第149話 怪しいお店の女の子たちは……
雄二の言う通り、中は外観とは打って変わってかなり整備されていた。
暗い廊下は、数メートルごとにある燭台に灯された蝋燭によって十分な明るさが確保され、床は硬い石ではなく白いフカフカの絨毯が敷かれている。
そんな整備された廊下を十メートルぐらい歩いて角を曲がり、尚も数メートル進んだところで、俺はこの情景を何処かで見たような気がしてくる。
すると、隣に並ぶ雄二が話しかけてくる。
「ヘヘッ、何だかダンジョンRPGみたいで面白いだろ?」
「そうだな……」
狭くて暗い一本道に、直角の曲がり角。それは正にダンジョンRPGの主観視点で進む3Dダンジョンと非常に酷似していた。
「この通路も、不埒な輩を逃がさないための策の一つらしいけど、俺としてはこれも浩一に見せたかったものの一つだよ」
「そうか」
この先に待つものが、まだ見ぬボスやお宝だったらそれなりにワクワクしたのかもしれないが、男の欲望を体現した風俗店だと思うと、素直に喜んでいいものかわからなかった。
3Dダンジョンのような廊下を進んで更にもう一つ角を曲がり、その先にあった階段を上ると、ようやく違う景色が飛び込んできた。
そこは六畳間ほどの小さな小部屋だった。
中は四隅に置かれたカンテラによって室内全体がしっかりと見渡すことができ、客と思われる男たちが十人程度、思い思いの格好でくつろいでいた。
室内には奥へと続く扉が一つ、そして壁の一角には大きな紫色のカーテンがかけられており、男たちはその正面を避けるように座っていた。
一体、あのカーテンの向こうには何があるのだろうか。
「よう、ユージ。今日も来たのか?」
カーテンを呆然と眺めていると、雄二の知り合いと思しき人物が手を上げて声をかけてくる。
冒険者なのか、手足に無数の傷跡がある男は、呆れたように微苦笑しながら話す。
「お前、よく毎日飽きもせずここに通うな」
「ヘヘッ、だってここには俺のイチオシの子がいますからね」
「……お前、本当に物好きだな。それで、今日はお仲間も連れてきたのか?」
「ええ、こんないい店。紹介しない手はないでしょう」
「そ、そうか……お前、本当に物好きだな」
自信満々に告げる雄二に、男はやれやれとかぶりを振りながら、雄二の後ろにいる俺へと目を向ける。
「なあ、あんた、災難だったな。大方こいつに強引に連れて来られたのだろう?」
「ええ、まあ……」
「だろうな。まあ、今さら言う必要はないかもしれんが、言いたいことがあるなら、こいつには遠慮なく言った方がいいぞ。すぐに調子に乗るからな」
「……知ってますよ」
俺が肩を竦めながら言うと、男は一瞬だけ驚いた顔を見せるが、すぐさま破顔する。
「ハハハ、そうか。あんたも十分こいつの被害に遭ってるってことか」
「ちょっと、それってどういう意味ですか!?」
「何ってそのままの意味だよ」
興奮する雄二を、男が手を振りながら諫めていると、
「皆様、お待たせしました」
奥へと続く扉が開き、入口に立っていた者と同じ、全身をすっぽりと隠すフードの人物が現れる。
この服装は、この店の制服か何かなのだろうか。
とことん素性を隠そうとする店員たちを見て、少なくともこの店は真っ当な店ではないのではないか。そう思っていると、壁一面を覆い隠していた紫色のカーテンがスルスルと音もなく開く。
今まで隠されていた部分が露わになると、全員の視線がそちらへと向かう。
カーテンの先は、こちらより大量のランタンによって煌々と照らされた広間となっており、この店に所属していると思われる女の子たちが座っていた。
「うひょー!」
「よっ、待ってました!」
待望の女の子たちの登場に、客の男たちが一斉に沸き立つ。
だが、それも無理はないと思う。
雄二が絶賛していた通り、この店の女の子たちはどれもかなりレベルが高いと思う。
気のせいか一人、縦にも横にもデカい女の子がいるが、それ以外の女の子は街中で見たら思わず振り返るほどの美人揃いだ。しかも、全員が見るのも憚られるような薄着で、色々と零れ落ちそうだったり、あちこちからはみ出してしまいそうだったりで非常に目のやり場に困る。
さらに、女の子の頭にはウサギや犬、猫を思わせる獣の耳や、可愛らしい角がついていたり、天使の羽や尻尾といった…………、
「――えっ!?」
女の子たちを観察していた俺は、思わずこれまで見た女の子たちの頭部と臀部を二度見する。
何度見ても間違いない。彼女たちには獣の耳や尻尾といった人間とは明らかに違う器官を持っていた。
「どうだ、浩一。気が付いたか?」
驚き、固まる俺に、得意気な笑みを浮かべた雄二が話す。
「浩一は知らなかったかもしれないが、この街にもやっぱり亜人種はいたんだよ。んで、ここは、そういった子と遊べちゃう店ってわけだ」
「そ、そうなんだ……」
亜人種がいるのは随分前から知っていたのだが、それを言うとややこしいことになるので黙っておくことにする。
それにしても……一つ隣の部屋にいるのは、ウサギの耳を持つ女の子に、鳥のような白い翼と足を持つ子。犬や猫の耳と尻尾を持つ子もいれば、牛のような角を持ったとんでもない巨乳の巨漢の子など、非常に多種多様な種族の女の子たちがいるも凄いと思ったが、それ以上に気になることがある。
「なあ雄二。一体、何処にこれだけの亜人種たちがいるんだ?」
「えっ、知らねえよ。どっかからお忍びで来てんじゃねぇの?」
「お忍び?」
「そうそう、聞いた話だけど、亜人種ってだけでこの街じゃ差別されるみたいだからな。ここにいる子は、街の外からひっそりと入って来てんだと思うよ」
「そうか……」
全く気にした様子のない雄二に対し、俺の頭の中では様々な感情が入り乱れていた。
少なくともグランドの街に来て一か月、街の中で人間以外の種族を見たのは、食材を買って来てくれと頼んできたフードの女性以外は見たことがない。
あの時、彼女は自分のことを冒険者と言っていたが、今思えば彼女は自分の立場を偽って俺に買い物を頼んだのだろう。
あの時の彼女と再び出会う時があるのだろうか。
「…………ん?」
そんなことを考えていると、女の子の内の一人が物凄い顔で俺の方を睨んでいることに気付いた。
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