を抱えるようにして二人が室内に入ったのを確認して、俺は急いで扉を閉める。
「すみませんお三方、助かりました」
俺が扉を閉めると同時に、タオルを持ったリックさんが現れて俺たちに手渡してくれる。
「色々と手助けしていただけると仰っていただきましたが、まさかこんなにも早々にお力を借りることになるとは思いませんでした」
「大丈夫ですよ。俺たち、こう見えてもこういう状況に慣れていますから」
髪を拭きながら言う俺の言葉に、同じように髪を拭いていたシドたちも続いて頷く。
「……というわけです。特に俺とシドは荒事が専門ですし、いざという時に身を守る術もそれなりに学んでいますから、気になさらないで下さい」
「そうは言われましても、私たちが返せるものなんて……」
「いえいえ、こうして雨を凌げる場所を提供していただけただけで十分です。もし、あそこでニーナちゃんに出会えなかったら、俺たちは今頃、雨の中で途方に暮れていたでしょう」
「コーイチさん……」
「ですからこれ以上、何かを望むなんて欲張り過ぎです。むしろ俺たちの方が、まだまだ返し足りないので、これからもビシバシ使って下さい」
「本当に……本当にありがとうございますううぅぅ……」
俺の言葉を聞いたリックさんは感極まったのか、いきなり顔を覆って泣き出してしまう。
「ちょっ!? リ、リックさん?」
まさか大の大人がいきなり泣くとは思わず、俺はどうしたものかとあたふたしながら周りを見渡す。
だが、シドたちもおいおい泣いているリックさんをどうしたらいいのかわからないのか、俺の視線から逃れるように壁の方を向いて髪を拭いている。
……こ、この、薄情者!
俺は手助けしてくれる気のない姉妹たちに協力を仰ぐのを諦めると、リックさんの妻であるマーガレットさんに助けを求めることにする。
そう思って一先ず居間の方へ向かおうとすると、
「おにーちゃん!」
奥の部屋へと続く扉が開き、天使が現れる。
何か嬉しいことでもあったのか、尻尾をブンブンと激しく振っているミーファは、俺の手を取ると、いきなりとんでもないことを言い出す。
「ねえ、おにーちゃん。ぬいで!」
「……えっ?」
「いますぐおふくをぬいで! はやく! はやく~!」
ミーファはそう言いながら、俺の服を無理矢理引っ張って脱がそうとする。
「ええっ、ちょ、ちょっと待って、あだだ……わかった。わかったから」
小さな体に似合わず思ったより強い力で引っ張られ、これ以上は服の方が持たないと判断した俺は、ミーファに無理矢理剥かれるよりはマシだと観念していそいそと服を脱ぐ。
……一応、この世界に来た当初よりかなり体を鍛えてきたので、今ではこの肉体美を誰かに見せたいという欲求がないといえば、そうでもなかったりする。
ただ、それだとただの変態と間違えられそうなので、建前上は恥ずかしい素振りをみせながら、俺は上着を脱いで上半身裸になる。
しっかりと腹に力を籠め、腹の筋を浮かび上がらせながら、俺は興奮冷めやらぬ様子のミーファに話しかける。
「ほら、これでいいのか?」
「むぅ……こっちは?」
そう言ってミーファは俺のズボンをぐいぐい引っ張るので、俺は苦笑しながらかぶりを振る。
「いやいや、こっちは流石に勘弁してくれ」
「むうぅ……じゃあいい、それじゃあ、つぎはおねーちゃんたちもぬいで!」
「「えっ!?」」
ミーファの一言に、姉二人は揃って顔を赤くさせながら、思わず自分たちの体を抱く。
「ミーファ……」
ここにいるのが俺と三姉妹だけならともかく、リックさんもいるので流石にここで彼女たちの裸体を晒させるわけにはいかない。
一体ミーファが何をしたいのかわからないが、ここは俺一人だけが犠牲になればいいだろう。
そう考えた俺は、今にも姉たちの服を脱がすために飛びかかろうとしているミーファの肩を掴むと、先を促すことにする。
「それより何をするのか教えてくれ。お兄ちゃん、このままじゃ風邪ひいちゃうから」
「あっ、そっか」
その一言で少しは落ち着いたのか、顔をこっちに向けたミーファは「こっちきて」と言って俺の手を取って引っ張る。
一体、この先に行けば何が待っているのかわからないが、ミーファの様子を見る限り、決して悪いものではないだろう。
ただ、今はミーファに何をされるのだろうという思いよりも、気になることがあった。
それは、
「…………コーイチさん」
裸になった俺を、さっきからソラがちらちらと見て来ることだ。
ソラは裸の異性が近くにいることに、恥ずかしそうに顔を手で覆ってはいるが、その指は隙間が開いており、しっかりとこちらを見ているのがありありとわかった。
一方、シドはグランドの街の地下で
…………こうなったら、ソラにサービスするかな。
唯一、俺の成長した体に興味を持ってくれたソラにもっと見てもらおうと、俺は歩く足を止めることなく彼女に向かって上腕二頭筋を見せつけるようにポーズを取ってニヤリ、と笑ってみせる。
「…………はぅ」
それを見たソラは、まるで沸騰したかのように顔を赤面させると、蕩けたような表情でへなへなとその場に座り込んでしまう。
あっ、ヤバイ。やり過ぎたか。
別にそこまで大したことをしたつもりはないが、ソラぐらいの年頃の乙女……というより、こういったことに免疫のない彼女にはいささか刺激が強過ぎたようだ。
ここは一旦、ミーファに断りを入れてソラの方へ向かうべきだろうか、と考えていると、
「お、おいソラ、どうした。大丈夫か?」
ソラの異変に気付いたシドが、彼女に駆け寄って抱き起しているのが見えた。
「どうした? 雨に打たれて具合でも悪くしたのか?」
「えっ? い、いえ、大丈夫ですから」
これまでの前例もあるので、切羽詰まった表情でソラの様子を確かめようとするシドに、ソラは慌てた様子で健在ぶりをアピールしていた。
……うん、あの様子なら大丈夫だろう。
俺は心の中で、ソラに「ごめんね」と謝ると、ウキウキと鼻歌を歌っているミーファの後についていった。
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