第37話 プランBへ

 浩一の無事を確保するため、雄二はサイクロプスにウォークライを使いながら中庭へと向かっていた。


「はぁ……はぁ……」


 重い鎧を脱ぎ捨てても、ハルバードと大盾を抱えながらの移動は本当に苦しく、ゲーム内であったチートスキルを付与してくれたのならば、それぞれのキャラクターが持っていた基礎能力も付与してくれよと雄二は思う。


「クソッ……こんな命を賭けるような事態になるなら、こんな世界に来なかったのによ」


 異世界へと渡るかどうかの選択を迫られた時、浩一の意見を聞かずに泰三を説得して、一足先に異世界へと渡る決断を下したのは雄二だった。


 浩一に意見を求めたら、絶対に反対されるということはわかっていたからだ。


 何故なら浩一は、自分や泰三ほど現実に絶望しておらず、異世界へと渡る情報を持って来た時も、最後まで半信半疑で、雄二たちに引っ張られる形でしぶしぶ了承したに過ぎない。


「あいつは……俺たちと違って現実に絶望なんかしてなかったのにな」


 その負い目があったため、サイクロプスを惹きつける囮役を買って出たのだが、さっきは危うく浩一が死んでしまうところだった。

 浩一が死んでしまったら、最早サイクロプスを倒す術はなくなってしまうだろう。

 泰三の能力も強力ではあるが、一撃でサイクロプスを倒すことができるかは微妙だし、何より本人が臆病で荒事に向いていないので、あの化物を殺すなんてことはできないと雄二は考えていた。


「中庭で足止めすれば……ワンチャンあるはずだ」


 死角が多く、二階のベランダから攻めればサイクロプスの上半身への攻撃も不可能ではない中庭へと誘って、そこで勝負を決める。

 具体的な作戦はないが、浩一ならばきっとどうにかしてくれる。もう何年も付き合っている親友を信じて、雄二は中庭へと駆け足で急いだ。



「と、戸上君……どうだった?」


 雄二が中庭に足を踏み入れると、不安そうな顔をした泰三が尋ねてくる。


「浩一君が入口であいつを迎え撃つって言ってたけど、どうなったの?」

「はぁ……はぁ……入口では失敗した」

「えっ、それじゃあ浩一君は……」

「大丈夫だ。死んじゃいない」


 一瞬にして涙目になる泰三の頭を軽く叩きながら、雄二は中庭の入口を睨む。


「だけど、すぐさまあの化物がやって来るぞ。こうなったらプランBだ」

「えっ、そんなのあるんですか?」

「あ? ねぇよそんなもん」

「戸上君……」

「冗談だ」


 呆れた顔を見せる泰三に、雄二は背負っていたハルバードと大盾を装備しながら話す。


「ここなら奴の背後を取りやすい。だからここでどうにか奴を抑えて、浩一が来るまでの時間を稼ぐぞ」

「時間を稼ぐって、僕もそれやるの?」

「当たり前だろ。俺たちが浩一を巻き込んだんだ。あいつをこんなところで死なせないためにも、いい加減泰三も腹を括れ」

「……わ、わかりました」


 浩一を巻き込んだ。それは、密かに泰三も思っていたことだった。


「僕と戸上君で、どうにかあいつの足止めをしましょう」

「ああ、ゲーマーだってやる時はやるって姿を見せてやろうぜ」


 雄二と泰三は頷き合って拳を合わせると、聞こえてきた地響きに対して身構えた。




 程なくして、中庭に入る入り口の扉が爆発するように吹き飛び、サイクロプスが現れる。


「……ん?」


 姿を見せたサイクロプスを見て、雄二は眉を顰める。

 顔から表情がわかるわけではないが、明らかに怒っている様子のサイクロプスの頭から紫色の血が一筋流れていたのだ。

 それを見た雄二は、思わず苦笑してしまう。


「おいおい、まさか浩一の奴、あの化物に一発かましてやがったのか?」

「えっ、でも……一体どうやって?」

「方法なんてどうでもいいじゃないか。それより、これは俺たちにも奴にダメージを与えられるっていう浩一からのメッセージに違わないと思わないか?」

「た、確かにそう言われれば、そんな気もしないこともない……ですが」

「そうだろう? 俺たちにも奴にダメージを与えられるんだ。それだけでもわかれば、俺たちだけで勝てる目もあるということだ」

「そうかも…………いえ、そうですね。僕たちだけでも勝ってみせましょう」

「ああ、その意気だぜ」


 本当はサイクロプスによる自滅による怪我なのだが、それを勝手に好意的に解釈した二人は、迫りくるサイクロプスに立ち向かう勇気を手に入れたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る