第335話 あの子を救う方法

「それは……本当なのか?」


 俺から話を聞いたシドは、俺の腕を取って必死の形相で詰め寄ってくる。


「ソラが母様の力を受け継いでいて、その所為で苦しんでいるっていうのか?」

「……うん、その可能性はかなり高いと思う」

「そ、そんな……」

「わわっ、落ち着いて!」


 俺は倒れそうになったシドを両手で支えながら、俺は気になっていたことを話す。


「シドは、ソラが不思議な夢を見ることを知っているかい?」

「えっ? あ、ああ……生憎とあたしは見たことないんだけど、ミーファは何度か見たことがあると言っていたな」

「うん、その夢こそが、ソラがレド様の力を引き継いだとわかる最大の理由なんだ」

「どういうことだ?」

「実は、俺も不思議な夢を見たことがあるんだ」

「コーイチも?」


 驚くシドに、俺は小さく頷く。


「ああ、といっても、俺は二人が見た予知夢とは少し違うんだけどね」


 どうしてそれを思い出せたのか、詳しいタイミングは覚えていないが、きっかけがあったとすれば初めてソラを見た時だったと思う。


 ソラの顔を見た時、ずっとある種の既視感を覚えていたのだが、オヴェルク将軍からレド様について話しを聞いて以来、ハッキリと思い出せるようになった。

 そして、今までずっと確認しようとしていたが、すっかり後回しになっていた疑問を今、ここで口にする。



「実は俺、レド様に会ったことがあるんだ」



「…………………………………………………………えっ?」


 俺の話を聞いたシドは、たっぷり五秒は目をまん丸に見開いた後、


「はぁ? な、何言ってんだよ。そ、そんな訳ないだろう」


 俺の言葉を真っ向から否定する。


「だって、コーイチがこの世界に来たのは、つい半年前のことだろう。母様が亡くなって、どれだけの年月が経っていると思うんだ。それに、何処で会ったっていうんだ?」

「場所は……わからない。なんだか一面真っ白な世界だったと思う」

「何だそれ……そんな場所、この街にあったか?」

「ないよ。だってこれは、俺の夢の話だからさ」

「おいおい、夢って……何を言い出すんだ」


 夢と聞いて呆れたように肩を竦めるシドだったが、俺は何処までも本気だった。


 俺がレド様らしき人物と出会ったのは全部で二回、一度は日本の俺の部屋からこの世界へとやって来る時、そして二度目は、初めてミーファと会って、彼女と一緒に昼寝してしまった時だ。

 当時は何だか不思議な夢を見たな、ぐらいの気持ちだったが、ハッキリと思い出した今では、あの少女こそがレド様なのではないかと思う。


 気になる点があるとすれば、シドと比べてかなり幼い容姿をしていたことだが、それについては確認してみればいい。


「ちなみにだけど、レド様は三姉妹の中では、ソラに一番似ているんじゃない?」

「……そうだけど、それくらい、誰かに話を聞けばわかることだろう」

「そうだね。じゃあ、こういうのはどうかな? レド様って、年齢の割にかなり若い……というより幼い見た目をしていたんじゃないかな? 具体的には、今のソラより少し若いぐらいの見た目だった」

「――っ!?」


 その言葉に、シドが目をまん丸に見開いて息を飲む。

 どうやら間違いないようだ。


「で、でも……どうしてコーイチと母様が?」

「これは推測なんだけど……」


 そう前置きして、俺はとある可能性について話す。


 召喚術とは、異世界との見えないみちを繋げる力だ。


「だけど、繋がるのは本当に路だけだろうか?」

「どういうことだ?」

「いやね、俺がこの世界に来た時、路を歩いてきたというより、眠っている間に連れて来られたって感じだったんだ」

「眠って……」

「うん、そこでレド様と会ったんだ」

「か、母様は何か仰っておられたか?」

「いや、残念ながら、お互いの声は届かなかったんだ。だからレド様が何て言ったのかはわからないんだ」

「そうか……」


 俺がかぶりを振ると、シドは明らかに落胆したように肩を落とす。

 期待させてしまったシドには申し訳ないと思うが、今はソラの能力の話だ。


 少し脱線してしまった話を戻すため、俺はソラの力について話す。


「それで、ソラが見る夢だけど……」

「未来を見るという夢だよな?」

「うん、だけど俺は、あれは未来を見ているわけじゃないと思っているんだ」

「じゃあ、何を見ているんだ?」


 眉をひそめるシドに、俺は考察の末に導き出した答えを話す。


「それはね、俺たちがいる世界とは違う路を進んだ異世界だよ」

「…………どういうことだ?」

「つまり、別の可能性の世界、並列世界、もしくはパラレルワールドってやつだな」

「……………………んん?」


 俺の結論に、シドはわからないと小首を傾げる。

 それはシドだけじゃなく、オヴェルク将軍やマーシェン先生も同じようで、揃って俺の言うことを理解しようと首を捻っていた。


「あれ? 俺の言いたいこと、わからない?」

「悪いがさっぱりだ。何だその並列世界……パラ何とかというのは」

「あっ、えっと……」


 そう言われると、何て説明したものだろうか。

 並列世界と聞くとSFが一番しっくりくるような印象があるが、最近ではラノベやゲーム、漫画やアニメが好きな人にも割と馴染みのある言葉だと思う……が、考えてみればこの世界にはそんな娯楽がないのだから、シドたちが知っているはずがない。


「並列世界っていうのは……そうだな、この前のソラの夢で説明しようか」

「この前というと、コーイチがリザードマンジェネラルを倒した時か?」

「ああ、あの時は俺が死ぬかもしれないって、ソラがある忠告をしてくれたんだ」


 ソラがくれた忠告とは、夢の中で俺が武装していなかったので、ナイフを持ってほしいというものだ。


「そこで俺がソラの見た夢と違う行動を取ったことで、起きるはずの未来が変わったんだ。つまり、そこで俺がナイフを持たずに死ぬ世界と、ナイフを持ったことで死ななかった世界の二つに分岐した」

「……要するに、その違う未来が、ソラが見ている見えない路ってことだな」

「そういうこと、そういう意味ではソラの能力は使いこなせればかなり便利だけど、とても危うくあるんだ」

「危うい?」

「だってそうだろう? 夢でしか見れないってことは、制御できていないんだ」

「あ……」

「そう……だからさ。ここでさっきマーシェン先生が言っていたソラを救う方法に、第三の選択肢が出てくる」


 俺はニヤリと笑いながら、得意気に次の対策を告げる。


「ソラに、自分の能力を制御できるようになってもらうんだ」

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