第150話 異種族女の子たちの評価

 俺の方をじっと見ていたのは、栗色の長い髪を後頭部で一つにまとめた犬のようなピンと立った耳を持つ獣人の女の子だった。


 店の人が用意したのか、豊かな胸を強調するようなが豪奢な赤のイブニングドレスに身を包んでいるのだが、まるで男のように足をガバッ、と開いているので、今にもパンツが見えそうになっているのが非常に目のやり場に困る。

 ただ、そんな魅力的な肢体とは対照的に、切れ味抜群といった鋭い眼光でこちら側を睨み、口元は笑顔でなく明らかに不機嫌といった様子で『へ』の字にしているのは、とてもじゃないが風俗嬢としては如何なものかと思った。


 どうしてあの子がこっちを殺しそうな勢いで睨んでいるのかはわからないが、彼女を選ぶのは余程の変わり者に思えた。


 いや、それを言うならあの縦にも横にもビッグな牛の角が生えている子も相当か。

 別に人の趣味にどうこう言うつもりはないが、あそこまで太った子はちょっと……と思う。


「何だお前、キャシーちゃんが気になってしょうがないのか?」


 ふくよかな牛の子に注目していると、雄二が耳元で彼女について教えてくれる。


「あの子は、この店で人気ナンバーツーの牛人族のキャシーちゃんだ」

「えっ、あの子が人気ナンバーツーなのか!?」


 あんなデ……じゃなくて、ふくよかな女性が全体で二番目に人気だなんて……ここの奴等は全員デ…………そっちの趣味なのだろうか?


「あっ、お前……さてはキャシーちゃんを好きな奴はデブ専とか思っていないだろうな?」

「い、いや……」


 お前、俺がわざわざ言葉を濁していたのに、ドストレートにハッキリ言うな。


「まあ、わかるぞ。お前、面食いだもんな……」


 しかも、人を勝手に面食いと決めつけて話を進めようというのが、いかにも雄二らしい。まあ、否定はしないけどさ。


「それでな。あのキャシーちゃんの魅力は、顔じゃなくて体なんだよ」

「……まあ、だろうな」


 むしろ、溢れる母性とか言われても、風俗嬢にそれを求める人っているのだろうか? と思ってしまう。

 そんな俺の適当な評価を他所に、雄二はキャシーちゃんの魅力を語る。


「俺も一回、彼女にお世話になったことがあるんだが、彼女に抱き締められるだけで、それはそれは夢心地なんだよ……何て言うの、母親の子宮の中にいるみたい的な?」

「それって……気持ちいいのか?」

「何言ってんだよ。最高に決まってんだろ!」


 雄二によると、キャシーちゃんのふくよかなボディは物凄く柔らかく、触ってよし、揉んでよし、包まれてよしの三拍子揃っていることが最大の魅力だという。

 プレイの方も、その豊満な体を惜しげもなく使って男を優しく包み込んでくれ、受ける側は、まるで異次元に誘われたかのような全包囲からの快楽に溺れてしまうのだという。


 そんなことをキラキラとした目で語る雄二に、俺は思わず頭に浮かんだことを口にする。


「なあ……よかったら今度から雄二から慎二って名前に改名しないか?」

「何だよ。突然……嫌だよ。そんなギャルゲー主人公の親友みたいな名前は」

「そうか……」


 君が望むなら永遠に慎二と名乗ってもらおうと思ったが、どうやらお気に召さないらしい。

 いきなり訳の分からないことを言い出した俺に対し特に気にした様子もなく、雄二は女の子の説明を続ける。


「それで、ついでだから教えてやるけど、キャシーちゃんの隣にいる猫耳の子が、この店で一番人気のレンリちゃんだ」


 そう言う雄二が指差す先には、俺たちには目もくれず、爪の手入れをしている少しキツイ印象を受ける女の子がいた。


「彼女は一見するとキツそうに見えるけど、ベッドの上では一転してめちゃめちゃ甘えてくるんだ。そのギャップがもう……」

「ということは、お前もあの子が目的なのか?」

「いやいや、ナンバーワンに手を出すほど、俺は自惚れていないよ」

「そ、そうか……」


 雄二に自惚れという概念があったことに驚いたが、どうやら奴のお気に入りの女の子は別にいるらしい。


 その後も、雄二による女の子紹介は続く。

 羽の生えた鳥人族の子はあそこが小さくて締まりが最高だとか、下半身が蛇のラミアの女の子は舌使いが巧みだとか、一人一人丁寧に説明していく。


「どの子も本当に最高だけど、この店は他にはない最高のオプションがついているんだよ」

「……何だよ」

「人間と亜人種の間には、ゼロではないが、ほぼほぼ子供ができないらしい」

「……だから?」

「わからないか? 子供ができないってことは、避妊をしなくていいってことだ」

「ああ……」


 雄二の言いたいことがようやく理解した。

 おそらくそれが、彼がここに足繁く通う最大の理由なのだろう。

 金に余裕がないので行ったことはないのだが、この街の歓楽街にある店の基本的なルールは、日本のそれと大差なかったはずだ。


 この店が歓楽街にはいない亜人種の女の子を雇い、こんな裏通りに店を構えているのも、ここが所謂、表には出せない裏の店だということだろう。

 雄二はかなりの頻度でこの店に通っているようだが、果たして大丈夫なのだろうか?

 少なくとも入口でネームタグを渡しているからそう簡単に足がつくとは思えないが……、


「はいは~い、俺、ラビィちゃんを使命しま~す」


 俺がこの店の危険度について考えていると、雄二が勢いよく手を上げながら底抜けに明るい声で宣言する。


「ねっ? 皆さん、いいですよね? 俺、ラビィちゃんじゃないと嫌ですからね」

「……ったく、わかってるよ」

「たまには他人に譲るとかないのかお前は……」

「ハハハ、すみませんね」


 周りからの顰蹙もなんのその。雄二はお目当ての女の子だというラビィちゃんという女の子に向かって突撃していく。


「ラビィちゃん、捕まえた」

「きゃん、捕まっちゃった」


 雄二にお気に入りのラビィちゃんは、長いウサギの耳を持つ金髪ボブカットの可愛らしい女の子だった。

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