第185話 小悪魔的妹’s
「もう、コーイチさんったら、いきなり過ぎます」
ソラは赤く火照った顔を冷ますように両手で包み込むと、恥ずかしそうに俺から顔を背ける。
「でも、コーイチさんから求められた以上、私が正妻ということでいいのでしょうか?」
だが、お尻を向けたことで見えるようになった尻尾はわさわさと激しく左右に揺れており、ソラが喜んでいることは明らかだった。
「あの……ソラさん?」
「でもでも、それだと姉さんが……」
「聞いちゃいない……」
何故だか知らないが、ソラは完全に自分の世界に入ってしまっているようだった。
う~ん、この反応……どうやら気が付かない内に何かをやらかしたようだ。
今一度、自分が言ったことを思い返してみようと思うと、
「おい、会っていきなり人の妹を口説くとはいい度胸だな」
足元の方から、底冷えするような低い声が聞こえてきた。
「コーイチ、お前がそんな軟派な奴だとは思わなかったぞ」
「シド!?」
顔を向けると、呆れたような三白眼で俺を見つめているシドがいた。
ジト目のシドに、俺は慌てて先程の言葉について反論する。
「いやいや、俺、別にソラを口説こうなんて思ってないよ」
「ええっ!? 違うのですか?」
俺の言葉に、ソラがこの世の終わりのような目で俺を見てくる。
その迫力に気圧されながらも、俺はソラに正直に自分の気持ちを伝える。
「ち、違うけど……」
「そ、そんな……」
そんな潤んだ瞳で見られると、何だかとても悪いことをしているみたいに思えてくる。
だが、
「ざ~んねん。いくらなんでもそんなはずないですよね」
ソラは表情を一転させると、可愛らしくペロリと舌を出す。
「あっ、でも、私はコーイチさんならいつでもオッケーですから、気が向いたらいつでも口説いて下さいね」
「おい、ソラ!?」
シドの咎めるような声にソラは「キャー」と可愛らしい悲鳴を上げて、何処かへと消えていく。
「ったく……」
シドは大きく嘆息すると、ガシガシと頭を掻きながら俺に咎めるような視線を向ける。
「これも全て、コーイチがソラに余計なことを言うからいけないんだぞ」
「はぁ……」
そう言われても、俺には一体何のことだがとんとわからない。
これ以上考えても埒が明かないので、シドに聞いてみることにする。
「ごめん、シド。どうして俺がソラを口説いたって流れになってんだ?」
「何言ってんだ。さっきの自分の言葉を思い返してみろ」
「自分の……言葉?」
「何処かで会ったことがあるとか、見ていると胸が苦しくなるなんて……お、おお、女を口説く時の常套句じゃないか!」
「…………ああっ!?」
そこまで言われて、俺はようやく自分の言葉の意味を理解する。
見ず知らずの女の子に話しかける時に、少しでも警戒心を解こうと知り合いを装ったり、相手を好きになったことをアピールするために、胸が苦しくなったという言葉を言ったりすることはあるのは知っている。
「シドの言いたいことはわかるけど、これはそういう意味で言ったんじゃないよ」
「じゃあ、どういう意味だよ」
「それは……」
俺が言葉の真意をシドに説明しようとすると、
「ああっ!?」
暗闇を引き裂く底抜けに明るい声が聞こえ、
「ど~ん!」
「ぐへっ!?」
暗闇から飛び出してきた影が腹の上に勢いよく落ちて来て、俺は苦悶の表情を浮かべる。
一体何が? と思う前に、影が俺の首に無遠慮に抱きついてくる。
「おにーちゃんおにーちゃんおにーちゃん……」
俺のことをおにーちゃんと呼ぶその声の主は……、
「ミ、ミーファ!?」
驚く俺に、顔を上げたミーファは向日葵のような満面の笑みを咲かせる。
「うん、ミーファだよ。おにーちゃんはどうしてミーファのおうちにいるの?」
「どうしてって……えっ、ってことはミーファのお姉さんって……シドなの?」
「うん、そーだよ。シドおねーちゃんは、おこるととってもこわいの」
そんな俺の疑問に応えてくれたのは、腹の上の無邪気な小悪魔だった。
「今日もおにーちゃんに会うためにおでかけしようとしたら、ミーファのことおこるんだよ」
「そ、そうなんだ」
そう言いながら俺はそっとシドの方を見やる。
「コーイチ、お前……」
「……ヒッ!?」
すると、額に青筋を浮かべて怒り心頭といった様子のシドと目が合い、俺は思わず息を飲む。
シドに妹がいることも、ミーファに姉がいることも知ってはいたが、二人が全く違うタイプの性格をしているので、二人の点が線で繋がることはなかった。
しかも二人の間には、ソラというもう一人の姉妹がいたわけで……それぞれが存在を隠して家族の話をするものだから、上手く整合性が取れなかったというのもある。
とにかく、シドを落ち着かせるためにも、俺とミーファの関係について説明する必要があるだろう。
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