第254話 迫りくる脅威
ベアさんの問いかけに、俺は若干の不安を覚えながら確認をする。
「リザードマンについて……ですか?」
「そう、実は由々しき事態になっていてね」
そう言ってベアさんは、真っ二つに割れた鉄の胸当てを取り出す。
「それは……」
「これは、集落に侵入してコーイチ君に倒されたリザードマンジェネラルが着ていた鎧だよ」
「リ、リザートマンジェネラルだって!?」
ベアさんはの言葉に、シドが目を見開きながら俺を見る。
「お、おい、コーイチ。お前、リザードマンジェネラルを倒したのか?」
「えっ? い、いや、よくわかんないけど……何だかシドが倒した奴よりデカいなぁ……ぐらいの感想だったんだけど……」
「マジかよ……それで、どうやって倒したんだ」
「まあ、普通に後ろからナイフで襲いかかってこう……ぶわぁっ、とかな?」
俺は身振り手振りを交えながら、リザードマンを倒した方法をシドに伝える。
だが、シドは全く理解できなかったようで、呆れたように三白眼で睨んでくる。
「何だそのぶわぁっ、とっていうのは……全然わからん」
「聞いた話だと、背中を一突きした後、一気に頭の先まで切り裂いたらしい」
俺の拙い説明を、ベアさんが補足してくれる。
「それもただ切り裂いただけじゃない。奴が装備していた鎧から骨まで全部、たったの一太刀で両断したらしいぞ」
「な、何だ。その無茶苦茶な攻撃は……本当に起きたことなのか?」
「ああ、その証拠がこの鎧というわけだ」
「これか……」
シドはベアさんから鎧を受け取りながら、俺が切り裂いた傷口を指でなぞる。
「恐ろしく滑らかな切り口だな。まるで引っかかった痕がない……これを本当にコーイチが?」
「まあ……一応」
「斬鉄ができるなんて凄いなお前……本当に自由騎士だったんだな」
「ハハッ、相変わらず自覚はないけどね」
シドに尊敬の眼差しで見つめられ、俺は気恥ずかしさから視線を逸らす。
だが、問題は俺が自由騎士としての力を取り戻せたことではない。
俺はベアさんに向き直ると、話を本題に戻すように質問する。
「それでベアさん、リザードマンジェネラルが出たことがそんなに問題なんですか?」
「あ、ああ、そうだったね。そうそう、実はね……」
そう言ってベアさんは、俺に由々しき事態について説明してくれる。
リザードマンは集落を形成し、規模が大きくなって集落が手狭になると、自分たちの領土を広げるために侵略行為に出るというのは前に聞いた話だが、集落が大きくなると、もう一つ問題が起きるのだという。
「それがリザードマンの変体だよ」
「変体……ですか?」
話の流れ的に変態ではないだろうと思いながらも、茶化すようなことはしない。
ベアさんはそんな俺の心情に気付いた様子もなく、大きく頷いて話を続ける。
「そうだ。リザードマンはより効率的に侵略を行えるように、共食いをして強い個体を生み出すんだ」
「と、共食い……」
思ったよりグロい方法で強いリザードマンが生まれると知り、俺は顔を青くさせる。
ちなみに、リザードマンジェネラルは、将軍という名前が冠している通り、何匹ものリザードマンを共食いする必要があるそうで、強さは通常のリザードマンの三倍以上だという。
「そんなリザードマンジェネラルを不意を突いたとはいえ、一人で倒すなんて凄いことなんだ」
「い、いえ、あれはたまたまたですから」
「いやいや、そんな謙遜することないよ。コーイチ君の力、これからもシドを……ひいてはこの集落を守るために存分に振るってくれよ」
「はぁ……」
俺は気のない返事をしながら、ああ……この展開はマズイと思っていた。
ベアさんによると、リザードマンジェネラルが現れるのは、リザードマンの集落の規模が想定よりかなり大きくなっているという。
このまま何も手を打たずにいたら、半年も経たないうちに下水道内はリザードマンに完全に占拠され、この集落も存続の危機に立つということだ。
「だから我々としては、これ以上被害が広がる前に対策を打とうと思ってるんだ」
「……つまり、こちらから先手を打つということですか?」
「そういうことだ。といっても、奴等の巣を見つけていないからこれから探すんだけどね」
ということは、リザードマンの巣を見つけたらすぐにでも行動に移すということは、既に確定しているようだ。
俺の知らないところで今後の方針が既に固まっていたことは何とも思わないが、その責任者の一角であるベアさんが、わざわざ俺たちにその話を振ってきた理由を考えると、正直胃が痛くなってくる。
「……まあ、君たちのこれまでの方針を考えると、こんなことを言うのは心苦しいんだけどね?」
嫌です。
反射的にそう言いたかったが、ベアさんは左右に座る俺たちの肩を叩くと、白い歯を見せて豪快に笑いながらその一言を告げる。
「リザードマンの巣に攻め入る時は、コーイチ君の力を頼りにさせてもらうから、そのつもりでいてくれよな」
それは、新たな戦いへの誘いだった。
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