第303話 王の実力
一先ず俺たちは、ベアさんの指示に従ってキングリザードマンを後回しにして、取り巻きのリザードマンジェネラルを排除するために動く。
詳しい打ち合わせなどは一切していないようだったが、どうやらキングリザードマンをジェイドさん率いる冒険者たちが、二匹のリザードマンジェネラルを、ベアさんたち獣人が対応するようだった。
「オラオラ、こっちに来いよ!」
のっそりと動くキングリザードマンに対し、ジェイドさんは手持ちの大剣で地面を激しく打ち鳴らしながら挑発をする。
「どうした。ビビッてんのか?」
言葉など通じるはずもないだろうが、その様子から挑発されていることは理解したのか、
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!」
玄室全体が震えるほどの大音量で叫ぶと、猛然とジェイドさんへ向けてと駆け出す。
…………サイクロプスより、怖いんですけど。
ジェイドさんが引きつけてくれているので、直接プレッシャーに晒されているわけではないが、この場にいるだけで背筋が凍り付きそうになる。
これは、なるべく早くリザードマンジェネラルを倒す必要があるかもしれない。
ジェイドさんたちの実力を信じていないわけではないが、キングリザードマンが持つ、あの凶悪な刃での一撃を受けたら、例えジェイドさんでも無事で済む保証はない。
ここは少しでも標的を散らすために、俺たちは一刻も早くジェイドさんたちの加勢に向かうべきだ。
俺はキングリザードマンを避けるように駆けながら、ベアさんたちに捕まっている二匹のリザードマンジェネラルを見やる。
「コーイチ、いつもので行くぞ」
すると、すっかりいつもの調子を取り戻したシドが、ベアさんたちとは接敵していない方のリザードマンジェネラルを指差しながら話す。
「あいつの動きを止めてみせるから、その隙にコーイチは奴の背後を突け」
「わかった。任せる」
特に具体的な説明はないが、これまでの経験からシドがどう動くか何となくわかるので、俺は彼女をフォローするために移動を開始する。
手始めに先程目くらましに使った空の小瓶を取り出した俺は、シドが狙うと言ったリザードマンジェネラル目掛けて投げる。
手首のスナップを利かせて投げた小瓶は、結構な速度でリザードマンジェネラルへと向かうが、直撃はせずに奴の体を通り越して後方へと飛び、地面に激突して割れる。
だが、それこそが俺の狙いであった。
突如として響いた破砕音に、リザードマンジェネラルの注意が一瞬だけ小瓶が割れた方へと向く。
その隙に、
「はあああぁぁ!」
リザードマンジェネラルへと一気に距離を詰めたシドが、倒したリザードマンジェネラルが持っていた棍棒で殴りかかる。
隙を突いての大上段から殴りかかるシドの攻撃に、リザードマンジェネラルは面食らったように僅かに硬直するが、流石の反応速度を見せて、両腕を眼前でクロスさせて防御姿勢を取る。
次の瞬間、シドが振り下ろした棍棒と、リザードマンジェネラルの自慢の黒い鱗が激突し、交通事故でも起きたような轟音が響き渡る。
だが、それほどの攻撃をもってしてもリザードマンジェネラルの黒い鱗を貫けないどころか、
「キシャアアアアアアアアアアアアァァ!!」
気合の雄叫びを上げて両腕を振り上げ、攻撃を仕掛けてきたシドの体ごと棍棒を弾き飛ばす。
シドの体ごと吹き飛ばす膂力は凄まじいと思うが、そこで全力を出し尽したのか、リザードマンジェネラルは両腕を広げた姿勢で固まる。
その隙に背後に回っていた俺から見れば、それは格好の的であった。
リザードマンジェネラルが態勢を整える前に距離を詰めた俺は、奴の背中に浮かび上がっている黒いシミに向かって、ナイフを突き立てる。
ぞぶり、と一気に根元までナイフを埋めた俺は、シミから伸びる線に沿ってナイフを走らせ、最初にリザードマンジェネラルを倒した時と同じように、奴の上半身を二枚におろす。
断末魔の叫び声を上げる間もなく死んだリザードマンジェネラルを見て、シドは「ヒュゥ」と口笛を吹きながらニヤリと笑う。
「相変わらず、恐ろしい力だな」
「茶化すのは後、次に行くぞ」
「はいはい……」
残る一匹のリザードマンジェネラルを倒すべく、俺たちはベアさんたちの方へと視線を向ける。
その瞬間、突風が吹き、俺とシドの間を何かがすごい勢いで通り過ぎる。
「………………えっ?」
「な、何だ?」
前髪が乱れて目に入ったのをどかしながら、何が起きたかを確認すべく、俺たちは何かが飛んでいった方へとカンテラを向ける。
「「――っ!?」」
それを見た俺とシドは、揃って息を飲む。
視線の先には、全身がグチャグチャに潰れ、物言わぬ肉塊へと変わり果てた冒険者だった死体があった。
さらに、
「あぎゃあああああああああああああああああぁぁ!」
「ヒッ!? ぎゃあああぁっ!?」
冒険者と思しき悲鳴が立て続けに起こり、ドサドサと何かが上空から落下してくる。
それは人間の手だったり、足だったり、はたまた内臓がだらりと垂れ下がった上半身だったりと、血の雨と共に人間だったモノが次々と降ってくる。
「な、何が……」
これまでの優位な状況が一変するような異変に、俺は再び恐怖で体が震え出すのを自覚しながら、キングリザードマンの方を見やる。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオォォ!」
そこには、経験豊かな冒険者たちを弄ぶように虐殺する王の姿があった。
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