第398話 五番目のスキル
「ハッ、面白い!」
泰三からのチート宣言を受けて、ジェイドは犬歯を剥き出しにして獰猛に笑う。
「それじゃあ、見せてもらおうじゃないか。そのちいととやらの力を!」
再び大剣を肩に担いだジェイドは、地響きを上げながら駆けると、
「この攻撃、身切れるか!」
弓を引き絞るように大剣を引いたかと思うと、高速で連続突きを繰り出す。
「チッ……」
一刺し一刺し、その全てが即死するほどの威力を秘めた突き攻撃を前に、泰三は舌打ちしながら大きく後ろに跳んで距離を取る。
いきなり後退する泰三を見て、ジェイドは突きを繰り出しながら口角を上げる。
「ハッ! 威勢よく実力を見せると言い切った割には、随分と憶病じゃないか!」
「ええ、憶病なのが僕の取り得ですから」
ジェイドの挑発に乗ることなく、距離を取った泰三はゆっくりを槍を引き絞るように構える。
「ならばこちらも、連続突き攻撃で対応しますよ」
そう言いながら目を凝らし、ジェイドによる攻撃を見極めた泰三は、一歩大きく踏み出すと、
「ショットランス!」
ランサーの第三スキル、高速で三段突きを繰り出す「ショットランス」を繰り出す。
三段突きといってもそのタイムラグはないに等しく、殆ど三回同時に繰り出される攻撃は、
そうして繰り出されたショットランスは、ジェイドの大剣と正面からぶつかり、三つの火花を散らす。
だが、ショットランスが三段突きなのは、グラディエーター・レジェンズ内での話だった。
「はああああああぁぁぁ……」
体を鍛え、技を研鑽し続けた泰三のショットランスは、三段だけではとどまらず、四段、五段、六段……とさらに連続で突きを繰り出していく。
その度にジェイドの大剣とぶつかって火花を散らすが、泰三の突きの方が明らかに早く、徐々に力の差が出始める。
そして次の瞬間、一際大きな金属音を響かせてジェイドの体が大きくのけ反る。
「う、うおおおおおおおおおおおぉぉ……」
「また、僕の勝ちです」
弾かれて驚愕の表情を浮かべるジェイドに、泰三が一気呵成に前へと出る。
「クッ……」
攻守が逆転したことを察したジェイドは、迫る泰三の攻撃を迎え撃つために大剣を構える。
「無駄ですよ」
防御姿勢を取るジェイドに、泰三は余裕の笑み浮かべると、
「ショットランス!」
再び、ランサーの第三スキルを繰り出す。
次の瞬間、ジェイドが構えた大剣と槍がぶつかる金属音が響いたかと思うと、
「うぐっ!」
防御姿勢を取るジェイドの両太ももから、血が吹き出す。
「な、何だ。何をした?」
どうして自分が攻撃を受けたのかわからず、ジェイドの顔に困惑の色が浮かぶ。
「……まだまだいきますよ!」
混乱するジェイドに、泰三は再度ショットランスを繰り出していく。
その度に金属同士がぶつかる音が響き、同時にジェイドの体の二か所に穴が開いて血が吹き出す。
「うぐぅ……な、何だそれ。そんなことがあってたまるか」
「ええ、だから言ったでしょう。不公平だって」
愕然とするジェイドに、泰三は呆れたように苦笑しながら、尚もショットランスで攻撃を仕掛けていく。
そうして幾度となくショットランスによる防御不可の攻撃を仕掛け、ジェイドの手足に複数の穴を開けた泰三は、
「そろそろ終わりにしましょう……」
ここが勝負どころと見たのか、一旦距離を置いて槍をこれまでより大きく引き絞る。
それは技後の隙が大きいため、絶対必中の状況になるまで温存しておいた泰三、必殺の構えだ。
「いきます。ディメンションスラスト!」
無数の攻撃を受けても、致命傷を避けるためにひたすら大剣で防御姿勢を取る、ジェイドの大剣ごと撃ち貫く必殺の突きを繰り出す。
「――っ!?」
既にユウキから泰三の技の情報を聞いていたのか、ジェイドは大剣の向こうで大きく目を見開いて表情を硬くして迫りくる槍を見る。
自分の喉元を狙った絶対防御不可の攻撃を前にジェイドは、
「……ここだ!」
大剣を投げ捨て、敢えて背後に倒れるようにして突き出された槍を回避する。
「おらっ!」
さらに倒れる最中に足を振り上げ、自分のいた場所を通過した槍を蹴り飛ばしてみせる。
「んがっ!」
ジェイドはそのまま背中から倒れるが、代わりに泰三の槍を高々と蹴り飛ばすことに成功する
「なっ!?」
ジェイドのまさかの攻撃に、泰三は反射的に吹き飛ばされた槍を目で追うが、それはこの状況では悪手だった。
「おいおい、よそ見なんかしている場合か!?」
傷口から血が吹き出すのも構わず、素早く態勢を立て直したジェイドは、取り落とした大剣を拾うと、槍を目で追っている泰三へと薙ぎ払うように横に振り抜く。
「クッ……」
この攻撃に、泰三は繰り出された大剣を踏み、大きく跳ぶことでどうにか回避する。
「よく回避した。だが、それで終わりだな!」
身動きの取れない空中へと吹き飛ばされた泰三を見て、ジェイドが勝利を確信した笑みを浮かべながら大剣を構える。
「ハハッ、そのまま落ちて来たところを、狩り取ってやるよ」
ジェイドの攻撃で宙へと飛ばされた泰三だったが、それは狙ってのことだった。
空中で身動きを取れるような能力は持っていないが、直前まで飛ばされた槍を目で追っていたので、泰三は槍を素早くキャッチすると振り返ってジェイドを見やる。
「あれで止めを刺せなかったのは驚きですが、まだ終わりではないですよ」
泰三は地上にいるジェイドを見据えながら、槍を大きく振りかぶる。
「これが僕のとっておきです! ディメンションスロー!!」
技名を叫びながら、泰三が手にした槍を放る。
「何だと!?」
まさかの空中からの攻撃に、ジェイドは驚愕の表情を浮かべるが、
「……だが、それがどうした」
冷静に状況を見極めて、横に大きく跳んで槍の射線上から逃れる。
「ハハッ、頼みの奥の手も空振りだったようだな……」
投擲を回避したジェイドは、再び泰三を迎え討つために大剣を構えようとする。
だが、次の瞬間、ジェイドの胸から槍が飛び出し、そのまま突き抜ける。
「なっ……がはっ!?」
何が起きたのか理解が追いつかないのか、ジェイドは口から血を吐きながら着地した泰三を驚愕の表情で見つめる。
「い、一体…………何が?」
「わかりませんよね。これは僕が使える第五のスキル「ディメンションスロー」です。これは投げた槍が物理法則を無視して、相手の背後から防御不可の攻撃を仕掛ける技なんです」
「な、何だそれ……不公平…………過ぎるだろ」
泰三の説明を聞いたジェイドは、恨み言を吐きながらがっくりと倒れる。
「ええ、僕もチート過ぎると思いますよ」
槍についた血糊を拭き取りながら、泰三は肩を竦めて苦笑した。
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