第24話 スキル考察
「ああ、ダメだあああぁぁ!」
三人で力を合わせて何度目かの挑戦の後、全く手応えのないことに雄二が先ず音を上げ、その場に大の字になって転がる。
「もうこれ、どうなっているんだよ。壁の中に入ったら何をやってもビクともしないじゃないか……泰三のスキル、チート過ぎだろ」
「いやぁ、それほどでも……」
「いやいや、褒めてねぇよ!」
思わず照れる泰三に、雄二が寝たままの姿勢でツッコミを入れる。
「褒めて欲しかったら、もう一度同じスキル使って、この槍抜いてくれない?」
「う~ん、そうしたいのですが。それは難しそうです。実は、引っ張っている最中に何度かスキルを使って抜こうと試みたのですが、うまくいかなかったんです」
「それってスキルのクールタイムだったんじゃないのか?」
「いいえ、それはなさそうです」
雄二の疑問を、泰三はすぐさま否定する。
「僕たちが使うスキルにクールタイムなんてないようですよ。使おうと思えば、際限なく使えます」
「そう……なのか」
「本当です。よかったら試してみてください」
「……わかった」
泰三の言葉に俺は槍から手を離すと、目を閉じてアラウンドサーチを使う。
自分から敵をサーチする波が広がるのを確認し、周囲に俺たち以外の反応がないのを確認してスキルを閉じると、間髪入れずに再び目を閉じてアラウンドサーチを使う。
すると、脳内に再び波が広がっていき、さっき見た場所と同じ場所に赤い光点が刻まれていくのを確認する。
「なるほど……」
確かに泰三の言う通り、スキルの使用にこれといったクールタイムはなく、任意のタイミングで自由に発動できるようだった。
そうなると今度は、こんな強力なスキルを際限なく使いたい放題できるのかどうかが気になってくる。
そう思った俺は、今度は移動しながら今度はスイッチのON、OFFを切り替えるように連続でアラウンドサーチを使う。
だが、
「…………あれ?」
これまでと同じようにスキルを使うと頭でイメージしてみるのだが、何も起きない。
これは一体、どういうことなのか。
何かミスがあったのかとあれこれと自分の様子を確認してみるが、生憎とゲームのように何が起きたのかを知らせてくれる表示は出てこない。
「浩一君、もしかしてスキルが発動しなくて困っていますか?」
すると、俺の心を見透かしたかのように泰三が話しかけてくる。
「アラウンドサーチが出なくて困っているのであれば、その理由は発動条件を満たしていないからだと思いますよ」
「どういうことだ?」
「はい、僕たちが使えるスキルの発動には特定の行動が必要なんです」
そう言いながら泰三は、先程スキルを使った一連の行動、弓を引き絞るような動作を行う。
「例えば僕のディメンションスラストは、槍を持った状態でこの一連の動作を行うことによってスキルが発動するのです」
「なるほど……特定の条件を満たさないとスキルは発動しないのだな」
「そうです。そして、浩一君のアラウンドサーチは、おそらく目を閉じた状態ではないと発動しないのだと思います」
「そういうことか」
泰三からのアドバイスを聞いた俺は、目を閉じてアラウンドサーチを使ってみる。
すると、今度は間違いなく敵をサーチする波が脳内に描かれるのが確認でき、ホッ、と一息つく。
俺は先程アラウンドサーチを使おうとした時、少しでも違う結果になるようにと歩きながらスキルを発動しようとした。
当然ながらその時の俺の目は開いていたので、スキルが発動しなかったということだ。
そして、どうやら目さえ閉じていれば発動条件は満たしているようで、どのような姿勢を取っても、スキルは問題なく使えるようだった。
ただし、泰三のディメンションスラストは、手に武器を持った状態でないと発動できないようで、壁に埋まった槍は既に武器とみなされないのか、スキルを使って壁から槍を引き抜くということはできないようだった。
だが、強力な反面、スキルの発動に関しては意外に融通が利かないということをこの場で理解できたのは大きいだろう。
こうなると俺のアラウンドサーチにも目を閉じる以外にも、何かしらの制約もあるのかもしれない。
そう思った俺は再びアラウンドサーチを使用する。
すると、俺の脳内にこれまで雄二と泰三の二人以外の新たな赤い光点が生まれる。
しかも今度は一つではなく、複数の光点が確認できた。
「――っ、雄二、泰三」
新たな敵かもしれない者の出現に、俺は目を閉じたまま鋭い声で二人の名前を呼ぶ。
その声に、二人もただならぬ気配を察してすぐさま表情を引き締める。
「浩一、敵は何処だ……数は?」
「数は五……六……いや、どんどん増えていく」
「そ、そんな……それだけの数が一体どこから」
「場所は……」
俺は目を見開くと、泰三が突き刺した槍の方を指差す。
「外だ。どうやら中庭に集団が現れたようだ」
そう言って俺は、この部屋の唯一の外へと続く小窓から外を覗いた。
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